第7話
だから決めた。
ユミの話に寄ると今回の結婚は彩音の本意ではない、と言うことらしい。親に無理やり見合いをさせられ、見合い相手は彩音の家柄にひけをとらない大金持ちで、しかも彩音に一目惚れしたらしい。そこから結婚話は彩音の意思を無視してとんとん拍子に進んでいったとか。
式場はユミから前もって聞いてあった。式開始の1時間前、俺は式場のスタッフを装って彩音の控室に向かった。
扉を開けると、全体的に白っぽい生地に金や赤と言った豪華な刺繍が施された打掛姿の彩音の後姿が目に映った。
何年かぶりに見るその姿は、俺の中で止まったままの姿だったが、でも確実に時間は流れていて
俺が知るどんな彩音よりも一番
美しかった。
鏡台の前で紅をひいていた彩音と鏡の中で目が合った。
けれどそれは一瞬のことで、彩音はすぐに重い打掛を翻しながら
「会いたかった」
たった一言言って俺の胸に飛び込んできた。いつかの……それは11年前のあの屋上と同じ―――
「俺も。お前に会いたかった。
結婚なんてするなよ。それじゃ空蝉と同じじゃねぇか」
「私は空蝉にはならない。
見せてよ。私に新しい世界を」
彩音の提案に俺は迷うことなく、大きく頷いた。
「新谷となら一緒ならどこでも行けるよ」
それから、俺たちは手に手を取り合って式場から駆け出した。まるで古い映画のような陳腐で浅はかだったが、それでも楽しかった。
式場を飛び出す際、
彩音の家族や親族、それに恐らく新郎である男に見つかったが、それを横目に流しながら、ひたすらに彩音と手を繋ぎ、無我夢中で走った。彼らが追いかけてきたが
着物の裾を片手でたくし上げ、足袋のまま走る彩音は笑って振り切った。
「いつかの、あの夜みたいだね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます