第3話
彩音は答案用紙を握ったまま、その答案用紙を屋上からグラウンドに続く地上へ豪快にバラまいた。別に下に居る連中に俺の成績を知られたところで何とも思わないが。
ついで彩音は屋上の壁……と言うにはあまりに低いその場所をよじ登り両手を広げた。
何をするつもりなのか無言で眺めていたが、ふいに風になびく長い髪を押さえながら彩音が振り返った。
「ここから飛べば、あたしは遠くへいけるのかな」
その問いに
「遠くへ行きたいのか?」俺は聞いた。
「うん。ここじゃないどこかへ。あたしは籠の中の鳥だから」
彩音が言ってるのはあまりに抽象的で意味なんて丸っきり分からなかったが、彩音がどこか遠くへ行こうとしているのは分かった。それは手を伸ばしても届かない、うんと遠く……
彩音の足が一歩踏み出されたとき、何故か俺はこいつの腕を強く引いていた。
彩音がバランスを崩して俺の胸元に崩れた。
俺はその当時派手に女と遊んでいたから今更、女の感触にどうこう思うことはないが、彩音を抱き寄せたとき、何故だか離したくない、と思った。
「行くなよ」
「あんたがあたしを遠くへ連れてってくれるの?あんたの世界を見せてくれるの?」
彩音が俺の口に挟まったままのタバコを引き抜き、彩音の口にフィルターの先が含まれる。
紫煙が屋上の空を昇っていった。
「ああ、俺がお前の知らない世界を見せてやるよ。
俺のものになりな」
と彩音の髪を掻き揚げそっと囁くと、
「いいよ。だって本当はあたし、あんたが欲しかった―――」
そして校内イチ不良の俺と校内イチの秀才美女とが付き合うことになった、がいいが…
「こんなんだったら留年しちゃうよ?」
答案用紙の点数を暗記していたのか彩音は屈託なく笑った。
それはまるで太陽のような明るい笑み。
新しい世界をこいつに見せるつもりが、俺の方が見させられそうだ。
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