第27話
聞き取れるか危うい声量で、なにか引っかかる呟き。私は狼狽えることしかできない。
どうかしたのか、と聞くも速水くんは頭を横に軽く振って「いや、なんでもない」と。それ以上何かを聞いたり、呟いたりすることがなかった。
恐らく、あの口振りからして知り合いと私が似ていたのだろう。紛らわしくてすまない、と心の中で謝る。謝る必要は全くないと思うけれども、なんとなく。
「……というか、速水くん呼びはやめてくれないー? キモイ」
「え、じゃあ慎くん」
「それはもっとやめろ」
呆れたような淡々とした口調から一転、ドスの効いた声。さっきの、地を這うような声とは別格のもの。
肩が震えた。何をそんなに怒っているのかわからないが、彼にとって余程不快だった、ということだけわかった。
「……適当に慎でいい。俺も適当に呼ぶし」
私の反応を見て砕けた緩い口調になる。それに少しだけ安心した。
……なんだか、掴めないというか、独特のペースの人だな。
「で、なんだっけ。昼飯?」
「そ、そうなんだ、能登さんが買ってくれて。慎……の分もあるぞ。共有スペース行かないか?」
「……わかった、行く」
普通に話す分には特に怖くはない、かな。一応恐る恐る呼び捨てにしたけれど、眉間にシワを寄せることもなかった。
部屋から出てきた慎の銀色の髪の毛がふわりと舞う姿は綺麗で見とれてしまう。
白と銀と青。青空みたいな色合いで爽やかだ。
「あんま見ないでもらえるー? 金取るよ」
猫目を細めた慎に睨まれる。また不快にさせてしまった。
「す、すまない。銀髪と青い目、初めて見たものでつい」
「……あっそ」
ふいと逸らされる顔。横顔も綺麗な人だな、と。また凝視しかけ、慌てて顔を逸らす。
明津先輩とは違った明らかな壁。しかも巨大なやつ。彼と上手くやっていける自信がないんだが……。
「あれー、慎と祐希だ。どうしたの?」
と、気まづい雰囲気を打ち破る救世主、琳が現れた。どうやら三階の人たちへ配達し終わったようだ。
ニコニコと明るく朗らかな琳と見るからに不機嫌オーラを放つ慎。正反対すぎる二人が並ぶと私のぬぼっとしたド平凡さが逆に隠れる。
私たちのなんとも言えぬ空気感を察したのか琳はムッとした顔(とても可愛い)で慎に詰め寄る。
「慎、祐希のこといじめた?」
「してないから」
「祐希、ほんとにされてない?」
「さ、されてないされてない」
「そっかー。ならよかった」
慎が「俺の言葉で信用しろや」という顔で睨みつけてるというのに、琳は私に向かってにぱーと笑う。可愛いのだが琳の心臓に毛でも生えているのだろうか、凄まじい精神力。
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