第26話

「あのさぁ芽吹」


「まこちゅん怒ってる?」


「ドンドンドンドンドンうっさいんだけどー? そんなにアームロックくらいたい?」


「おいおいおい怒らないで〜。ほら、天下のマック様が待ってるから、な? まこち」


「断罪」


「散ッ‼」



 絶妙に話が噛み合わない二人(というより速水くんが合わせようとしてない)だったが、明津先輩が目にも留まらぬ速さですぐ横の共有スペースまで駆け抜けた。


 てっきり速水くんは追いかけるかと思ったが、明津先輩目掛けて伸ばした手がくうをかいただけで、追いかけることはしなかった。



 ……まこちゅん。ずいぶんと可愛らしいあだ名で呼ばれているようで。



 なんとなく私の中で呼ばれていたあだ名を反芻した。



「……で、あんたは——」



 くるりと。私の方を向いて声をかけてきた速水くんと目がかち合う。


 あの冷たい目を思い出し、加えて明津先輩に投げられた刺々しい言葉。いったいどんな攻撃的な言葉が飛んでくるんだと身構えた。


 しかし。二秒経過しても、何もなし。驚いているような、考えているような、そんな顔をして口をぽかんと控えめに開けたまま。


 不審がる私にハッと我に返った様子の速水くんが、青い目をじっとりさせて小さな口を開く。



「……俺たち、昔どこかで会ったことある?」



 速水くんが小首を傾げている姿が少し可愛いな……と思うもその事はすぐさまデリート。さっきの反応からしてなかなか気難しい人だ、私がデリートされかねない。



 私がえっと、と言葉に詰まっていると「早く答える」と急かされてしまい慌てて脳みそから最適な言葉であろうものを引き出していく。



「……ないと思うぞ? 速水くんみたいな綺麗な容姿の人、一度会ったらそう簡単に忘れない」



 ……言い終わってから、これは口説いているように聞こえるのではと思ったが速水くんは眉間にぐっとシワを寄せるだけで特に非難を浴びせてはこなかった。



「……あの頃高校生だった人が今も同じ姿で、高校生な訳ないか」

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