第12話

階段を上がると、部屋に繋がるであろう扉が左右合わせて七つ、一番奥に扉が一つと並んでいるのが見えた。全ての扉の右上に部屋番号と名前のスペースがあるが、階段すぐ横の部屋には人がいないようだ。何も表記されていない。


 ぼんやり眺めていた私は少し先で寮監さん二人が鍵を開け部屋に入っていることに気づき慌てて続く。



「辻さんの部屋はここだよ〜。荷物置いとくねぇ」



 よいしょーと気の抜ける声を出しながら荷物を床に置いていく。


 ベッド、クローゼット、タンス、机椅子、カラーボックスが備え付けられている八畳くらいの部屋だ。女子寮は二人、または三人と人数が多かったのもありこの部屋よりかは広かったが一人部屋となれば話は別。八畳なら十分すぎるほど広い。


 私には妹がいて、実家では妹と同じ部屋なものだから一人部屋は何気に初体験。少しだけ胸が踊った。



「私たちは一旦離れるけど……茅野くんいるし大丈夫だよね〜?」


「だ、大丈夫、です」


「ならよーし! つるちゃん、少し付き合って〜」


「はいはい」



 ワクワクも束の間、寮監さん二人は軽く手を振って部屋をあとにした。残された茅野琳くんと私に少し沈黙が流れるも、トントンと肩を指で叩かれる。



「それじゃあ共有スペース行こ! 今なら皆いるはずだし!」



 パッと明るい笑顔を向けられて思わず立ちくらみしかけた。眩しい。向日葵のような笑顔とはこのことなんだな。動揺して「お、おう」なんて女子にあるまじき返答をしてしまったし。



 茅野くんが「こっちだよー」と案内してくれた先は、先程見えてた一番奥の扉だ。



「ここはね、共有スペースになってるんだ。みんなでご飯食べたり、あと洗濯したり、あとあと洗面所とかトイレもあるよ! ここだけ普通のお家みたいな感じかなぁ」


「なるほど」



 頷きながら茅野くんの話を聞く。扉の向こうは何やら楽しそうな声が複数人聞こえる。どれも低い声でここは本当に男しかいないんだなと思わされる。少しだけ緊張、してきた。



「祐希ちゃん。大丈夫だよ。皆優しいし、祐希ちゃんにも事情があることはしっかり把握してるから。ちゃんと受け入れてくれるよ。それに、事情について深入りはしないし、安心して」



 茅野くんが私の顔を覗き込み、優しく微笑みながら言った。同い年であるはずなのに、どこか年上っぽいというか、深い包容力に張り詰めていたものがほろほろ崩れていくのを感じる。



 ……すごい子だな。同い年なんだよな?




「茅野くん……そ、その、ありがとう」


「もー同い年なんだし琳でいいよ〜。あ、俺が祐希って呼べばいいかな? はい、祐希も俺のこと琳と呼んで!」


「り、りん」


「うん!」



 半ば強引にも感じるも、茅野くん……琳なりに私の緊張を解してくれたのだろうか。それに嫌な気分ではない。ニコニコと優しく笑っているからなのだろうか。だとしたら彼の笑顔は相当だ。笑顔で世界を救える。

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