第11話

つるちゃん、とは女子寮の寮監である敦賀さんのあだ名だろうか。寮監さん、もとい敦賀さんはヒラヒラ手を振って出迎える。ノトさんも手を振り返してる。


 ちなみに、新寮が『渚寮』女子寮が『沖寮』男子寮が『岸寮』という名前がある。正直あまり使わないが。皆『女子寮』『男子寮』『新寮』呼びだ。そしてそこには一人ずつ寮の監督者がいる。



「茅野くんお迎えありがとうね〜。おかげで事務作業なんとか終わった〜助かったよ〜」


「いえいえ。これくらいどうってことないですよ!」



 ノトさんは柔らかい笑顔を浮かべ、それにカヤノくんが溌剌とした笑顔で返す。


 ふわふわした空間だ……。二人のゆるい雰囲気にこっちまで気分がふわふわしてきそうだった。私がそうぼんやり考えていると、ノトさんとふと目が合う。



「君が辻祐希ちゃんかな〜? 初めまして。ここ、新寮もとい『渚寮』の寮監やってます、能登といいます。能登半島の能登と字は一緒〜覚えやすいでしょ?」



 丁寧な自己紹介を終えるとまたにっこりと笑った。よく笑う人だな、と思った。


 能登さんが「それじゃ荷物、ぱぱっと部屋に運んじゃおうか〜」と言いながら寮監室を寮監……敦賀さん、能登さん、カヤノくん、私の順で出ていく。


 端に寄せていた荷物を敦賀さん、能登さんは一つずつ持っていき、私も余った荷物を持とうとするとカヤノくんが「俺も持ってあげるー」と当たり前のように手伝ってくれた。優しい人ばかりで、私は少し泣きそうになった。……もちろん本当に泣きはしない。もう高校生だから。



「つるちゃーん、見て見て〜女の子が来るからねー、今晩はここの寮生全員とどこか食べに行こうかと思って計画していてね〜」


「食べ盛りの男子高校生が過半数を占めてるけど大丈夫なの? 金銭面的に」


「平気平気〜。でね、大人数で入れるところがいいなぁって思って色々探してたんだ〜」


「楽しそうにブクマしたやつ見せてくれてるねど、どこもここからじゃ遠いじゃない」


「そうなの! さすがに皆を車に乗せれないからどうしようかな〜と」


「……外食じゃない方がいいと思うよ?」


「やっぱり〜?」



 スマホの画面を見せながら和気あいあいと話す寮監さん二人を眺めつつちらりとカヤノくんに視線を向ける。目が合うとにっこり微笑まれた。ファンサをされた気分になってしまう。とても可愛い。


 下駄箱横を過ぎる時に見えた寮生のネームプレートが見える。『茅野琳』という文字に、ああカヤノくんの名前はそう書くのかと勝手に納得。りんって王林と書くやつなんだな。りんごだ、なんてとりとめのないことをぽつぽつ考えながら寮監さんについていく。

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