別れ

 閉められたドアを開け、隆至の歩く後ろ姿を目に焼き付けた。

 スーツが似合って、正義感が強くて、誠実で、仕事に一生懸命な隆至。



「隆至!」



 私が名前を呼べば、ゆっくりと振り向いてくれた。



「バイバイ! 仕事頑張ってね!元気でいてね!?」



 そんな言葉を言われたのが意外だったのか、驚いた表情になって。

 でも、ゆっくりを片手を高く上げて、「沙彩もな!」と、私の好きだった笑顔を見せてくれた。



「隆至…」



 また歩き出した隆至の背中を見ながら、「ありがとう」と小さくお礼を言う。

 隆至が出した答えに、私が責めることは出来ない。



「…っ」



 そして覚悟をしなくてはいけない。

 私の人生は、愛してもいない高森の妻を黙って演じる。

 高森と彼女の仲を裂かないようにするのと同時に、“ 物 ” として生きていく。

 孤独の戦いだ。

 泣いてる暇なんてない。



「…っ…りゅ…じ」



 水川の家に生まれなければ、普通の恋愛が出来たのだろうか――

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