第38話 いつも通り君はいない その四

 春先には拙かった、家の向かいの雑木林の鶯の鳴き声も大分熟れてきた頃のこと。

 俺は、自宅近くのコンビニで中学の同級生に会った。

 小林昌伸こばやしまさのぶという男で、ガッコと同じ高校に通っていた。中学の時、1年生の1年間だけ同じクラスで、音楽の趣味が結構俺と近くてよく話したりした。

 そういう意味では、貴重な知り合いではあった。

「いよっ!小林ちゃん、久しぶり!」

「あぁ、匠か、本当、暫く、顔見なかったな」  

「バンド、やってるの?」  

「メンツ集めんのに、苦労してて。ギターは、やってるよ聞かせたい子がいてね!」 「いきなり、惚気ちゃうの?」 

「そんなんじゃ、まだ、無いけどさ」 

「オナコ〜、の子?」 

「うん、...と、そう言やさぁ今度、同じクラスになったヤローがさ!住家さんに、最近フラれたらしくてさ。俺が、同中だって、知ってたみたいで。ガッコちゃんの片想いの男って誰?何て聞いてきやがるのさ」

「こっちは、住家さんたって名前と顔ぐらいしか知らねぇし。あぁ、そういや拓磨と付き合ってたっけ!思い出して、拓磨んこと言ったら、違う、そいつには捨てられたらしいって」 

「えっ、何?拓磨が、ガッコを捨てたって?」 

「あぁ、匠、怒った?恐え顔してんぜ?」 「いや、ごめん」 

「悪いけど、俺も又聞きだから、ハッキリとは分かんないんだ。お前、未だ、そうなのか?」 

「そんなんじゃ無いんだ、でも、俺たち仲良かったから、前はさ」 

「そうだったな、心配してんだ!余計かも知らんけど、住家さんちょっと荒れたみたいでピアス着けたり、トッポイ奴らと連んだりしたらしいよ」

「でも、そのグループの頭みたいな子が、学校辞めちゃったから。住家さんの悪い噂も聞かないし、そんな心配いらね〜って」 

「おう、ありがとうな」 

「それより、匠、野曽木君達とバンドやってるんだろ」 

「あぁ、結構、マジにやってるよ、こないだ、ライブハウスで演奏ったよ」

 適当に答えながら、頭の中、ガッコと拓磨のことで一杯になっていた。

 小林君は、気も漫ろな俺を気遣ってか?適当な感じで。

「またな、今度ライブやる時は声かけてくれ」

 と言って、別れた。

 家に帰って、部屋に篭って、ずっと考えていた。如何言う事なのか?拓磨は俺を揶揄って、弄るために去年の夏に3ヶ月の時間を掛けて舞台を用意した。

 今にして思えば、最終ステージのロケーションは、満開の花火と破裂音、最高に演出された俺の失恋!

 その中でガッコが、あの子だけが自分の思いを遂げられたと。幸せの中に居るんだと!

 それが、本物?偽物?何方にしたって俺が捧げられない物を、あの子が手にして笑っていられるなら。 

 俺に!馬鹿で無力な俺に、何も祈れるものはない。

 そうだった筈なのに!違っていたのか?

 俺が無くした陰で、あの、痛々しく縮こまっていた。

 蛍のように幽かに光っていた、あの子!

 あの子までが、無くしていたのか?

 俺は、確かめずには、いられなかった。

 拓磨に電話した! 

「よぅ!負け犬、何の用だ、お前に割く時間は、ないんだがな。昔の、嘉だ、聞いてあげるさ」 

「ったく!お前は如何しちゃったんだよ!俺を酷く弄り倒して、それで、満足じゃなかったのかよ!」 

「今頃か?今更か?巣穴に閉じ籠って、ガタガタ震えてた癖に威勢が良いな?」 

「何で、ガッコを傷つける?そんな奴じゃないだろう、お前!」 

「有難い、勘違いかな?僕も、お前と同じさ!自分の事が、一番大切なのさ!」 

「なっ!俺は...」 

「俺は、違うって!どの口が言う!1年近く放っておいた癖に!」 

「ガッコが、選んだんだ俺はそれを認めて、諦めて、......俺に何ができたって言うんだよ!」 

「それを、僕に聞くのか?お門違いだ!良いさ、認めちまえ!ガッコが、傷つき泣いていたのは、覆せないんだ。お前は、他人のせいにして自分可愛さで、巣穴に閉じ籠っていたことさえ他人事にしたいんだ」

「間違いじゃない、ガッコは自分が選んだ事で、傷つき泣いたんだから。僕は、解っている!お前とは違う!僕が、僕のために何をしたのかなんてさ!お前なんかに、僕のした事のフォローをして欲しいなんて!思っちゃいない」 

「それでも、ガッコだけは泣かしちゃいけない、解っているじゃないか?」 

「3人の出会いを憶えてるか?あの時、ガッコを泣かしたのは誰だっけな?」 

「ガキの頃の話じゃないか?昔の話で、胡麻化そうとするな!」

「胡麻化しちゃいない、10年後、僕たちは如何なっているかな?その時も、僕らの何方どちらかが、ガッコを泣かしているのかな?順番で言えば、匠、お前だぜ、まぁ、嬉し泣きってこともあるかな?」 

「何が言いたいのか?全然、見えないぜ!胡麻化さないで、答えろ!俺を傷つけ馬鹿にする以外に何がしたかったんだよ!」

「あんなに、痛々しい小さな生き物を苦しめてまで!お前が、欲しかった物って何だったんだよ?」 

「僕の口から、聞きたいのか?お前が、知ってる以上のことは、僕も知らないよ」 

「だから!胡麻化すなよ!俺が、何を知っているって言うんだ?」 

「まぁ、良いさ僕たちの事だ、知らない訳が無いだろう。僕は、言わない!説明も言い訳も」 

「あぁ、そうだった、お前が、ガッコを捨てた事を、それだけを、確認したかったんだ」 

「それなら、もう切るぜ、電話」

「いや、ちょっと、待て!俺は、如何したら良い?」 

「忘れろ、とは、言わない、僕とガッコの事を。忘れちゃいけない!僕とガッコのした事を。その上で、その上でだ、ちゃんと、ガッコを受け止める事が出来るなら、お前が迎えに行け。まぁ、お前が行くより、ガッコがお前を迎えに来るぜ、きっと!その時は、腹を決めて受け入れろ!何時までも、巣穴から出られないんじゃ子ウサギちゃんも、干からびるぜ」 

「ん、だよ、それ!子ウサギちゃんて?」 「お前の、ことだよ!」 

「だから、さっきから巣穴、巣穴って言ってたのか!ふざけやがって」 

「ふざけちゃいないさ、巣穴でガタガタ震えてるから、ガッコの泣き声も聞こえないのさ!」 

「分かったよ!何で、お前に説教されてんのか?納得いかね〜」




 閑古路倫で御座います。この度、急に新しいネタを思いつきました。「時雨しげる君は、50年後に委員長(死神になった)の腕の中」(仮題)です。(ライトノベル意識してます!)準備でき次第、リリース致します。「コットンキャンディ」と並行して連載します。近日中にリリース致します。定年老人のラブコメです。気持ち悪いかも?楽しみにして頂ければ幸いです!

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