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僕は昼に寝て、夜、親が寝静まってから活動するようになった。親の顔を見たくなかったからだ。こうやって人はどんどん道を踏み外して行くのだろうかと思った。絵に描いたような引きこもりへの転落に、自分自身が驚いていた。
僕は最初の頃にしていた自習をすることも止めて、ただミステリを読んだり、稚拙な音楽を作って過ごした。本は、ミステリ以外はほとんど読めなかった。僕はなぜ自分が、小説というジャンルの中で、特に文学としてしばしば一段下に見られる——『人間が書けていない』という常套句で——ミステリが好きなのかなんとなく分かった気がした。つまるところミステリというのは、特に完成度の高いミステリと呼ばれるものは、謎の足し算引き算を行って、本が終わるときにそれがゼロになっているものこそ優秀なものなのだ。乱暴に行ってしまえば、例えば文学が目指すような、読み終わった読者の中に何かを残すような方向性とは真逆なのだ。読んでいる最中に読者に様々な謎を与え、混乱させても、読み終わるときにはそれを「きれいさっぱり」失くしてこそ優秀なミステリなのだ。
もちろんこれは暴論で、様々な例外はあるし、ミステリはトリックやロジックだけでできているのではない、それが小説である以上物語であることからは逃れられない。
だけれど自分が惹かれているのは、自分がどれだけ混乱させられても、颯爽と現れた名探偵が、それを全て拭い去ってくれるからだ。
そしてそれが、今まさに自分が求めていることだった。だけれどどんな名探偵でも、僕の化け物は退治することができないだろう。
深夜にヘッドフォンを着けて画面と向き合い、DTMのソフトを弄る。音楽は小説とは真逆だ。言葉が全くないものなのに、なぜ感情を伝えることができるのだろう。なぜ人はあるメロディーを聴いたとき、それが「悲しいもの」だと理解するのだろう。そこには言葉も、映像も全く無いのに。
だからこそ、今音楽は自分にとって最も最適なツールなのかもしれなかった。僕の中のものを吐き出すには、言葉や映像ではダメだと思った。だけれど今の自分は未熟すぎて、この化け物を表現することなどとてもできなかった。そして仮にそれを完璧に音楽で表現できたとして、聞いた人はそれをどう理解するのだろう。多分それは、ただの雑音になる。
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