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音楽にコード進行というものがあること自体僕は知らなかったし、ましてやそのコード進行というものがパターン化していて、同じコード進行が様々な曲に使われているということを聞いたときは、驚くというよりもがっかりした。
特に自分が好きだった曲が、極めてありきたりなコード進行に基づいて書かれていることを知ったときは「お前のセンスは凡庸なんだ」と告げられたような気がしたものだ。
だけれども小説だって、ある程度話の展開にテンプレートがある。特に僕の好きなミステリはそれが顕著だ。そして僕は、いわゆる例えば『クローズド・サークル』ものと呼ばれるような、分かりやすいテンプレートに則ったミステリを好んでいた。
コード進行には著作権は無いという。ある有名な曲のコード進行を敢えて拝借して作曲した、ということをインタビューで語る人もいる。もちろんだからと言って、盗作は許されない——この線引きは非常に曖昧だが、今はその話は関係無い。
同じようにミステリでも、例えばかの名作、『ABC殺人事件』をモチーフに作品を作る、なんていうのはよくある話だ。
いずれにせよ、そこには何か明確な「形」が存在している。ゼロから「形」を作り上げるのでは無く、「形」にオリジナリティを足していく。これは僕が抱いていた「何かを作り上げる」という行為のイメージとは真逆だった。そして僕は、その「真逆」の作品に惹かれることが多かった。
確かにミステリでも、革新的な作品というものがごく稀にある。しかしそういったものを読むと僕は、「これはミステリなんだろうか」と、真っ先に思ってしまうのだ。
僕が求めているのは「形」なのかもしれない、と思った。
僕はいわゆる「カノン進行」を使って、初めて曲を作った。どこかで聴いたことのあるような曲だ。だけれど、聴いていてとても居心地が良かった。
ゼロから作り始めるのでは無い、「形」から入るということ。
僕は安っぽい電子音に耳を澄ましながら、スマホを手に取った。
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