8
「腐女子ってどう思う?」
僕は箭内に、相当な勇気を持って聞いてみた。
「ああ、別に良いんじゃない」
箭内はあっさりと答えた。
「人の趣味にどうこう言える立場じゃないから、俺はさ。まあ知り合いにはすごい嫌ってる人もいるけど」
やっぱりそういう人もいるのか。
「嫌ってる人は、何が嫌なの?」
昇が昼食の焼きそばパンを口に含みながら訊く。
「うーん、多分単純に、女子がおかずにされて嫌なのと同じなんじゃね? 本人に聞いたわけじゃないけどさ」
君たちも妄想のネタにされてたよ、とはとても言えず、僕は黙ってツナサンドを食べた。
「まあでも若い人ほどあんまそういうの気にしてない感じかなあ。そういう漫画、実際に俺も読むし」
「読むのかよ」
昇が半笑いで突っ込む。
「ほとんどありえねーって展開のばっかりだけどな、ときどき結構良いのもあるんだよ」
僕の頭の中に、いくつか漫画のタイトルが浮かんだ。箭内もそれを読んでるだろうか?
「あれは読んだ? 『空想少年』」
気がついたら聞いてしまっていた。最近そういう話をすっかりしなくなったから、誰かと共有したかったんだと思う。
「え、何朗そういうのも読むの?」
昇が笑った。「どんだけ守備範囲広いんだよ」
「中学の親友、女子なんだけどさ、そいつが無理やり僕に読ませてきたんだよ」
「あれかあ、あれは結構好きだったなあ。展開が自然だったな」
僕は久しぶりにそういう話ができるのが嬉しくなってしまった。
「そうそう、展開がすごい良いよね」
「二人が付き合うまでの流れが良くできてるんだよな。何気ないとこがちゃんと伏線になってて、あとから読むとああ、ってなるんだよな」
「そうそう、保健室でのやりとりとかが読み返すとちゃんと効いてるんだよね」
「あーあのやりとりはな、泣けるな」
「なんだよ二人で盛り上がってさー」
昇が拗ねると、
「貸してやろうか?」
と箭内が言った。
昇はしばらく考えて、
「……いや、いいわ」
と言った。まあ、そりゃそうか。
「まああとやっぱ学生同士の話だから、身近に感じたってのはあるなあ」
さらりと言ったその言葉が、僕には衝撃だった。そうか、箭内にとってはあれはファンタジーじゃなくて、もっとリアリティのあるものなのか。僕は箭内と同じ漫画について話していたはずなのに、全く噛み合っていなかったのではないかという気持ちになった。そんな僕の衝撃を他所に、箭内は話を続けた。
「じゃああれ読んだ? 『ハッピーエンディング』」
「読んだ!」
好きだった漫画だ。後半ほとんどずっとしてたけど。
「あれはエロかったわ、何度も使ったよ」
僕は再び何も言えなくなってしまった。そうか、やっぱりそういうものなのか。そうだよね、エロかったよね、と言う訳にもいかず、僕は他の漫画の話題を持ち出して誤魔化した。昇はずっと蚊帳の外だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます