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そうやって僕ら三人は、なんとなくつるむようになった。意外だったのは、野球部の土井くん——昇が、部活が始まってクラスの中に部員たちのグループができても、僕たちとの関係を切らなかったことだ。勿論、それ以前に比べて話す時間は減ったものの、他の運動部、例えばラグビー部なんかがそうであるように、部員たちだけで世界を作り上げるようなことはしないようだった。箭内が居ないときに、直接昇に訊いたことがある。昇はこう答えた。
「んーなんていうかさ、一つの世界だけに住むって決めるって、それはそれで結構勇気のいることだし、尊いことだと思うけど、やっぱある程度経つと慣れが生じるっていうか、まあ居心地が良くなっちゃって、その世界の外のことがあんまり考えられなくなると思うんだよな。実際、中学までは野球一筋でずっとやってて、他のことなんて考えなかったんだよ。それで受験です、ってなったときに、なんか今まで俺ってすごい狭い世界で物考えてたんだなって思ったんだよ。だから高校ではせめて通気孔くらい作っておこうかなって思ったわけ。それがお前らよ」
昇は一リットルの紙パックの紅茶を、ストローで音を立てて飲んだ。
「箭内はさ、やっぱこう、俺らと違うわけじゃん? それにあいつすげー頭良いし。あいつがどういう風にいろんなものを見てるんだろうっていうのがすごい興味あるんだよね」
そう言う昇に、自分とつるむ理由を聞きたかった。僕は、何か新しいものの見方というものを、昇に与えられているだろうか? 多分、無理だ。僕は自分自身の平凡さを嫌というほど知っていた。確かにDTMという少し変わった趣味を持っているが、それも受験が終わって始めたばかりのど素人で、他人に聴かせられる曲なんて未だに作れたことがない。
「朗もさ」
昇はスマホをいじっていた。
「なんにでも興味持つよなって俺思うんだよ。貪欲な感じがする。だって普通、楽器やったことない人間がいきなり作曲しようって思わないだろ。んで本も読むし。俺は結局自分の安全圏にいることをすごい大事にしてるけど、朗にはそれが無い感じがする」
僕は素直に喜べなかった。それは、僕自身が空っぽだからに過ぎないと、自分が痛いほど分かっていたからだ。僕が悶々としていると、野球部の部員が近くへ寄ってきた。
途端に自分が何かの外に放り出された気がする。
「土井さあ、今日の自主練、出る?」
「んあ? 出るけど?」
「なんか俺の中学の同級生の女子がさ、合コンしないかって誘ってきてて」
「マジ? その子可愛い?」
「まあそこそこ可愛いかな。ほら、あそこの女子校なんだけど」
「うはーどうすっかなー」
「お前普段真面目に練習出てるし、たまにはいいじゃん。サボろうぜ」
昇はしばらく黙っていたが、
「よっしじゃあ行くか! その代わり今回だけな。あとは部活無い日!」
「よっしゃ、じゃあ連絡しとくわ」
そう言って部員は立ち去った。昇は「合コン〜♪」と鼻歌を歌っている。
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