第20話 魔核
繰り返される激闘。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
激しい魔力消費に、体力が削られていく。
グリフォンも手傷をいくつも負い、疲労している模様。
俺は接近した後の反撃を潰す手段を見出せずにいた。
魔法戦であれば魔法防壁を張り、その一手を塞ぐことが可能だ。
しかし、打撃戦に近いこの状況では魔法の発動の時間差により、その一撃を確実に受ける羽目になる。
中距離戦に置いての武器が必要だ。
より速く、的確に相手の反撃速度を上回り、追撃を加えられる武器。
それは嘗ての現代戦に置いて、対人の主力武器となったもの。
この魔法世界とは対なる技術で構成された、平和主義者に疎まれる嫌悪の象徴。
《0.777823758971098690836901386913709613786…………》
9mm口径、無限弾倉、速射性強化、フルオート、DA《ダブルアクション》。
精密性向上、トリガープル・反動軽減。
都合の良い設定をてんこ盛りし、作り上げる型は言うまでもなく拳銃。
そして、その弾丸は魔力で構成されたもの、即ち――魔弾。
「これで……」
「なんじゃ、それは……」
それはこの異世界で初めて生まれた、魔法で構成された銃。
「魔銃だ!」
パンッ!
右手でトリガーを引くと、中距離から放たれた弾道はグリフォンの左目に着弾し、その片目を潰してみせた。
「グアアアアアアア!!」
半分の視界を奪うと、間髪入れずに次の手を打つ。
《0.585750913890138091309…………》
左方から回り込み、自分に追尾する様に剣を三本セットし、対敵に飛ばしてみせた。
座標固定。空間認識。
自分の片目にスコープ代わりの魔法陣を生成し、着弾点を調整する。
サムスフォワード握り、魔法剣を察知した同タイミングでもう片方の視界を奪う。
パンッ!
その弾道は完璧な軌道を描き、猛獣の隻眼へと向かった。
《5.26518975817895731523…………》
「
上空から風魔法が発動すると、その魔弾と衝突し、相殺し合う。
グサッ! グサッ! グサッ!
グリフォンの体に俺の放った魔法剣が刺さり、相手は明確に怯んだ。
「グアアアア!!」
その好機を逃すことなく、魔銃を剣に切り替えると、拘束魔法と同時にその首を狙った。
《0.358137985317891…………》
「
「これで、取った――!!」
上段から大振りで放った一撃は確かにグリフォンの首に向かっていた。
《5.875819785790513890514376436246262…………》
しかし、その一閃を阻んだのは魔法の片翼であった。
「
「……っぐ」
俺とグリフォンの間に割って入ったエルフはまるで天使の様な翼を盾に、その一撃を弾き返す。
一度、剣を引きと距離を取る。
「そんなもんまで隠し持っていたとは……」
「っふん! 今日はここまでじゃ。なかなか良い戦闘じゃった」
グリフォンは今にも倒れそうな程、傷を負い、こちらを警戒している。
「殺すつもりでやれと言ったのはそっちだぞ」
「構わぬ。だから、止めたのじゃ。最後の一撃は、確かにこやつに入っておったわ」
「そうか……」
「お主は戻れるな?」
「ああ、大丈夫だ」
ロッテはグリフォンに風魔法を使い、そのぐったりとした巨体と自分を浮遊させ、イリスの元へと戻っていった。
戦闘の後の静けさが気持ちを冷静にさせる。
俺は今日の戦闘で得た経験と魔法の感触を確かめながら、彼女達の待つ草原へと向かった。
「一哉、戻りましたね」
「ああ」
イリスがボロボロ俺の姿を見ると、すぐに歩み寄り回復魔法を放った。
「ありがとう」
「いえいえ」
この短時間で既にグリフォンの刺傷は塞がり、万全な状態に戻っていた。
流石だ。
「しかし、あの玩具はなかなか良い魔法じゃったな。弓とは違う飛び道具とはのう」
魔銃のことか。
彼女達、異世界人にとっては画期的なもの見えたのかもしれない。
しかし、俺達からしたらあれは正しくこの世界を否定する象徴とも言える代物だ。もし、クラスメイト達がそれを見たら、きっと良い顔はしないだろう。
「あまり喜ばれたものではないがな……」
「……ふむ」
イリスの施しにより、軽い打撲と掠り傷は会話の合間に全治した。
「はい、終わりました。それでは戻りましょうか」
「了解です」
「ワシはこやつを住処まで戻してくるのじゃ」
ロッテはそう言うと、グリフォンの背に乗る。
猛獣が翼を羽ばたかせようとした瞬間、俺は声を掛ける。
「ありがとな!」
「グアア!!」
その鳴き声の後、今日の好敵手は大空へと飛び立ち、去っていった。
*
夕食前。
俺はイリスに呼ばれ、リビングのテーブルを挟み、向かい合う。
「あなたの服を処分する時、こんなものを拾いました」
彼女はテーブルに指輪を置くと、俺にそれを差し出した。
「……! 完全に忘れていたよ。ありがとう」
「これはどなたに貰った物なのですか?」
「母さんだよ。大切に持ってろって言われてたんだ」
すると、遅れて合流したロッテが部屋に入るなり声を上げた。
「それは、魔核じゃな……」
「ええ」
「魔核?」
「魔法の才そのものを捨て、結晶化したものです。そのリングに埋め込まれた宝石にその魔法数が宿っています。この世界では倫理的に禁呪とされてる代物です」
「それって……」
唐突な投げ込まれた疑念に俺が動揺していると、ロッテがずばっとそれに答えた。
「うむ。つまり、お主の母は魔法、ひいてはこの世界を知っていることになるのじゃ」
「…………」
母さんがこの世界を知っている……?
そんな素振りは一度たりとも見てはいない。
「どうして……」
だからと言って、何故、俺にそんな代物を預けたのか意味が分からない。
『いい、一哉? これは大切なお守りだから、肌身離さず持つ様に』。
その指輪を渡された時の記憶が蘇る。
「……これは、この世界ではどんなことを意味するんだ」
「この世界の魔法の価値は知っていますね。あなたが異端者として迫害された様に、あって当たり前の物を自ら手放すことになります」
「そうじゃな。お主の世界で例えるなら、見る為の視力、歩く為の歩行能力、聞く為の聴力、話す為の発声能力、そのいずれかを失うに等しいのう」
「そうか……」
母さんの真意が確認出来ない以上、考えられる可能性はいくつもある。
だが、今はその授かった力を最大限使わせて貰うしかない。
それ程、貴重な物だとは知らずに無下に扱っていた自分に後悔する。
俺は指輪を受け取るとその魔法数の宿った貴重品を、今度こそ失くさない様に指に深く嵌め込んだ。
「きっと、あなたを護る為にその力を授けたのだと思いましょう」
「ああ、そう思いたい……」
「その魔核、どの属性かはよ調べてみよ」
浮かない顔をする俺に対して、ロッテはすぐにそれの真価を確認するよう告げる。
「どうすればいい?」
「7属性を思い浮かべて、弱い魔法をかけてみよ」
俺は彼女に言われた通り、手の平を上に、7属性を順に思い浮かべ、次々に想像する。
不発が続く中、その魔法は具現化した。
《5.01153153…………》
手の平で微風を放つ小さな魔法。
「風か。よい、明日はそれの習得じゃな」
俺は新しい力に驚きを見せながら、その授かった魔法を我が物とする為、次の日の修業を待ち望んだ。
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