53:ガーゴイル戦
2度目の行軍だからか、最初よりかなり速く目的地に着いた。例のオバケ豆の周囲を通る時は、近づきすぎないように警戒しながらだったけど、会敵なんかもなく。運が良いのか、あるいは思ったより能動的に襲ってくるモンスター自体が少ないのか。思えばファイティングフラワーもこっちから喧嘩吹っ掛けた形だもんな。
「……手筈は覚えてるね?」
「ああ」
交戦の中で、俺がなんとかガーゴイルに一瞬だけ隙を生じさせる。そして、窓の外で待機しているエレザが、その隙を逃さず聖水を浴びせかける。
さっき戦った時のガーゴイルが部屋の外のエレザには見向きもしなかったことから思いついた作戦だった。いわばヤツの眼中にない所からの奇襲だ。効果は期待できるだろう。
「役割、本当に逆じゃなくて良いんだな?」
これも道中、何度か聞かれていたが。
「うん。直接戦うのは俺だ」
怖くないのかと聞かれれば……当然怖いに決まってる。俺が住んでた街で凶暴な獣と対峙するとしたら、運悪く野犬に遭遇するくらいだろう。
ガーゴイルにはヤツらと違って狂犬病みたいなヤバいリスクはない(あったら流石に女神さんが知らせてくれるだろうから)が、その代わり制空権がある。結局、どう足掻いても危険なのは間違いない。
そんなヤツの相手を、女の子にお願いするのはやっぱり気が引けるし、嫌だ。その子が俺より強いんだとしてもね。
「居るかな?」
建物が見える坂道の上から鳥瞰するが……見当たらないな。普段は別の場所で待機していて、宝を狙う賊が入った時に襲来するというギミックだろうか。
「……ダメそうだな。彫像みたいだったから、もしかしたら動き出す前の状態に聖水をかけられるやもと思ったのだが」
「それが出来たら、確かに超イージーだよね」
だが、そんな甘い話はなかったようで。
「……やっぱ虎穴に入るしかねえか」
「本当に無理はするなよ」
「ああ。そこは弁えてる」
今日のうちに絶対に倒さなければいけないワケではない。聖水も仮に2本とも無駄にしてしまっても、ポーラにまたオシッコを頼めば簡単に作れる。
「エレザも……頼んだよ」
「ああ。イケそうなら、積極的に投げる。予備もあるし、簡単に次も作れるんだろう?」
「うん。特に1本目は出し惜しみしなくて良い」
まあそこら辺は、戦い慣れてる彼女の勝負勘を信じるが。
大きく深呼吸。入念にストレッチをして体を伸ばす。
「行くぞ」
エレザも無言で頷く。坂を下り、建物の残骸内部へと足を踏み入れる。エレザの方は別れて、外周を進んで行った。
ひたすら奥を目指して進む。流石に向こうから潜伏&奇襲なんてことはないだろうが。それでも警戒は怠らず、一歩一歩。喉が鳴る。シャベルを握る手に力がこもり、指先が少し痛い。
「……」
遂に、あの宝箱のある部屋が見えた。ガーゴイルは……やはり居ない。ゆっくりと踏み入る。360°クリアリング。なんらの生物の気配もない。窓からエレザが覗いているのが見えた。頷き合う。
「宝箱に近付けば……」
そっとしゃがむ素振り。箱に手を伸ばして……素早く立ち上がる。再び360°を見回すと。空に黒いモヤのような物が現れていた。そしてそれが晴れると。
――ギギャー!
ガーゴイルの姿があった。急降下してくる。前回のように旋回して様子見などはしないようで、いきなりクライマックスだ。初見の動きに、対応を考え……
「ギリギリまで引き付けて避けろ!」
エレザの指示が飛んできた。吟味する間もなく、採用。ヤツの速さと、自分の動きの限界を頭の中で計算し……
「ここだ!」
横っ飛びで避ける。そのまま地面に激突してくれれば良かったんだけど、まさかの急制動! からの反転。
――ギギャ!
爪が伸びてくる。速い! シャベルで受けるが、数本が俺の二の腕に突き刺さった。ぐあ……痛え!
思いの外、懐深くまで入り込まれていた模様だ。
だがそこから、咄嗟の機転が働いた。
シャベルを持つ片手を離し、ヤツの爪の根っこ辺りを掴む。硬く冷たい石の感触。
――ギャ!?
予想外の動きだったんだろう。思わず手を引いて拘束を逃れようとしたガーゴイル。だが、俺の方が離さない。握り込む。爪の根元とはいえ、鋭利なようで、指の皮が裂けた。けどやはり、膂力自体は大したことない。俺でも押さえられる。
「エレザ!」
「ああ!」
向かいの窓から、彼女がビンを投げ入れるのが見えた。
――ガシャン!
ビンはそのままガーゴイルの背中に当たり、割れたようだ。そこから……効果は
――ギギャー! ギャ! ギャ!?
ガーゴイルが鳴き喚く。掴んでいた爪がカクンと、俺の指から抜けた。拘束を抜けられたか、と一瞬焦ったが。爪どころか手自体がヒビ割れ、砕けていくのを見て、
「こ、これは」
バックステップで距離を取る。その時にはガーゴイルの体の崩壊は半分以上進んでいて。
「あ……」
目の部分に宿っていた赤い光が消える。そして、バラバラと顔面が崩れ落ちた。胴体も同様らしく、最早ただの瓦礫の山と化していた。
「終わった……勝った……のか」
尻からへたり込んでしまう。全身の力が抜けるようだ。
「アキラ!」
エレザの呼び掛けにも、弱々しく手を挙げて答えることしか出来ない。そして、その動きで、爪が刺さった箇所に鋭い痛みが走った。
「ぐっ」
痛え。メチャクチャ痛え。
まあでも。
「ガーゴイル……討ち取ったり」
勝利の余韻もまた、格別だった。
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