52:破邪の聖水完成

 釜を持ち、家に帰る。そして先に回収していた樹液も投入すると、すぐさま「!」マークが飛び出した。素材はオッケーということだな。


「良かった。やっぱり直接採取が効いたね」


「……」


 ポーラにジト目で睨まれる。

 恥ずか死しそうな彼女を「可愛かった」と宥めすかして、なんとか機嫌は直ったハズだが、完全に元通りになるには、まだ少しかかりそうだった。


 黙って素材を混ぜる。オシッコのアンモニア臭も、樹液の甘い香りもしない。相変わらず物理法則とか、ガン無視だよね。


 ――ピコーン


 あ、出来たか。公園の水飲み場の蛇口を捻ったみたいに、ピューと上向きに水流が噴き出す。聖水が出てくるというのは、当然前もって分かっていたので、ビンの用意もしてある。そっと差し出し、水流を汲んだ。


「お、おお。1本以上あるか」


「手伝うんだよ」


 ポーラが2本目を持ってきて、同じように汲んだ。水流が止まったので確認すると、ピッタリ2本満タン分だった。


「へえ。それが聖水なのね」


 素材が何かは伝えてないけど、シェレンさんにも出来上がる物は「聖水」というアイテムであることは教えておいた。


「飲めたりするのかしら?」


「だ、ダメなんだよ! 絶対ダメなんだよ!」


 必死のポーラ。別のアイテムに変化したとはいえ……気持ち的には母娘飲尿プレイみたいなモンだからな。そりゃ止めるわ。

 娘の圧に、シェレンさんは目を丸くして。


「じょ、冗談よ。飲まないわよ。必要な物なんでしょう?」


「はい。これがあれば……きっとルナストーンの欠片を手に入れられます」


 そう。これで必ずガーゴイルを仕留めないといけない。

 手元の時計を見る。14時半か。今から行って、3時過ぎくらいに現着。イケるな。


「今から行くの?」


「はい」


 怖気づく前に勢いで行っときたいのもある。一晩寝たくらいで気炎が消滅するとも思えんが、鉄は熱いうちに打て、だ。


「アキラ……」


 ポーラがキュッと抱き着いてくる。不思議なモンで、さっきは性的な目で見まくってたのに、今は可愛い妹分への慈しみが胸中を占めている。人間って、よく分からん生き物やね。


「大丈夫。ダメそうなら、逃げてくるから」


 ポーラの頭を一撫ですると、そっとその肩を押した。


「いってきます」


 シェレンさんにも声を掛ける。彼女は一瞬止めようとしたのか、口を開いたが……結局そのまま力ない笑みの形にして、送り出してくれた。






 ビャッコの森へと続く道へ。そこに、エレザが立っていた。少し睨むような目で見てくる。


「1人で行く気なのか?」


「……危ないからね」


 正直、無償でついて来てもらえるレベルは超えてると思う。まあそれ言い出したら、密林地帯に入る時点で、そうだろうけど。


「1人では……もっと危険だ」


「それはそうなんだが……切り札も手に入れたんだ」


 俺は布カバン(シェレンさんに借りた)に入った小ビンをポンポンと叩いた。もちろん中身は「破邪の聖水」だ。


「……」


 それでもエレザは納得していない様子だった。


「今更だけどさ……エレザはどうしてそこまで協力してくれるんだ? 洞窟で互いに自己紹介した時から悪いヤツじゃないとは思ってたけど、監視の領分をここまで逸脱して、体を張ってまで……」


 明らかに「良いヤツ」の限度を超えている。一歩引いた立ち位置だったのが、かなり早い段階で協力側に来てくれたのも(ラッキーだったけど)少し腑に落ちないところもあった。

 エレザは俺の質問に少しだけ目を伏せると、


「私はな……賭けることにしたんだ」


 そんな言葉を皮切りに、話し始めた。


「大袈裟かも知れないが、オマエは島の救世主になれるんじゃないかって」


 確か、シェレンさんにも同じようなことを言われた記憶が。


「この島には今、閉塞感が漂っている」


「そう……なのか?」


「ああ。ルナストーンが割れて、いやもっと前から石の力は弱まっていて……表立って口にする人こそ少ないが、緩やかな滅びへ向かっているのは、きっとみんな分かっている」


「……」


「そんな時にオマエが現れた。ウィドナ様は弱り目に祟り目、と捉えたようだが。実の所、私は真逆で、新しい風が吹いたのではないかと考えているんだ」


 ロスマリーの祖母ウィドナは、やはり俺に対して否定派か。ただエレザは彼女を様付けで呼んでいるにも拘わらず、意見を異にしている。エレザとロスマリーならびにウィドナの間にも何か一筋縄ではいかない事情が横たわっているのかも知れないな。


「……そして、初日。メインストリートに下りた日だが。あの時、ずっと様子を観察していたが、やはりアキラは、とても害悪をもたらす存在には見えなかった。反対派に挑発されても冷静に返し、メロウばあさんにも親身だった」


 そういやあの時のエレザ、満足げに頷いてたな。

 人柄、行動も含めて彼女の中で審査してたのかもな。協力するに値するかどうか。それに合格していたのと、実際にレシピ帳の自動筆記を見て、総合的に判断したと。俺視点だと、割と簡単に協力派に来てくれたように感じてたけど、彼女の中では色々あったんだな。


「母を早くに亡くした私は……この島に育てられた。だから、母の分も生きて、セフレ島のために命を繋ぎたい」


 一人暮らしだったから、ある程度は察してたけど。そっか、お母さんを……

 公益心が人より強いのも、島全体に育てられたことへの報恩意識の現れなのかも知れないな。


「ルナストーンを直そうと言うなら、私も協力は惜しみたくない。特に今日みたいな他の仕事が入ってない日なら、何をか言わんやだ」


「エレザ……」


「だからアキラが気にすることじゃないんだ。私は私の目標、命のバトンを繋ぐ、そのために戦うのだから」


 エレザの瞳には強い光が宿っていた。戦士の目だった。


「分かった。そこまで言ってくれるのなら、一緒に戦おう」


 正直、戦力的に言えば非常に助かる。俺のためじゃないとは言うが、心の中で感謝する。

 そうして、午前と同じように2人連れ立って森へと踏み入るのだった。

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