第13話

 宴会場から出てきた溝口は、もう出来上がった状態であった。

「いわした~、も~1件いくぞお~」

「お前飲み過ぎだぞ。てか、もう終電だし、駅まで送るから帰るぞ」

「いや~、別に明日休んでもいいし~」

 会計を済ませた様子の課長が、宴会場から出てくる。


「御馳走様でした」

「ごちほ~様でした」


 岩下と溝口の様子は対照的であった。溝口の話では、課長よりも溝口の方が酒が強そうな印象だったが、今日の課長はしっかりしている。

「すみません。もうそろそろ終電なので、溝口送ってきます」

「そうかそうか、よろしく頼むよ。僕ももう今日は帰るからね」

 課長は、駅とは反対方向に歩いていく。

 課長の最寄り駅で飲んでいるのか。社会人も大変だなあ。


「ほら溝口、行くぞ」

「まだまだ~のむぞ~」

 べろべろになっている溝口を岩下が引きずるようにして、駅に連れていく。僕はあたりを見渡すが、人の気配、つまりストーカーの気配はない。


 しかし、妙すぎないか? 今は溝口がべろべろであり、隙だらけだ。襲うなり、金品を奪うなりするタイミングとしては、岩下と別れる、駅に着いたタイミングがベストと言っていいだろう。それなのに、何故ストーカーは姿を見せない……。まさか!


 僕が一つの仮説に行きついた時、岩下が駅とは違う方面に曲がった。僕はすぐにその後を追った。二人が行きついたのは小さな公園だった。岩下は、公園のベンチに溝口を座らせる。そして懐から、ナイフを取り出す。溝口は泥酔して完全に寝てしまっている。


「お前を酔わせるのも大変だったぜ」

 岩下はナイフを振り上げる。


「ちょっとまて」

 僕はナイフを振り上げた手をつかむ。


「ちょ、誰だ! お前は!」

「俺は、探偵け……だ」

「は? 探偵?」

「……そいつを殺されるのは困るんだ」


 僕は岩下の鳩尾に拳を叩きこむ。岩下は心得がないようで、ナイフを落とし、その場でうずくまった。僕は岩下が落としたナイフを回収する。


「なんで、溝口を殺そうと思った?」

「お前には関係ないだろ!」

「まだ元気だな。もう少し立場をわからせるか」

「やめろ! 谷口だ。谷口って女が、こいつを殺したら、俺と結婚するって言ったんだ」


「は?」


「浮気だよ。浮気」

「……そう言う事か」

 僕は岩下の頸動脈を叩き、気絶させる。天と点が繋がった気がした。


 僕は急いで丸山に電話した。

『もしもし』

「谷口琴美って女について調べてほしい。後、○○公園で二人の成人男性が酔っぱらって喧嘩しているから、そこに調べた結果を持ってきてくれ」

『急になに言って――』

「いいから頼む」

 僕はそこで電話を切った。


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