第12話

――カランカランーー


 事務所に帰ると、高瀬がソファで寝ていた。いい夢を見ているようでその寝顔は幸せそうだった。


「ふん、このお菓子美味しんれふ。青山さんも一口……」


 その寝言でどんな夢を見ているのかは大体わかってしまう。僕にも分けてくれるところに彼女の優しさが見える。しかし、ずっとここで寝かしておくわけにもいかないので、彼女を揺すって起こす。


「高瀬さん、帰ってきましたよ」

「後五分だけ……」

「ちゃんと家で寝てください」


 高瀬は気が付いたように目を開けると、周囲を見回した。

「あれ……お菓子は?」

「それ多分夢です」

「あれ、そうですか。あはは……」

 川井は乾いた笑みを浮かべる。丸山以外の人間が僕を待っていることは新鮮だった。


「僕が居ない間、何かありました?」

「いえ、特に何もなかったです」

「そうですか……え?」

 見ると机の上に置き手紙がある。その置き手紙には見覚えがある。アルファがいつも使っている物と同じもの。僕は一気に警戒度を上げた。まだここにアルファが居るかもしれない。


『いつか必ず、アルファを止めてくれ』


 しかし、手紙の中身はアルファが書いたとは思えないようなものだった。そして差出人も不明。僕は振り返らずに聞いた。


「高瀬さん、本当に僕が居ない時間、何もありませんでしたか?」

「ええ、何にも誰も来てませんよ。寝ていてもチャイムが鳴ったら気付きますから」


 しかし、この手紙はきっとインベーダーのものだ。そう言えば、インベーダーがどのようにこの世界に入ってくるのかは、まだ聞いていなかったな。もしかしたら、インベーダーは、向こうの世界から瞬間移動ができるのかもしれない。そうであれば、音を立てずにこの事務所に入ることも可能だ。まあ何か条件があるとは思うが。


「そうですか。では今日の業務はこれで終了です。ありがとうございました」

 高瀬は「お疲れ様でしたー!」と言って事務所を出て行った。


 僕は少し時間を置いてから、溝口の居る宴会場へ向かった。

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