第11話

 浮気調査を始めて三日目。


 ――カランカラン――

「おはようございます」

 朝8時、高瀬が初めて事務所に出勤した。


「おはようございます」

 僕は外出の準備を整えながら、彼女に挨拶を返す。


「じゃあ、とりあえず、ここに居てもらえればいいので。コーヒーとかお菓子とか自由に飲み食いしていいですからね」


「……わかりました」

 高瀬はどこか暗い表情で、返事をした。


「どうしたんですか? なんか嫌なことでも?」

「いえ、何でもありません。ちゃんと仕事はしますので気にしないでください!」

 僕は戸惑いながらも、事務所を出て行った。


 この日も朝から調査を継続した。

 特に何も起こらないまま、溝口は会社に出勤した。僕はいつものカフェに入る。カフェの中は店長しかおらず、活気がなくなったように思える。

 イヤホンから流れてくる音にも、これと言った変化はなく、カフェの静けさを際立たせた。


「浮気はないだろうなあ」


 思わず呟いていた。

 気になるのは食品のごみと溝口が話していたストーカーの二つだけ。これら二つで何もなければ、もう浮気はしていないという結論でいいだろう。それと、一応、谷口がマンションで何をしていたのかを調べてみた方がいいかもしれない。まあ、何もないとは思うが。


 ずっとカフェの中に居るわけにもいかず、コーヒーを一杯だけ飲んでカフェを出た。そして、個人的な因縁を調査することにした。そのために来たのはネットカフェである。インターネットを使うならここがいいだろう。なぜなら足が着きづらいから。


 僕はパソコンを起動させ、「インベーダー」という単語を打ち込む。しかしゲームの攻略サイトや機械が出てくるばかりで、これ言った情報はない。【ダイバー】についても何も情報は得られなかった。


「はあ……」


 思わずため息が漏れる。しかし、こいつらが海斗と薫を殺したのだ。絶対に尻尾をつかんでやる。


 今日の溝口は、なかなか会社から出てこなかった。イヤホンからは、昨日の水島商事との商談の話が聞こえたので、きっと昨日の報告をしているのだろう。僕が会社の外で待っていると、高瀬から電話がかかってきた。


「はい、もしもs」

『あの! いつになったら帰ってくるんですか⁈』

 高瀬の大声に思わず電話を耳から遠ざける。


「いや、それが思ったより難航していて……」

『大体、今何の調査しているんですか? 私に秘密で遊んでたりしませんよね⁈』

「しないですよ。今は浮気ty――」

『浮気⁈ 浮気ですか? 浮気する人はクズです!』

「ええ……」

 僕は高瀬の勢いに思わず引いてしまう。


『とりあえず早く帰ってきてくださいよ。私は待ってますから』

 そう言って、高瀬は電話を切った。

 溝口は水島商事との契約の打ち上げに行くそうだ。ストーカーの調査は打ち上げの帰り道でもいいだろう。僕は一度、事務所に帰ることにした。


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