第27話

カメロン率いる魔獣部隊の総数は50。これが『澪』の用意出来た“隠密戦闘をこなせる魔獣の数”だ。正確には光を透過する性質を持つ魔物や、光を屈折させたりと様々な原理を用いているのだが。


――キィン!!

―――ババババババババ!!!


ユグドラシルである拳銃から不可視の敵に向かって弾が放たれる。不可視の敵と対峙し、そして金属音が理不尽に鳴り響く。その中でもひときわ神がかったセンスで敵である魔獣部隊を倒していたのは紛れもなくマクリードだった。


(クッソ…何でこんな厄介な能力を持った魔物がここに大量にいんだよ!)


実際にマクリードが対応できているのも、一重に迷宮で培われたセンスや、耳から感じ取れる些細な風切り音などで対応しているに過ぎない。実際に一秒一秒生き残れるかどうか賭けに近い物なのだ。賭けの対象はその命なのだが。


そしてマクリードが使う武器はこの隊唯一の銃型ユグドラシル。構造的にはマシンガンが正しくも思える。連射でき、弾を必要としないが、リロードの代わりに1秒の間を必要とする実用性の高い物であり、ゆっくりとだが確実に不可視の魔物たちにその風穴を開けていったのだが。


(兵を殺されるというのは、やはり不快な物よ!なあ、銃使い!!)


そしてカメロンは辺りにいる『開闢』メンバーの首を落とすと、マクリードへと向けて突進した。



今、マクリードと『開闢』メンバーの生存力と適応力によって、カメロン隊は徐々に追い詰められていた。


「よし!このままいけば勝てる!勝てるぞぉぉ!!」


マクリードが叫ぶ。その声に兵の士気はさらに上がっていく、反対に魔獣側はどんどんと押されていく。そしてカメロンは決断した。一対一ヘと持ち込む意志を。


「全く。邪魔をしてくれるな銃使い」


声がどこかから響く。その瞬間マクリードの隣、近く、マクリードの近隣全ての命がその生を終えた。


「て、てめえ!!」


「殺る気になったか?では行くぞ」


カメロンが一瞬で透明へと至ると、その勢いのまま【湾曲の極剣】をマクリードの背後ヘト振りかざす。が


「その手は見飽きてんだよぉぉぉ!!!」


マクリードは勢いよく丁度背中の死角を埋める様にその銃を縦に振り下ろす。


(ああ、確かに以前の俺ならやられていただろう。そう、以前の俺なら。な)


覚醒前のカメロンでは間違いなく避けられなかった一撃。その片隅を今カメロンは覗いている。そしてここには主が用意してくれた仕掛けと強化された自らの体がある。


「やれ!!!」


カメロンが叫ぶ。すると白一色の世界から、突如となく極光が放たれた。


「なんだ!」


「どうなってやがる!!」


「ウワアアアアア!!!」


『開闢』のメンバーが悲鳴を上げる。これがこの【澪】の、この部屋に仕掛けられた罠。透明に慣れてきた兵士を殺すために作られた、極光を全方向に発射してどこにいようと目を潰す。勿論だが光を扱う魔物たちにこれは効かない。完全に敵にだけ効果のある仕掛け。それがこの部屋の、カメロンの部隊にだけ用意された仕掛けだった。


「畜生っ!!」


マクリードは目を潰されても銃器を前に向けて射出する。勿論目は使えないが、とっさの機転や判断力は迷宮で鍛えられており、この程度まではいかないが何とかして生き残るすべを考え実行するのは十八番だった。そしてそれを実行できる奴はこの極光の世界を生き延び、出来ない奴は魔獣の牙や刃の餌食とされた。


徐々に押していた『開闢』だが、この一件により五分五分。しかも仕掛けがある分有利を取れているのは明らかに『澪』側だった。


「その判断見事」


射線に入っていたカメロンは咄嗟に左右にそれた為攻撃することが出来ない。結果的にだがマクリードは生き残った一人と言える。


そしてカメロンは左右のブレを戻す為に距離を取る。マクリードの眼は万全じゃないにしても見えるようになっている。結果的には降り出しだ。


一瞬の静寂。一瞬の交錯。その間で先に動き出したのはマクリードだった。


マクリードが撃つために銃を構える。カメロンが走り出す。お互い体が動きだすのは同時だった。


マクリードがトリガーを引く、弾丸は一斉にカメロンに向けて放たれ、その一撃一撃がカメロンの体に風穴を開けようと向かう。


「――疾っ!」


カメロンは避けるでもなく消えるでもなく、その手にある剣で自らに当たるであろう弾丸を切り落とす。そしてその一瞬にも永遠にもなる弾丸の雨の時間が過ぎる。そう、弾切れだ。


「――っ!チッ!!」


マクリードは内心悲鳴を上げた。それは死のカウントダウン。カメロンは賭けともいえる勝負に勝ったのだ。この弾切れのタイミングがあるという前提で、自らの覚醒した体を限界まで酷使して一瞬でも気を抜けば殺される死の世界を渡っていたのだ。


カメロンは疾走する。【湾曲の極剣】の能力。それは“剣を伸ばす事の出来る能力”だという事を。


カメロンは剣を突きのフォームヘと構えその能力のスイッチをオンにする。音速一歩手前で伸びる剣を前にマクリードは焦らず冷静に銃を捨ててユグドラシルであるナイフを取り出す。


発光するナイフの能力は“一時的に攻撃・耐久を上げる”という物。その能力をフルに使ってようやく、かろうじて飛んでくる剣の軌道を曲げる事に成功した。


「見事。見事なり」


カメロンの見事という声と、マクリードがナイフを捨てて銃型ユグドラシルの『顕現』機能を使うのは同時だった。だがカメロンは忘れていない。自らに与えられたもう一つの力を。


「今だ!!!」


カメロンが叫ぶ。極光が白色の世界を銀白へと染め上げ、その光は敵の眼をもう一度潰す。しかもご丁寧に光量を上げておりこれには『開闢』側も顔面蒼白だろう。


そしてそれはマクリードも例外ではなかった。銀白の世界が銃を構えるマクリード。だが彼には気づかなかっただろう。自身の見る世界には何も見えない事に。いや何も見えない事にすら気付いてないのかもしれない。


そしてマクリードは、その銀白の世界を最後に、後ろからの一太刀によって、銀白の世界に紅の赤が塗り染められた。


「クッソ…俺は負けたのか。ああ、強かったよ」


最後に残した言葉は、無意識の内だろうか。それとも意識ある内に感じた本音だろうか。それとも皮肉なのだろうか。だが一つ確かな事は分かっている。マクリードは負け、そしてその命を終えたという事だ。


カメロンは周りを見渡す。まだ戦っている同胞たち、死んでいった同胞の血や肉塊を見るだけで、それだけでこの戦場が過去最高に悲惨だったことが受けて取れる。


―――ああ、我が主様。貴方の最後を、死してなお見守らせていただきましょうぞ。


こうしてカメロンは、マクリードを打ち倒し、その勢いでゆっくりと倒れ込む。ゆっくりと目を閉じ、そしてその生を終えた。

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