第26話
「はぁ…はぁ…」
『開闢』の戦闘員がため息を漏らしている。それも何人かは肩で息をしている者もいる。それだけ披露した戦いだったのだ。ちなみに他の所でもなんとか対ゴーレムとの戦闘は終了しているという報告を受けていた。
「よしよし、いい感じに削れている」
その中でも先ほど使ったスピーカーを扱う指令室に創太もいた。勿論『澪』にも監視カメラの類はあるためそちらの確認と、ゴーレムに対して『開闢』がどう立ち回るのかといった敵の情報収集を兼ねている。
あのゴーレムが放つ攻撃はどれも一級品の『ユグドラシル』から繰り出される攻撃。魔力弾は雷・炎を扱うゴーレムや水を纏うゴーレム。風で全てをなぎ倒すゴーレムなど全て創太のオーダーメイドだ。
そして4カ所で行われた戦闘に置いて、3名の実力者が均等に振り分けられていることが把握している。主に他のメンバーの被害が無かったところではその者らの実力が大きい所だとされている。だが反対にその3名の誰もいなかった所は2人の死者が確認されている。
「ふむふむ。まあまあといったところか。ちなみにその3名は…織本。マクリード。東野か…まあいい。こいつらをマークしろ、解析を開始」
【澪】の特殊能力のうちの一つ。内部にいる敵を『ユグドラシル』の効果関係なく解析することが出来る強力な解析系の能力の一つだ。
(さて…足掻いてくれ。勝利を掴んでくれ。頼むぞ…お前ら)
◇
『―――そっちはどうだ?』
『ああ、こちらも問題ない。そっちは?』
『こっちも問題ない。しかし驚いた。あのゴーレムにあそこまで戦闘能力があったとはな』
『ああ、あの攻撃はどれも一級のユグドラシルからしか放つことのできないモノだった。これは、少々気を引き締めていかないと不味いな…』
『ああ、その通りだ…負傷者も出ている。そっちも気を付けろ』
『ああ、分かってる。そっちもな』
これは『澪』対ゴーレム戦が終わった直後の通信だが、その様子からもやはり苦しい表情が見受けられる。
―――『澪』四方向突入作戦。続行中。
◇
「さて、次はお前達だ。派手に食い散らかしてもらうぞ」
創太は一人腕を組みながら監視カメラから送られてくる映像を眺めていた。そしてそこには対ゴーレム戦で疲れながらにも勝ちを収めた『開闢』メンバーたちと、その奥から向かってくるであろう魔獣の混成部隊が見えていた。
魔獣の部隊は全部で3つ。マルクス・カメロン。そしてイシュタルで一つずつを指揮している。それぞれの得意な魔獣から苦手な属性を埋める魔獣まで幅広く戦えるようにはしてある。
『開闢』部隊は計四つ。『澪』の部隊は三つ。これではもう一つの部隊を何もせずに通してしまう前提になるが、もう一つの部隊には創太特製のユグドラシル型生体兵器であり、その力はあの10階層のボスであるシュラルを凌駕する程の力を持つ親蜘蛛型生体兵器ユグドラシル【シェイプ=アル】を配置している。単体だけでも十分なコイツがその力を遺憾なく発揮するのは、小さい蜘蛛の『ユグドラシル』をそのまま生成できる点にある。小さいとはいえ『ユグドラシル』その能力は破格の物となる。
「さて、次の作戦だ」
こうして創太は、勢いよく次の仕掛けを起動するべくそのボタンを押した。
◇
―――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「今度はなんだ!」
「戦闘態勢!警戒しろっ!!」
『開闢』メンバーたちが、『澪』の次の仕掛けに警戒する。いつまでたっても轟音は鳴り止まず、ひたすらに地面が揺れる。長い時間揺られていると思うと。突如極光が『開闢』メンバーを襲った。
◇
「ん……ここはどこだ?」
「大丈夫か!おい!」
「あ、ああ…大丈夫だ。ここは?」
「分からない。だがここはさっきの場所は違う。通信も使えないみたいだ」
「完全に孤立しちまってるって事か」
「そうだ」
「了解した」
未知の場所に飛ばされたメンバー。だがこれも創太の計画通り。創太は四方向から来る敵に対して、自分達に有利なフィールドに招待したのだ。全ての魔獣の力が一番活かせるステージへと。
「ここは…どこだ?当たり一面真っ白だが」
「ああ、だが何かが起こってることには違いない」
今回この部屋に飛ばされたのはマクリード隊。だが一流の部隊であるマクリード隊は、どんなことにも備えての陣形を構築して敵の次の一手を待っていた。そして。
「……っ!何か来るぞ!」
隊の探知できる『ユグドラシル』を持ったメンバーの一人が螢惑する。額から汗が流れ、静寂の時が訪れる。そしてそれは唐突に破られた。部屋から放たれた極光によって。
――ピカッ!!
「う、うわあああああああ!!!!」
突如響く悲鳴。突如轟く極光。それら全てが隊の警戒を底上げし、そしてもう一つ。隊の何物でもないその声が轟くまで、時間はかからなかった。
「蹂躙せよ!!!我らが主の為に!!!!」
こうして、第一ラウンドであるマクリード隊VSカメロン率いる魔獣隊の死合が始まった。
◇
「み、見え。うわああああああああ!!」
また隊の一人が悲鳴を上げる。後ろからの一太刀でやられている。
「な、なんだ!これは。う、うわああああ!!!」
そしてまた、今度はマクリードの近くのメンバーがやられる。
(これは……まさかっ。迷彩!)
「お前ら!今すぐ隊のメンバーで背中合わせになれ!敵は迷彩を使っているぞ!」
マクリードの機転により、混乱した隊のメンバーは何とかして背中を互いに合わせて身を守り、『ユグドラシル』を構えて攻勢に出ようとする。
(どうだ。これで…)
そしてマクリードの賭けとも言うべき読みは見事に当たっていた。
「…見事。さすがはここまで来ただけのことはある」
突如聞こえるメンバー以外からの声。そしてメンバーは警戒を怠ることなくそちらの方向へと振り向く。そこには大量に何かがいた。
「我の名はカメロン。我が主から名を受け賜わった。さて…殺ろうか」
こうしてカメロンは、主から受け賜わったであろうユグドラシル【七宝の転衣】を羽織り、【湾曲の極剣】を抜き相対する。
「お前は誰だ!敵か!」
マクリードがゆっくりとだが事実を確かめるためのありふれた言葉を吐きかける。
「敵か…か。当たり前だろう?お前らは私達の主の住まう城へとご丁寧に兵をぶつけてきたではないか。それを敵と言わずしてなんという?」
「……っ」
マクリードが苦しい顔をしている理由。それは相手の力の幅が見えないからだ。マクリード程の死線を掻い潜ってきた猛者ならば、敵を見ただけで大体の相手のランクが分かると言う物。それは『開闢』メンバー全てに言える事であるが、そのトップ群に立つマクリードでさえその力が見えないのだ。
「さて、お前達に主からの伝言を伝えよう…“本気を出しても構わない”と、言う事らしい」
(……!?まさか、こいつ以外にもいるのか!?)
「忠告は済んだ。じゃあ始めようか」
「お前ら、やれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
カメロンの試合宣言と、マクリードの攻撃命令が重なる。そしてマルクスは、魔獣たちはそのリミッターを解除していく。
「おお、久しい。久しいぞ!」
―――グガガガガガ
―――――ゲコ・ゲコゲコゲコゲコ!!
―――――――キシャキシャキシャシャ!!!!
それはまるで魔獣の宴。カメロンの兵である魔獣全てが姿を現し、その牙を、爪を、刃を尖らせ、しならせ、そして力を漲らせていく。
「嘘だろ……おい」
『ユグドラシル』を向ける事すら忘れて、『開闢』メンバーたちは見呆けている。それは突如現れた、迷宮にいるあの化け物たち。自らが探索者だった頃の絶対の敵が、『澪』に君臨したのだから。
「ま、魔物だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
誰かがそう叫ぶ音。『ユグドラシル』を敵に向ける音。そして『開闢』の隊員が血を噴き出して倒れるが聞こえるのは、ほぼ同時だった。
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