第25話

現在。『澪』内部には非戦闘員は5割が転移を完了させて、今残りは半分となった。人間組のほとんどは日が落ちるころには撤退しており、包囲網から抜け出す事に成功している。今では各自が自らのできる事をしているだろう。

そしてカメロンと交代していたヨイヤミが、敵の接近を知らせるアラームを鳴らした。『澪』の戦闘員が戦闘配置へとついている。そして創太は一人、『澪』の全ての人員に向けてスピーカーをオンにした。


『―――私の配下達。そして部下たち、今ここにいる全ての仲間に向けて、この『澪』の主をやらせてもらっている私から、この言葉を送ろうと思う』


『私の配下達、皆も分かっていると思うが、今状況は切迫している。敵は強く、勝ち目の薄い戦いになるだろう。だからこそ、私はこの言葉を皆に送らなければならない』


『私はこの勝ち目の薄い戦いヘと皆を導いてしまった事に深い謝罪を。皆、すまなかった』


『―――この戦いは『澪』の存続を決める重大な一戦になる。勝とうと。負けようと』


『だからこそ戦う者たちよ。どうかこの私に力を貸してほしい、私の為に立ち上がってほしい。そして私の為に魂を燃やしてほしい。皆すまなかった。私の長としての資質が足りなかったばかりに、未熟だったばかりに皆をここに巻き込んでしまった』


『だからこそお願いだ。勝つために魂を燃やしてくれ。己を超えるために魂を燃やしてくれ。そして何より生きてくれ。足掻いてくれ。噛みついてくれ。この不条理な世界に牙を突き立ててくれ。それが私が送れる最大限の言葉だ。俺は幸せ者だ。ここまで信頼してくれる配下を持ったこと。俺は本当に幸せ者だ。―――以上だ。ありがとう。そして……勝つぞ。絶対に』


―――ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!


その時。『澪』の全てから上がる雄叫びが、天にまで届くかもしれないその叫びが木霊した。


―――開戦まで、残り僅か。



ここは先ほどの会議室とはまた違う会議室。そこでは指令ともう一人の副官。あとはオペレーターたちが慌ただしさの欠片もなく。だがテキパキと作業を行っていた。


「何?開戦を早めるだと?」


「はい。敵はこちらに気づいています。そしてそれでいて逃げる気がない。という事は」


「ああ、もう隠れている意味もないという事か」


「ええ、準備出来次第攻めるべきです。我々には時間が足りない。我々の任務が露呈する事もまた避けなければなりません」


「なるほど…分かった。それでは―――任務開始を早める。準備させろ」


「ハッ。任務開始を早める。準備を開始せよと伝えろ」


「了解しました!」


そして3分後。部隊長織本から“準備はすべて整った”との連絡を受けると同時に、指令がバッと立ち上がり、そして


「よし、では。……作戦開始!!!!」



『作戦開始』


その一言が部隊を大きく動かした。


「俺たちは正面突破だ。バックアップは他の部隊に任せる。いいな?」


その織本の声に合わせて頷く彼ら。現在確認されている入り口は2カ所。その2カ所に分けて部隊を進めており、ゆっくりとだが確実に『澪』内部には潜入できている。だが。


―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「な、なんだ!急に動き出したぞ!」


「ど、どうなってやがる!」


『開闢』の隊員たちは突如なる騒音に大声で確認を取りながらも各々の『ユグドラシル』を手に持ちどんな状況になっても武器を振れるようにしていた。だが


「ゆ、床が動いてやがる!」


「壁が!仕切られるぞ!」


そう、これが創太の決戦兵器型ユグドラシル。名を【澪】


創太の意志や自己判断の元に『澪』というアジト自体を『ユグドラシル』化していたのだ。そしてそのシステムを今創太が起動したという訳だ。


ちなみにユグドラシル【澪】には大小様々な能力がシステムによって起動処理を行われ、敵の情報を伝達したり敵自体を駆除したりなどの様々な事を判断して行う自立型『ユグドラシル』なのだ。


「…寸断されたが、元より進むしかあるまい。こちらは進む、そちらも進め、後で合流しよう」


もちろん『開闢』のメンバーは焦ることもなく、かといって警戒を怠ることはない。お互いを警戒しながらゆっくりとだが進んでいく。だが


―――ドン!ドンッ!ドンッ!!


「今度はなんだ!?」


その正体は直ぐに判明することになる。その揺れの招待は動いているのだから。


「あれはなんだ?敵か?」


そこから姿を見せたのは『開闢』メンバーの身長の3倍はあるだろう巨大な無機物の塊だった。だがその無機物の塊が意志を以て動いているのだ。


『…測定開始。ナンバー特定不能。コードレッド…敵!!』


そう無機物の塊――ゴーレム型『ユグドラシル』は言い残すと、敵に向かって走っていく。


「敵だ!まるで迷宮にいるゴーレムみたいだ!」


『ああ分かってる!こちらも同じ敵を相手にしているからな!』


そうトランシーバーに向けて話を進めていると、違う方向から入っていったマクリードが怒号と共に返した。他にもユグドラシルの放つ爆発音や戦闘音なんかも聞こえる。


ちなみに『開闢』の持つユグドラシルはどれも特注品だ。炎を無限に放つ火炎放射器や、魔力で伸びる剣。属性弾を放つ銃なども挙げられる。だがどれもゴーレムの持つユグドラシルにすら及ばない。


『ンゴゴゴゴゴゴッゴゴゴゴッゴッゴゴゴッゴ!!!!!』


こうして、局所的に発生したゴーレムVS『開闢』の戦闘が幕を開けた。

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