第24話

そこは『澪』の会議室とは違い、豪華かつ実用性のある大きなテーブル。そこを囲める程の黒い戦闘服を着た男が、何十人もテーブルへと座り上座の方を向いている。中には飯を食っている奴もいる。携帯ゲームをして遊んでいる奴も見られる。中には机に足をやって眠りこけてる奴もいる。そいう言う連中が集まっているこの場こそ、日本対ユグドラシルテロ制圧集団であり、自衛隊の裏組織『開闢』のメンバーが今ここには集まっていた。


そしてそれぞれがテーブルの上で過ごしていると、上座のモニターの横からスッと人影が現れた。その人物に全員目を合わせながら、次の指示を待つ。


「次の命令が下った。東京の裏社会に潜む魔術結社『澪』の壊滅だ」


「へぇ~~、何故?というかそんな集団いたんだ~?」


この30前半頃の青年。その名は織本淳二。この『開闢』の隊長を務めており、<ELC>序列はなんと854位。『開闢』の中でもトップを誇る序列であり、そしてこの『開闢』はその序列や力で全てが決まる。

よく言えば完全実力主義。悪く言えばならず者の集まり、そういう“力だけを取りそろえた何か”がこの『開闢』という組織なのだ。


そして織本自身もその序列に違わぬ実力を有している。この組織が崩れずやっていけているのは織本淳二という圧倒的な力と、見方をも殺せるその残忍さにある。

織本の戦闘スタイルは複数の『ユグドラシル』を交代したり、両手で扱ったりと『ユグドラシル』を様々な方法で扱う事と、本気で戦えばそのスキルからいつも首を一刀両断して勝敗が決まることから、『多頭竜<ハイドラ>』という異名をつけられた実力者。

そして“本気を出さなかった場合”その戦い方は誰もが忌避する物となる。簡単に言えば“相手を嬲り殺す”のだ。まずは心を殺し、そして絶望の中でトドメを指すという方法を好みとしている。最低なのだが力はあるため、誰も止められないのだが。


「まあ聞け織本。今回の敵はそうそうヤワじゃあない。国が非合法的に援助していた研究所を何の証拠も掴ませずに破壊して見せた。やり手だぞ」


「じゃあ、何故素性が分かった?」


そう問うたのは見れば分かる圧倒的な筋肉と、そして焼けている肌。その男は日本国籍を持つ外国人の男。名をマクリード。これも偽名が怪しいのだが、『開闢』に雇われている探索者傭兵と言っても差し支えないだろう。ちなみに序列は1257位。この『開闢』の中でも何名かしかいない織本も止められるほどの強さを持つメンバーだ。


「国の情報部からの情報によると“『澪』は裏方の仕事を100%こなす裏の組織で、金さえ積めばどんな意見な事でもこなす万屋。国の組織でも失敗はあるが、奴らの依頼成功率は100%。これは普段あり得ない数字だ”という情報部からの情報と見解だ。つまり」


「ああ、そういう事か、全く政治家って野郎は。どいつもこいつも保身かよ」


「ああ、平たく言えばそういう事だ」


「それで?どうしてそいつらのアジトが分かった?間違いなくそいつらアジトの情報も厳重に隠してやがるだろうよ。それを見つけるなんて中々じゃあないか」


「実際に依頼を慣行したそうだ。どうやらその研究所自体も暴走気味だったようだ。丁度始末をさせようとしていたらしい、後は『ユグドラシル』の力を使った。一回ポッキリだが一日の間は効果が持つ」


「貴重な『ユグドラシル』を軍が…」


「いや、軍は動いていない。大物政治家の一人が完全に私事で潰そうとしていたのを、情報部が便乗したらしい」


「そして今回潰された事に焦った情報部が、こっちにまで情報を回して来たと…」


「中々複雑なのだ。お前らも理解したか?まさか今のマクリード以下のオツムを持ってる奴はここにはいないだろうな?」


全員が頷く、ここは軍だがメンバー全員が元探索者である。探索者に最も必要な能力、それは肉体はもちろんのこと、判断力や思考力といった頭、思考力だ。そこが鈍るとどうしようもなくなることを知っている。だからこそ奴らはそれなりの頭を持っている事を誰よりもこの司令が一番知っていた。


「それと、今回の作戦だが、一人『澪』が確保した少女を奪還してくれ。その少女の名はアリア・イオ二クス。魔眼を保持しており、英国の名家の娘らしい。今回情報部が動いたのもそれの隠蔽だと。必ず奪還してくれ。絶対に殺すな、生かして連れて帰れ。この作戦が失敗した最悪のケースは、英国との外交問題へと発展することだ。必ずだ。いいな!」


その覇気のある言葉に『開闢』の全員が頷く、まかりなりにも仕事をするうえでの事は知っておく、最低限で最大限の事はしている。


「よし、では作戦概要を終了する。任務の開始は22時を予定している。準備を怠るなよ…?」


その言葉で指令が部屋から出ていくと、『開闢』のメンバーたちは各々部屋を出ていった。


仕事人として最低限の流儀とプライドは全員にあることだ。もしかしたら開闢という組織は、その流儀とプライドによって成り立っているのかもしれない。



『澪』のギルド内では、全ての人員が慌ただしく動いているが、そこに怒号や焦りは合っても、恐怖の文字の欠片もない。皆が皆主に恩を感じ、その恩に報いるためにその命を燃やさんとする者。あるいは自らの集団の中の魔獣を守るために命を燃やすものなど、理由は様々だがそこには等しく覚悟が存在していた。


「装備の準備も完了しました」


「ヨイヤミ様・イシュタル様は配下の創造を行っております。マルクス様は配下の指揮を、カメロン様はヨイヤミ様の指揮を引き継いで指揮を行っております」


「『澪』の戦闘形態。いつでもいけます」


様々な配下の報告が創太の耳へと届いていく。創太は目を瞑りながら静かにその時を待って、そして一言。


「今からでもやれるだけのことはやっておけ、出来ることが終わった奴から休ませろ。後は……待つだけだ。時間は我々の味方だ」


創太はカッと目を見開き配下に伝える。配下は慣れた手つきで礼を行うと、創太の前から姿を消して業務へと戻った。


現在も【バビロンの神殿】から転移を行っている人員は多く、このままの時間だと全ての転移が完了するまでには丁度今日の0時まではかかる計算となる。そのためには必ず誰かが時間を稼がなければならず、証拠と【バビロンの神殿】を破壊するためにも時間を稼ぐのは必至だ。


「さて、残りあと…4時間か」


時は無常にも過ぎていく。いつの間にか日も暮れ夜が訪れる。

死神の夜がゆっくりと目の前へとやって来るイメージを、創太はどうにも物色できなかった。



「さて、詳しい作戦を説明する。今回のターゲットは東京の裏街だ。そこにある魔術結社を名乗る団体『澪』を壊滅させる。敵は国の援助していた研究所を何の証拠も残さずに潰す事の出来る集団。油断はするなよ…それともう一つ。これは確証の無い話だが、もし『澪』内部にアリア・イオ二クスと呼ばれる少女がいた場合、確実に救出しろ、今回の軍隊にはターゲットを確実にこちら側ヘと救出するために『開闢』の他にもそれ専用の部隊が待機している。だから確実に、戦闘を中断しててでもその舞台へと引き渡せ、いいな?」


「そのターゲットの容姿は?」


「ああ…学園の写真がある。これだ」


アリアの写真が会議室の大きなディスプレイに表示される。アリアの美貌は『開闢』のメンバーにも効果を発揮するらしく、ほおと息を漏らす者も少なくなかった。


「いや~この子超俺好み。指令、もし捕まえたら…つまみ食いしても?」


「……好きにしろ。それで死んでも儂は知らんがな」


「―――はっ、それを言うってことはマジかよ。やめだやめ、割に合わないってことが分かったよ畜生」


アリアにディスプレイの画面越しから深い劣情を垂れ流しているこの男もまた団長である織本を止められる程の力を持つ数少ない実力派メンバーの一人、顔はそこそこで日本人。年齢にして26歳と若い『開闢』の中でも将来を期待されたスーパールーキー。それがこの日本人。東野明だ。


「…話がそれたな、次に『澪』の殲滅だ。勿論捕獲でも構わないが、それほどの余裕が出せる相手でもあるまい。今回はまずは救出、次に殲滅の任務の順で優先させてくれ」


「それで作戦の決行は今日22時。準備は済ませているだろうからこの会議の15分後に出発し、21時には全ての準備を完了させて包囲網も敷く、こちらの情報が洩れている事は考えずらいが、それでも1時間前には包囲網を裏から敷き逃げる者がいたら捕まえる」


「以上だ。何か質問のある奴はいないか?ああ、ちなみに今回は殺傷性Aランクまでの使用を許可するが、建物破壊に強い武器は持ってくるな。いいな?」


「―――沈黙は肯定とみなす。それでは15分後。君たちの奮闘を祈る」


こうして、日本の自衛隊。その裏組織である『開闢』が、創太達向かって着実に向かってくる。

―――その行進は間違いなく、死神の行進に他ならなかった。

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