第21話
「着いたか」
「…上がっていく?」
「遠慮して…いや、少し上がってもいいか?」
「んっ、いいよ」
「ああ、お邪魔する」
こうして創太とアリアは都市の中心から少し外れた郊外に、15階あるマンションの12階にあるのはアリアの家だ。
「んっ。何も変わってない」
そうアリアが呟くと、オートロックの扉がガチャッ。と音を立てて閉まり、玄関から少しだけリビングが顔を覗かせる。
玄関だけ見ても十分に掃除が行き届いており、2日程度は家を空けていても十分に人を呼べるレベルには清潔に保たれている。入る前にしっかりと靴を並べたりするあたりにも清潔感が感じられる。
創太もそれに習って靴をしっかりと並べると、リビングへとお邪魔した。
「ほう、流石に綺麗だな」
リビングも家具などの配置もしっかりしており、若干アンティーク調の物にはアリアの趣味をのぞかせる物もあるのが、逆に生活感を出しておりしっかりとした佇まいをしている。
「適当に過ごしていいよ、飲み物…飲む?」
「せっかくここまで来たんだ。貰おうか」
「コーヒー、お茶、オレンジジュース、後は適当に色々あるけど、何がいい?」
「コーヒーで頼む、ブラックでいい」
「ん…分かった」
こうしてアリアが準備をしてくれている中で、創太はアリアの部屋の周りを見渡す。勿論警戒だ。もし創太がいない場合にアリアに被害が及んだ場合に備えて警備をつけるつもりだったので、部屋の見取りをある程度確認しているのだ。
(ある程度高い位置にあるために侵入自体が難しくなってはいるが、窓周りや扉周りは警戒しておくべきだろう)
「……ん?どうかした?」
「ああ、誤魔化すつもりもないからハッキリと言うが、何処に警備を置こうか確認していた」
「…んっ、道理で私達の後ろをついてくる化け物みたいなのがついてくると思った」
「まあ、見えてたんだろうな。とは思っていたが姿形まで見えていたか…これは訓練の必要ありだな」
「でも、私達の邪魔はしてなかった。私の部屋にも入っていない。しっかりと守ってくれてるんだなって思った」
「…そうか、そう言ってくれると奴らも喜ぶ」
「んっ…創太、コーヒー出来た」
「ああ、ありがとう」
こうして創太はアリアからコーヒーを受け取り、そのカップに口をつける。
ちなみに、創太達を護衛していたのはヨイヤミの配下である『ミッドナイトアサシン』と呼ばれる暗殺・情報収集を目的とする魔獣だ。
ヨイヤミの能力【月影】と呼ばれる能力で、月の満ち欠けによって召喚できる配下がランダムに決まるという少々ギャンブル性が強い能力なのだが、自分で決められないというデメリットがある分、一体一体の配下の強さはイシュタルの【悪宵宴<あくしょうえん>】よりも間違いなく強力だ。
「……上手い」
「本当?良かった」
「ああ、インスタントでも良かったんだが…」
「創太は今お客さん。お客さんにはそれなりの物振る舞う」
「ああ、ありがとう。アリア」
「当然」
こうしてアリアと創太との他愛の無い会話は過ぎてゆき、創太のカップの中身が無くなってからも少し会話は続いた。
「ああ、俺はそろそろ行くよ。その前に紹介だけしておこうか、出て来い『ミッドナイトアサシン』」
こうして創太の手の平に出てきたのは小さな虫の様な、でもどこか可愛げのある様な微妙な、かつ小さな姿をした者だった。
「あれ?さっきの、そんなに小さくない」
「ああ、こいつらはある程度だが小さくも大きくもなれる。仮にもアサシンだからな、俺の配下の召喚する魔獣の中でも、こいつらは1、2を争う殺傷力を持つ。そして暗殺者にはない“バレてもある程度戦える戦闘力”を持ってる。だから今回、アリアの護衛に採用された」
「ん、何となく分かった、けど…魔獣?って何?」
「ん?ああ、俺のこだわりってやつだよ。こいつらを魔物と呼ぶのは、迷宮に縛られて暴れて、それでいて人間に狩られる奴らの事だ。それと俺の配下を一緒にしたくない。っていうな」
「へぇ…へぇ…、じゃあ、よろしく、魔獣…さん?」
そうしてアリアは創太の手に乗っている小さいミッドナイトアサシンに向けて手を平にして向けてきたので、ミッドナイトアサシンはアリアの手の平に移り、そして片膝を立てて敬礼をする。
「ふうん…可愛い…」
「意外だな、もう少し気持ち悪がられると思ったが」
「自分を守ってくれる人にそれは失礼…だと、思う」
「生理的な問題を失礼で抑えられるとは思わないんだが…」
「けど、それを抜きにしても小さくなったらそれなりには可愛い、しかもそれが私を守ってくれるって言ってるなら猶更」
「それは良かった。ちなみにそいつらに飯はいらない。娯楽として食べる事もできるが、基本はいらない。後はアリアの事に対しては基本的には順守を約束させてる。プライベートスペースには入れない様に後で命令しておいてくれ」
「ん…了解」
「じゃあ、俺は帰る。コーヒー美味しかったよ」
「ん、ドアまで送る…」
「いや、大丈夫だ。“ここから直で買えるから”」
「ん?…それはどういう…」
「まあ見ててくれ、じゃあ行くぞ。【バビロンの指輪】」
そうして宣言すると、創太の体が淡い光に包まれて、そして最後には消えていった。
『……とまあ、俺はこうやって帰れるから心配しないでくれ』
と、創太の声がユリアの頭に直接響く。【創生の神雫】の効果だ。
『ああ、使い方を説明してなかった。それは全て念話が可能だ。思った事を飛ばすイメージで使ってくれ』
『んっ……使い方にまだ難があるけど、いずれ慣れる…と、思う』
『了解』
『さっきはビックリした。創太ってなんでもあり?』
『そうなのかもな。今日はもう遅いだろう、ゆっくりするといい。明日は学校だ』
『んっ、おやすみ』
『ああ、おやすみ』
こうして創太とアリアの一日は幕を閉じた。
◇
「以上で朝のホームルームを終わります。授業の準備をしてください」
始まりを告げるチャイムからHRが始まり、あっという間に終わっていく、そして皆が各々で授業の準備をしている中で、創太はいつもの様に屋上に向かおうとしていた。
「創太。おはよう」
「ああ、おはようアリア、昨日は大丈夫だったか?」
「んっ、大丈夫だった。それに魔獣さん達とも少し仲良くなれた…気がする」
「おお、そう言ってやると奴らも喜んでいるだろう。奴らにとって人間ってやつは敵っていうイメージしかない。そういう本能的なモノがあるって言ってたからな、その中でも仲良くしてくれる人間ってやつがいたら、奴らもしっかりと答えてくれるさ」
「んっ、努力する…」
と、何気ない会話を時間のない中でしていると、普段ならあり得ない所から、創太に向かって声がかかる。それは嫌われているはずのクラスメイトの一人からだった。
「おお!すげえ!アリアちゃんが男と、それも中宮と話してる!これはレアな光景だな~」
「……ああ?」
「おおっと、やめてくれよ。俺はいくらお前が嫌われてるからって喧嘩売りたいわけじゃねえんだって、唯々不思議に思っただけだよ。美人で成績優秀、だけどどこか近づきがたい雰囲気を出してるアリアちゃんに話しかけたいって人は実はメチャクチャいるんだぜ?それをこの学園で嫌われ者の中宮が話してるって来た!な?レアもんだろ?」
「俺に聞かれても困るんだが。というかお前、誰だ?」
「はあー。やっぱとは思ったけど、ここまで過ごしておいてクラスメイトの名前すら覚えてないとは…俺は川島、川島雄二だ。よろしくな」
「俺はよろしくするつもりすらないから、名前なんて名乗らなくていいぞ?」
「ちょ、それはヒドくない!?というかもう名乗ったんだから、せめて俺ぐらいは覚えろよ!せっかくボッチから救おうとしている救世主だぞ俺は!」
「はいはい分かった。早く行けよ。もう時間だろ?」
「あっ、やべ!もう時間だ!中宮先行くぞ!」
そう言い残して彼。川島雄二は勢いよく走りだして姿を消した。そして教室にはアリアと創太だけが残った。
「彼…面白い?それとも…馬鹿?」
「少しは面白かったな、けど確かに馬鹿なのはそうだな。だが少し馬鹿っぽいぐらいならむしろ探索者としてはいい方に働くと思うぞ」
「…?何でそんな事言える?」
「経験者だからって言えば通じるか?」
「…まあ、あり得る話…って事にしとく」
「そういえばアリア、行かなくていいのか?」
「んっ、少し遅れても大丈夫」
「何故?」
「『中宮を探して更生できるなら、休み時間を少し伸ばしてやる』って中島先生が。今は更生中…」
「ってマテマテオイオイ、俺を使って休み時間を延ばすなよ…」
「いや、いい。今創太と話してる方が面白い…」
「授業を真面目に受ける成績優秀者が何を言っているのか全く」
「簡単すぎて、つまらない……」
「天才ならではの回答ですね、それは。でも時間もいい所じゃないのか?そろそろ行けよ」
「んっ、そうする。バイバイ創太」
「おう、じゃあな」
こうして創太とアリアも分かれ、教室には創太のみが残った。授業の開始を告げるチャイムが学園中に鳴る。ただ一人教室にいた創太は
(よし、屋上行くか)
と、成るわけである。
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