第20話
会議が終わり、太陽はとっくに沈んでいる中で、創太は明日の学園の件でもう一度ユリアの部屋へと訪れていた。
「体調の方は大丈夫か?」
「んん…大丈夫。むしろ暇すぎるぐらい」
「それは良かった。それじゃあ明日から普通に学園に通うだろ?そのために必要な物があれば用意しようと思ってたが、その調子だと戻しても大丈夫そうだな。どうする?家に戻ってもいいが、最低限の用心はさせてもらうが」
「戻る…これ以上、迷惑にはなりたくない」
「了解した。帰りは俺が送っていくことになる。しばらくの間はこっちで護衛もつけよう、それに認識阻害やそもそも認識されない様にもしておこう。後はこれだな」
そうして渡されたのは、創太が強化したユグドラシル【創生の神雫】の子端末。
「……綺麗…」
「これもユグドラシルだ。あのシールモドキだと通信もできるが不便だからな、それはネックレスにもイヤリングにもできる様になっている。つけておいてくれ」
「……ん。ありがとう、創太…!」
「あとはそうだなぁ……これでいいか、【迷彩眼の刻印】」
こうして創太が取り出したのは【黒玉楼】と似た形をしているが、間違いなく別のユグドラシルだった。
「創太、これは?」
「これか?これは人がアリアを認識する際に、それが悪意を持っていたら認識を無意識化で置き換える刻印型のユグドラシルだ。1週間程で効果はきれるが、時間がたつにつれてその刻印がどんどんと色を薄くして、効果終了と同時に消える。これはあまり人に見せない場所に貼っておいてくれ、勿論張ってなかったら俺にバレるようになってるから、絶対に貼ってくれ」
「ん……了解」
「じゃあ行くか、今から行けるか?家の人がいるなら、こっちで適当に説明しておくが?」
「家には誰もいない。大丈夫」
「じゃあ行くか、という事で」
創太が【聖遺物殿】から取り出したのは、昔に創造したユグドラシルであり、使い切りの【スリープ・コリダー】を取り出し、アリアヘと向ける。
アリアはベッドから抜け出して準備を完了させていたが、【スリープ・コリダー】の効果によりガクッと膝を地面へと付いて眠りについた。
(アリアを契約で縛っているとは言え、アジトの出入り口を見られるのはリスクが大きい。しばらく眠っておいてくれ)
◇
ここは学園から一番近い駅の近くだ。アリアが眠らされてから30分程度、睡眠薬の効果としては短めだが、それでもようやくアリアが起き始めた。
ここまで来たのは徒歩…という訳じゃない。ユグドラシル【バビロンの指輪】を使って転移の実験を行っていたのだ。結果は成功。勿論一目のつかない所に飛んで、そこから歩いて駅へと向かったのだが。
「ん、うう……そ、創太?」
「ああ、おはようアリア」
「創太…ここは?」
「学園から一番近い駅だ。ここから案内頼めるか?」
「ん…んん?あれ、いつの間に…」
「ああ、アリアといえどもアジトの出入り口をそうそうに見せるのはリスクがでかすぎるから、寝ててもらったぞ」
「ん、そうだったの…」
「ほらアリア、起きてくれ、そろそろ行くぞ、ここから家までどれぐらいだ?」
「20分ぐらい…」
「じゃあ行こう、そろそろしっかりしてくれ」
「…了解…」
◇
アリアと創太が歩いて10分ほど、閑静な住宅街が月の光に照らされて白く温かい光を照らしている中、アリアは創太に聞きたかった事もぶつけようとしていた。
「ん、創太?」
「おお、何だ?」
「聞いてもいい?」
「何を…っていうのも変な話か、まあ大体察しはつくけどな」
「んっ…何でそんなに効果の強いユグドラシルを、そんなに多く持ってるの?」
「何で…か、何でかを言ってしまったら簡単なんだが、それ以上を語ると俺はこの世界の奴隷って奴に成り下がる気がするから、そうそう簡単には教えないようにしてるんだ。だから言えないし、言わない」
「…当てよっか?」
「…ほお。当てると来たか、俺も大体の見当はつく。“見えた”んだろ?」
「………んっ」
「…そうか、ユリアにはバレたか…」
「分かったのは、丁度あの契約書を使ってる時、学園で見た創太の力と、あの契約の時の力の光、同じ色してた。他にも私にユグドラシルを使った時も、同じ光見えた。眩しい白い、それで綺麗で美しい白金の色」
「それで思ったのか?俺の力とユグドラシルの力が、本質的には同じものだと?」
「ん、それで思った。ユグドラシルをそうポンポン使えるなんて、それを作れる人しか出来ない。それに創太についてたスーツの人、創太の暗い力の色と同じ色見えた。だから、そうなのかなって」
「…正解だ。おめでとう、まあこれも契約書の内容で縛らせてもらうけどな、新しい契約書でだが、前回のよりも強い物かつ、アリアにしか特効性のない物を」
こうして創太は、『聖遺物殿』から【螢惑】【静印結界】【警戒印付与】を発動する。そして道路の中で胡坐をかいて座り、アリアに目配せして集中する。
「見とけよアリア、人生生きてても見れない貴重なユグドラシルを創造する瞬間だ」
「………んっ」
創太はゆっくり純黒と白金の力を吐き出す。反発を抑え、混ぜ合わせ、そこに指向性を生み出す。ゆっくりと自分のイメージする形へと変えていく。そして
「ふう、出来た。」
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紅と純金の名の元に。――創造契約――
ある人との絶対の誓いを結ばんとした願いが、創造と虚無の力によって形になったもの。
◇絶対契約
契約を結んだものは、その契約内容を絶対順守させられる
◇契約隠蔽
契約の内容を誰からも悟ることが出来ず、伝えることもできない
◇契約設定
契約の内容を設定でき、その契約内容を両者の合意あれば更新することが出来る。
◇破棄原則
契約の内容を両者の合意のみで破棄することが出来る。もし不当に破棄された場合は更に強固な契約内容によって縛られることになる。契約内容はユグドラシル本体が決める。
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「…それが、『ユグドラシル』?」
創太の手には、まるで中世の羊皮紙みたいな少し風情のある紙切れを手に持っていた。
「ああ、これが『ユグドラシル』を創造するって事だ」
「……凄い」
「まあな、世界で唯一だろうな、こんなある意味では恵まれた力を持っているのは」
「んっ…確かに」
「じゃあアリア…契約だ」
「んっ、分かった」
「内容は勿論“俺の力の一切をあらゆる人に伝えず、俺の力に関するありとあらゆる事象を伝えさせず・勘繰られる様な事も一切しない”という契約内容だ。いいか?」
「ん…問題ない」
「じゃあ行くぞ…【契約】」
その瞬間、創太とアリアの心臓の位置に蒼・紅と点滅する様な炎が灯る。
「不思議…熱くない」
「まああくまでも契約の一部だからな、今契約の内容が心臓に刻まれている…終わったぞ、今からは契約内容を順守してもらう」
「んっ…」
「じゃあ、アリアの家に行くぞ」
「んっ」
こうして創太とアリアは、アリアの家に向かって歩き始めた。
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