第18話
「私が生まれたのは英国の小さな町だった、だけど事故の影響で母が死んだ。そして母がいなくなった父は情緒がどんどん不安定になっていって、お金も仕事も失った。丁度その時…【ユグドラシル】が現れ始めたのは」
「そしてどんどんと【ユグドラシル】が認知されていくと同時に、父の心も荒んでいった…虐待もされた。その時の私は耐えるしかなかった。耐えて学校に行っても、家があの状態だったのに友達なんて作れるはずもなかった。そのせいで学校でも家でも居場所何てほとんどなかった」
「その時に受けたのが適正テスト…私は高い適正があると判断され、その適正を買ったイオ二クス家が私を買えないかと父を訪れた。その時代は適正がある人間が重宝されたから…、勿論父は諸手を上げてサインをしていた。私の命と数億の金を以て、父の喜んだ顔は久しぶりに見た」
「勿論私も喜んだ。これであの家とおさらばできる…って思った。けど、イオ二クス家に行っても私はよそ者扱い。しかも分家の子の虐めも少しあって、その屋敷は少し広い程度で父のいる屋敷と変わらなかった」
「私は負の感情を忘れるように練習に没頭していった。魔力の練りや『ユグドラシル』の使い方をどんどんと学んでいった。それがまた虐めを加速させる事も知らずに、私がそれを嫉妬だと感じるまでに、そうそう時間はかからなかった」
「他にも様々な事があったけど、私への偏見はどんどんと加速していって、屋敷全体が私を排斥するムードがどんどんと重なっていった。それに唯一反対していたのがイオ二クス家の当主の兄であるルーデン叔父様。私を買おうと決断したその人らしい。その人だけは私の事を偏見して見なかったし、私も少しは心を開けた。だけどルーデン叔父様の抵抗も虚しく、私は日本へと迎えることになった。日本には高いレベルの探索者学園があるから。」
「―――こうして、私は今ここにいる。」
「…案の定だとは思ったが、随分と波乱な人生を生きているもんだ」
「国に喧嘩を売れるほどの組織を高校生で創り上げている創太の方が、凄い人生。送ってると思う…」
「俺?俺の人生なんて語っても面白くないからな、また語れたら語ってやるよ」
「十分面白いと、思う…けど?」
「気分の問題ってやつだよ」
「ん…そういうもの?」
「ああ、そういうものだ。まずはある程度休んでくれ、学園にはこっちでどうにかする。しばらくはここにいてくれ、そうだな…何かあったらこれを使って俺を呼んでくれ」
そして、創太からアリアへと手渡されたのは、黒の小さなシールだった。
「これは【黒玉楼】というユグドラシルだ。効果はもう一つの対となる所有者との念話を可能にするユグドラシルだ。これで対話を可能にしておく、声のオン・オフは所有者が決められるから心配するなよ。ああ、あとこれだ」
そして創太が渡したのは、契約書ともいうべき紙切れ。
「これもまたユグドラシル。名を【罰神の審判書】。まあ契約書なのに変わりはないが、もしも破った場合もしくは不当に契約が打ち切られたと判断された場合には罰神の元に審判が下され、そしてある程度ではあるがその契約を履行するための強制力を働かせることが出来るという物だ。勿論サインしない事も可能だが、サインをしない場合は扱いは先ほど言った通りになる。どうする?」
「サインは…する」
「分かった。じゃあここによろしく」
「ん……」
こうしてアリアは、創太の創造した【罰神の審判書】へとサインを完了させる。
「よし、これでサインの内容は完了だ」
「ん…」
「じゃあ本当に用は終わりだ、何かあったら連絡くれ、じゃあな」
「ん…ありがと、創太」
◇
創太はアリアと別れた後。すぐさまイシュタルを【水楼雫の涙】で呼びつける。場所は『澪』のアジトの会議室。議題は勿論イオ二クス家のことについてだった。
「イシュタル、今すぐにイオ二クス家を調べろ」
「はい、マスター。どこまで踏み込むおつもりで?」
「全てだ。踏み込めるところには全て踏み込んでおけ、拠点の作成も検討しろ」
「了解しました。という事はあの者はこちらで管理するという事で?」
「ああ、面倒を見る。また世話をかけるが許せ」
「いえいえとんでもない、我らマスターの為に。では英国へと飛びますが…行動が開始されるのは明日からになりそうです」
「それは俺が移動型のユグドラシルを創造する事も含めてか?」
「はい、そうでございます」
「分かった、今すぐ作ろう」
「ではこちらは部隊の編成を開始します。明日の朝には編成は完了しているかと」
「了解した。こちらも準備を進める」
こうして創太とイシュタルは、それぞれの責務の為に分かれ、創太は『澪』のアジトの中でも創太に与えられた部屋、一番静かであろう自らの部屋であるマスタールームへと足を運んだ。
◇
「さて…何から作ろうか…」
創太は前回とは異なり、異物音を取り除く結界を張り、作業へと移ることにした。
(まずは今回の作戦で何が足りなかったか……圧倒的に『ユグドラシル』の扱う総量が多かったからか、『顕現』機能があっても必要だろう、ユグドラシルを格納でき、かつ持ち運びのいい物を創らないとそろそろ不味そうだ。これからも『ユグドラシル』を扱ていく量自体が増える事も考えて、持っておいて損はないだろう)
(そして二つ目だが、【水楼雫の涙】の強化だな、前回はピアス型で、音声を送受信する者だったが、アリアに渡した念話型にしておきたい。まあ【水楼雫の涙】自体が分裂する一つの『ユグドラシル』だから改良は俺が持つ親であるそれを改良すれば問題はないはずだ。これも対処可能だろう)
(そして三つ目はそうだな、転移を行うユグドラシル…昔なら技術の面で創れなかっただろうが、今は【時間交点】や【復元セヨ我ガ時――我が手に時を――】を創造できる程にまで成長出来た。今の俺なら時間・空間にある程度作用できるユグドラシルを創造可能だろう。と言っても限界の力を出して望まないと難しいだろうが)
こうして創太が想像するユグドラシルの内容が形作られていく。
一つ目が転移機能を持つユグドラシル
二つ目が【水楼雫の涙】の強化モジュールの様なユグドラシル
三つ目が持ち回りが良い・容量が大きいバックパックの様なユグドラシル
この三つを創太は創造しようとする。
「じゃあ…行くか」
創太がそう呟くと、フッと息を吹く様に【創造】の【虚無】の力を吐き出していく。白金の光と純黒の光が反発し、混ざり合い、そして一つの形を成していく。
「ふう…出来た。」
こうして光の先に生まれた物がこれだ。
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創世の宝水
世界を繋げようとする指向性が、万能の力である創造と虚無の力によって形になったもの。【水楼雫の涙】に振りかける事で、創世の如き力を【水楼雫の涙】に与えることが出来る。尚、【水楼雫の涙】に『創世の宝水』を振りかける事で、性質が変化し【創生の神雫】へと生まれ変わる。
◇通信機能。
【創生の神雫】同士での念話が可能となる。人物を指定しての念話や、グループによる念話を可能にする。
◇所有者設定。
所有者としての設定を確立させる。解除は所有者のみ可能。所有者以外の悪意ある者が触れた時、その存在を隠蔽し感知されないようにして、所有者の元に『顕現』する。
◇端末分裂。
【創生の神雫】を元に、端末として分裂させることが出来る。端末から分裂させることも可能だが、その機能を解除するためには親端末の許可が必要。
なお子端末の能力は親端末が設定することが出来る。
◇上位顕現
『顕現』の上位版。所有者の意志により『顕現』することも可能とし、『所有者設定』を行っている者ならば、例えそれが手元になくとも【創生の神雫】の能力を行使することが出来る。
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「これは…俺の能力も強化されてる気がするな…」
昔の創太なら、このレベルの創造をするだけでも倒れる程なのだが、どうやら創太の力は強化されていたようだ。
「まだ余裕があるな、これなら行けそうだ」
創太は自分の生命線である能力の強化に笑みを浮かべながら、次の創造へと意識を集中させていった。
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聖遺物殿
異空間を生み出し聖遺物を隔離したいという世界の理と反する指向性を、創造と虚無の力によって形にしたもの。
◇異空間収納
異空間に物を収納する事が出来る。大きさは所有者の【創造】の力の大きさに比例する。
◇所有者設定
所有者を設定することが出来る。条件は【創造】の力を持つ者。設定をしていないかつ害意があるものが触れようとした場合、空間の切れ目に吸い込まれる事になる。
◇時間設定
所有者が異空間の中に入っている対象物の時間の経過の有無を設定することが出来る。
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バビロンの指輪
空間を超えるという理を反する理念を、万能の力である創造と虚無の力によって形にさせた物。
◇空間転移
情景を頭に浮かべて指輪を行使することにより空間を転移することが出来る。近ければ近い程創造の力の消費が小さく、遠い程大きくなる。
◇魔力代用
創造の力の代わりに、魔力を使って転移する事も可能。
◇魔力貯蓄
飛びたい場所を思い浮かべて念じると、そこまでの転移分の魔力をチャージする事が出来る。チャージが完了した後は所持者の念によって転移が開始される。
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バビロンの神殿
空間を更に大きく捻じ曲げたいという世界の理に反する指向性を、万能の力である創造と虚無の力によって形作られた物。
◇指輪連動
『バビロンの指輪』を神殿と連結することで、『バビロンの指輪』の能力を大幅に上昇させて行使することが出来る。
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(あ、ヤバい。力が…)
こうして創太は、『バビロンの指輪』『バビロンの神殿』『創世の宝水』『聖遺物殿』を創造すると、意識を失って頭から床へと倒れ落ちた。
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