第17話
(ん……ん?こ、ここは……)
自分の意識がまだ暗闇にあることを知りながら、それでも覚醒させようともがく少女の姿。
(確か、私は……ハッ。確か、攫われた…よう…な)
アリアは自らが危機的状況に立たされている事を理解しながらも、本能ではそれを拒む。だが理解しないといけないというもう一つの本能が、アリアの意識を覚醒させていく。
「………リア」
アリアの意識が徐々に覚醒していき、音が響き、声が聞こえてくる。それは自分を呼ぶ声、何処か懐かしい声。
「………………アリア」
確かに聞こえた、自らの名前を呼ぶ声、その声に従って更に意識を覚醒させていく。
「………アリア」
確かに聞こえる懐かしい声、もうアリアの意識はその声が誰なのかを認識するほどヘと覚醒していた。
「起きたか、アリア。よかった。本当に良かったよ」
完全に覚醒したアリアの目の前には、何故か中宮創太がそこにいた。
◇
『澪』のアジトへと創太が撤退してきた頃には、全ての部隊が撤退しており、事後作業に追われていた。
マルクス・カメロンの両者は部隊の確認や資材の確認などの事後処理、イシュタルはデータ類などの確認をしていた。
今回完全に裏方に徹していたヨイヤミの部隊は、研究所を破壊後のバックアップを主に行っていた。
「お前ら、全員帰ってきていたんだな、俺が最後か?」
「はい、そうでございます。マスター。現在私はデータの管理やデータから後がつかないかどうかの確認を。マルクス・カメロン両名は資材は人的損害の確認。ヨイヤミには作戦終了後の警戒とバックアップに回ってもらっております」
「そうか、総隊長としては、俺の行動に関して申し訳ないことをした。許してほしい」
「いえいえまさか!マスターの命令を完璧にこなせずして、どうして我々がいるのか。マスターの命令を全てこなして初めて、我々には生きる意味が生まれるのです。ですので何も、気に病む必要はございません」
「……そう言ってもらえると、助かる」
「勿論でございます。マスター」
「早速だが、部屋を一個貸してくれ、その後に俺も事後処理に回る。何をやればいい?」
「その者への部屋の手配は済んでおります、ご安心を。事後処理と言ってもほぼ終わっているようなものですのでご安心ください。ですが、ヨイヤミに一声かけていただけると、彼もお喜びになられるかと」
「ああ、分かった。イシュタルは特にヨイヤミと仲がいいんだな」
「ええ、彼の忠誠心や心意気は、私としても気持ちがいい者でございます故、これからもマスターの御側でこの身を捧げられたらと」
「ああ、もちろんだ。お前も忙しいだろう?私の為に時間を取ってくれてありがとう。俺も行く。世話になった」
「いえいえとんでもない。お気をつけください。マスター」
その言葉を後ろに、創太はヨイヤミの向かう裏町の外周上へと足を運んだ。
◇
「おお、いたかヨイヤミ」
「エエ、何用デゴザイマスカ、主殿」
「今回のお前の働きに報いるためにと思ってな」
「…!トンデモゴザイマセン、デスガ、お役二立てたノナラバ何ヨリ…」
「と言っても情けない話なのだが、この事もまたイシュタルから諭されてしまってな。部下の気持ちも悟ってやれないダメな主かもしれないが、どうにか許してほしいと思う」
「マサカ!我ノ蟻ノヨウナ働きニコウシテお言葉ヲカケテ下サルダケデモ感謝ノ極み…」
「そう言ってくれると助かる。これからも駄目な主かもしれないが、お前達に相応しくあれる主になるように精進するよ」
「我モマタ、コノヨウナ主ニ仕えられるコトガデキ、真ニ光栄デゴザイマス」
「ありがとうヨイヤミ、それで今回の任務ではどうだった?」
「謀反ヲ企テテイルモノハオリマセンデシタ。敵ニモ情報ハ漏レテイナイカト」
「ああ分かった。ありがとうヨイヤミ、お前ももう少しの間だが任務を続けてくれ。今回の任務ご苦労だった」
「コノ命。ワガ主ノ為ニ」
こうしてヨイヤミとの会話を終えようとしている時、看護担当の者からの連絡が入った。
―――アリアが目を覚ましそうだと。
◇
創太はヨイヤミとの会話を切り上げ、すぐさまアリアのいる部屋へと駆けつけた。そこではアリアが首を鳴らして呻いているのが分かった。どうやら少しうなされている程度らしいが、無理もない。攫われて魔眼の研究に何をされるかわからない状況だっただろうから。
「ん………うう」
アリアが少しうなされながらもゆっくりと目を開ける。どうやら無事に意識を取り戻したようだ。
「起きたか、アリア」
「うう……創……太?」
「ああ、俺だ。創太だ」
「何で…創太が?」
「詳しい事は後で話そう、それよりも大丈夫か?体の調子は?どこか悪い所は?」
「…う、うん。どこも悪い所はない、少し怠いぐらい…?」
「それは良かった。じゃあ、早速で悪いが話そうか、何故アリアがここにいるか」
◇
看護担当曰く“体のどこにも不調は見当たらない”とのことだったので、どうやら無事に生還出来たと創太は胸を撫で下ろしつつ、アリアと今後を考えるための情報共有が必要だと考えた。最もアリアの為の情報共有なのだが。
「早速だがアリア、自分自身に何があったかは覚えているか?」
「ん……確か学園に登校中に、車から複数で囲まれて、攫われて…そこからはあんまり覚えてない」
「自分が攫われたってことは分かっているのか…。そこでは何をしたとかは?」
「覚えてない…睡眠薬かなんかで眠らされていた…」
「でもアリアが抵抗できなかったなんて相当の敵だな…大体検討はつくが」
「手練れた感じ…した」
アリアはこれでも【ユグドラシル】を扱うあの学園では学園でもトップテンに入る程の使い手である。
「まあだろうな、そいつらは多分命令でいつも“魔眼持ち”なんかを攫っていた連中だろうしな」
「それで…創太は何故、ここにいるの?…」
「ああ、俺のことな、俺の事は一から全部説明してやるから、同時に、なし崩し的だがアリアは俺の組織の監視下に置かれる」
「組織?監視下?」
「ああ、俺は魔術結社『澪』のリーダー。って言っても理解はできないと思うが、俺は今その組織のリーダーを務めているからな。それにこの組織に置いて情報の漏洩は絶対に避けられない。つまり逃げられないってことだ。よく覚えておいてくれ。容赦はできない」
「…うん。」
「まあと言っても何をするだけでもない。あの連中と比べたらマシだと思うぞ?」
「?…私を攫った連中は何をしようとしていたの?」
「人体実験だよ。それも『魔眼』の秘密を解明するための。な」
「………!!」
「ああそうだ。アリアは人体実験を受けるかもしれなかった。あの研究所はそういう所らしい、どうやら【ユグドラシル】や【魔術】と言った事から少し外れた事象…そう、『魔眼』と言った“ある一定の人間にしか起こらない特異な事象”なんかを研究するために生まれた施設らしい。ちなみに主導は国だ。」
「……!国がそんな事を?」
「ああ、まあこの世の中じゃ何が起こっても不思議じゃないってことだな。と言っても俺もアリアを助けるためじゃなかった。依頼だったからな」
「依頼?」
「ああ、どの組織にも金は必要だという事。まあ俺たちの仕事ってやつだな、裏でしかできない事もあるってことさ」
「ふ~ん」
「それでアリアの今後だが…申し訳ないがアリアの身柄はこっちで預からせてもらうぞ、ある程度の契約はしてもらう。勿論『ユグドラシル』による契約だから破ったら身体に影響が出るし、そもそもある程度の魔術的制約を施すから言いたくても言えないようにもする。勿論学園には通ってもらって構わないぞ、勿論学園に行く際は制約を施すが、施さないという選択も可能だ。ただし学園にも通えないし、物理的にも監視を増やす。一生という訳にはいかないが、おそらく長い間はここにいることになるだろうな」
「ん、――――その制約、きちんと受ける」
「それに俺たちが喧嘩を売ったのは間接的にとはいえ国の一部分だからな、それぐらいの制約を施した方がアリアの身の為にもなると思う。勿論不自由する事に変わりはないがな」
「………!!創太、私が囚われていたのは、本当に、国の機関?」
「ああ、本当だ。国が援助をしていた、それもまとまった額だな」
「私の家族、英国でも名のある家、養子だけど」
「それが………ああ、成程。でも、それがもし本当なら…」
「ん。把握してなかったか、それとも分かってて実行に移したのか」
「もし分かっててするならば、バレてもその研究所を皮切りにして良かったのかどうかで分かれて来るな」
「ん…そうだね……」
「でも、アリアの有名な家って言うのはどういう事なんだ?」
「…言わなきゃダメ?」
「そうだな…今の状況を打開するためにも、ダメだ」
「ん。………分かった、言う」
「ああ、よろしく頼む」
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