第15話
俺の名前は玉枝俊。所謂研究者って奴さ。
それも、多分だがマッドサイエンティストって部類に入っちまうんだろう。
俺の人生は至って平凡だった。
人よりもちょっと地頭が良かったからか、それとも人体って奴に興味があったからなのか、俺はその手の研究をしていくうちに、国家の研究――究極的に言えば、兵士を人として強化出来ないか?という、もっと噛み砕いて言えば、“無敵の兵士を作れないか?”という、半ば幼稚の思い付きの様な研究を、真面目に繰り返していたわけだ。
勿論そのプロジェクトに参加するときは諸手を上げて賛成した。何より給料が良かったし、俺も国にその頭脳が認められているのだと思うと、気分もよかったしな。
でも最初の…そうだな、三か月ほどは地獄だったぜ、負傷した兵士、動けない兵士なんかが日夜研究の材料にされて、うめき声をあげてんだ。そりゃあ嫌にもなった。なったけど、そこは死ぬ気で耐えたんだ。何よりもこれが研究という物だという事が、俺自身一番わかってたからな。
そして気づいたら、人がうめき声をあげているのなんか気にならなくなった。いくら声を上げていようが、何も思わない。まるで機械の様にそれを殺すかもしれない薬を投与して、それでもがき苦しむその姿を見てノートとペンを執ったよ。もうあの時から俺の心の中は壊れたんだろうなって。
それで世界から『ユグドラシル』なんて物が現れ始めて、それでもいつも通りの日々が続くもんかと思ってた。だけどソレがもたらしたモンは、俺に関係するものでもあったんだ。
そう、平たく言えば、『魔眼』なんていうよくわからない力だよ。
それは一部の人しか発現しないらしいが、その『眼』はすげえ力を持ってるって誰もが思ったよ。俺も資料を読んだら一発で感じた。「ああ、こいつは人間が持っていいものじゃねえな」ってな。
だけどよ、国は“こいつのメカニズムを解明して、こいつを兵士に取り付けたい”などと言いやがった。当然拒否できるわけもなく、自然に俺たちの仕事は“魔眼研究”へとシフトチェンジしていくことになったんだ。
底からはまたいつも通りの日々だ。ただうめき声が男だけじゃなくなった。女・子供のうめき声も聞く様になったよ。中には悲鳴も勿論あった。そりゃあ聞いてて気持ちのいいものではなかった。だけど俺は、いや俺たち研究者って奴は、心を壊す才能でもあるらしい、三日で慣れてしまった。
そして、今日もいつも通りに研究を開始し、そして時間も忘れて研究を進めていたんだが、紅いランプと甲高い声で鳴る警報音、こんなことここに来てからなかったからよ、研究者はパニックだ。そこからの記憶は………
「はぁ、はぁ!なんだ、何だよこれ!!」
俺は逃げたよ、急いで逃げた、生憎空いてる男手がいないからって、被験者の女の子を担いでな、俺たちの命よりも、サンプルが敵に奪われない様にするのが精いっぱいだった。生憎、俺たちのデータは全て暗号化されているから、他に持って逃げるのは資料とか被験者とか、当然この子も被験者だ。
だがなぁ、見ちまったんだよ、俺は、俺が逃げる先にある、3人の研究者。名前までは思い出せないが、そいつらが死んでいるのを。
「早く、早く早く早く!!!」
俺は我を忘れて逃げ出したよ、自分らどれだけ命というものを無責任に削っているのか、その罪を忘れて、みっともなく小声で叫んでるんだよ。
思ってもみたら、この一連は神様が俺たちに与えた罰だとさえ思える、俺たちがやってきたことを悪いこととは思ってはいない。それが仕事だし、それが研究者だ。だが、それが許されるかと言われれば、許されねえんだろうよ。
だから、今となっては仕方ない。そう、俺はここで殺される運命だったんだ。
―――ブシュッ!!!
「いやだ…死に…た……く…」
そう、これで良かったんだ。
◇
カメロンは、研究所内部に侵入してから広範囲の監視と破壊を命じられており、実際に彼の偵察・暗殺などなんにでも使えるオールラウンダーなため、自分でもこの役割は適任だと思っていたのだ。
そしてカメロンの部下に隠密をフルに使って潜入させていたところ、部下からの情報に驚愕が混ざっていた。
「研究者一名。今も逃走中。もう一人は捕虜…だな。ですがあの眼は、間違いない。魔眼だ」
『こちらオペレーター、容姿などは分かりますか?詳しくお願いします』
「…金の髪、今の眼は黒目だ。魔眼状態は確認できていない。服装は…創太様の通ってらっしゃる学園と、同じ制服じゃあないのか?」
『……っ。今すぐ創太様に確認を!オペレーターです。緊急です創太様。容姿・動機が一致しております。今カメロンの部隊が見つけてきた人間は、アリア・イオ二クスだと推察されます』
「こちら創太だ………っ。了解した、カメロン、お前は部隊を全面に出して研究者を妨害。生死は問わない。全力でアリアを助けろ―――
――――俺の我儘だが、聞いてくれないか。」
「……はい、もちろんですとも。主様」
この部隊には誰にも、創太に対して意を唱える奴などは一切いないのだ。創太がやりたい事が出来たなら、たとえ任務があろうともそれをやり遂げる。出来なかったらそれは創太の責任ではなく、出来なかった自らに全ての非がある――。そう考える人種なのだ。そんな奴らに創太の“願い”を前に断れるはずもないのであろう。
現に今、カメロンは不敵な笑みを浮かべ、創太の願いを叶えんと、創太から受け賜わったユグドラシル【七宝の転衣】と【湾曲の極剣】を構えて向かう―――。
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