第14話
約束の8時、『澪』から少し離れた場所から地下へと続くトンネルへと潜り始める、イシュタル、マルクス、そして創太とシュラル。全てが地下のトンネルへと潜り、足場を進み、そして今は地上での位置で言えば東京の近郊だ。皆が研究所を囲むように配置されており、脱出口は侵入口の穴と合わせて15カ所も用意されている。5つの班は今か今かと作戦の是非を待つ。
「こちらイシュタル班。問題ありません」
「こちらマルクス。問題ない」
「…こちらカメロン。問題ない」
「こちら創太だ。問題ない」
「我々“ヨイヤミ”班モ、問題ハ無イ」
今、こうして通話が取れているのは、これまた創太の創造したユグドラシル【水雫楼の涙】と呼ばれるユグドラシルだ。
効果は【水雫楼の涙】自身による分裂効果、そしてその分裂した個体同士で行われる通信機能だ。ちなみにといっては何だが、【水雫楼の涙】自体は分裂した個体から更に分裂することも可能な代物かつ、通信できる相手をグループとして一纏めにできるグループ機能も付いている。電波なんていう物もいらないため地下でも安定して回線が確保できるのだ。
そして今回。『澪』の中でオペレーター役もいる。情報をそのまま流すだけだが、それだけでも十分な役割なのである。勿論オペレーターを使う時もあるが、使わない時の方が多い、ちなみにオペレーター役は『澪』グループの中の非戦闘員に分類される構成員に担ってもらっている。
『こちらオペレーター。全ての隊の準備完了を確認しました。創太様。イシュタル様。ご指示を』
「ではマスター、私が指揮をとらせていただきますが、よろしいですか?」
「ああ、構わない。非常時の場合は私が指揮を執る。よろしくな」
「それでは………各自、蹂躙を開始せよ」
イシュタルのその一言で、5カ所の地下から研究所に向かって破壊音や破裂音。振動音すらも聞こえる。そして創太の班も
――ドオオオオオオン!!!!――
試合のゴングは、すでに鳴らされてしまったのだ。
◇
『研究所内で爆発発生――。緊急事態です。ただちに避難を――』
研究所内は白い蛍光灯に照らされた昼も夜も分からない様な所から一遍。赤のライトと警報が鳴り響き、まさしくここが危険地帯だと認識させられる場所へと変貌していた。
「はあっ、はあっ、いったいどうしてこうなってるんだ!」
その中を逃げ惑う白衣の男、名前を浜里佑太。その男には焦りの表情しかなく、想定外の事態に混乱が収まらない様だ。そしてその男は見た。地獄の様な仮面をつけた、人間とも呼べない者共を連れたその軍団を。
「――――っ!!!!!!」
「あら、第一発見者ですねぇ~、さて、早速ですが…死んでください。やっていいですよ、ゴルゴ―ン」
そんな、まるで非常識が服を着て歩いているかのような男は、近くにいるこれまた人間とは遠くかけ離れた異形のモノに対して、ゆっくりと、だが確実にその男を殺すための命令を下し。そして
“ああ、僕死ぬんだな”
そう思う程度には猶予があったのだろう。もう体に力が入らずにバタリ。と地面に倒れ込む。
「さて、さっさと行きましょう。ああ、もちろんですが…私達を見た人間は、それが例え女子供だろうと、殺しなさい」
創太の右腕、イシュタル。その本性は主の為を思う立派な従者。その一方でまた、全てを噛み殺さんと牙を剥き知恵を絞る彼もまた、彼の本性なのだろう。
◇
「さて…俺たちも行きますか、先遣隊が突入しているだろうから、ある程度俺たちも壊せるもんを壊して帰るぞ」
「はい、主」
「「「「了解しました」」」」
「じゃあ、行くぞ」
そうして創太も、警報と赤いブザーの鳴る研究室へと突入した。勿論研究員なんていないし、警備員すらいない。まあもうそろそろ来るのかもしれないが。
「じゃあ、まず一つ目。お前らの監視カメラを無効化させてもらおう。【紅林の幻覚霧】」
創太がそれを唱えて、筒状のモノを地面へと投げつけると、まるで煙のようなものが勢いよく噴射されていく、そしていつの間にか創太達の姿を隠していく。
「そして二つ目。磁気破壊ってやつだよ【プラズマネット・スパークル】」
そして創太がゆっくりと指をパチン!と鳴らす。すると
――ピリッ
―――ピリッッ
―――――ビリッッッ!!
まるでスパークのようなものが一瞬で生まれたのだ。煙の中から。
この二つのユグドラシル。【紅林の幻覚霧】と【プラズマネット・スパークル】はそのコンボによって、凶悪な物に変化する。
【紅林の幻覚霧】とは、煙を浴びた者にまるで不気味な赤い林にいるかのように幻覚を見せ、その中で魔力や体力を微弱に少しずつ削っていき、最後には昏睡状態に陥れるユグドラシル。
そして【プラズマネット・スパークル】は、その中に一秒ごとに威力がランダムに変わる小さな雷のような集合体を発生されるユグドラシルだ。だがこのユグドラシルの弱点は小さな雷を断続的に生み出すまではいいのだが、その後に関する影響が威力の割には低いなどがあげられる。
だがその煙は雷という断続的に発生する雷を保存しておくには十分だった。【紅林の幻覚霧】というのは雲と構造的には似ている。つまり雷をため込んでおくには最適という訳だ。
しかもその雲は広がり続ける。そしてその中にも雷はしっかりとある。つまりこの二つの合わせ技は小さな、だがしっかりと増殖する雷雲を作るユグドラシルの使い方と言える。
「おお、この威力はすげえな。これならすぐ終わりそうだ―――さて、向こうの様子はどうだろうな?」
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