第13話

「さて、イシュタル。準備はできているか」


「ええ、勿論。私の能力『悪宵宴<あくしょうえん>』にて、ゴールンやその上位種を召喚しており、即時戦闘が可能です。他にもマルクス・カメロンも同様に魔獣を召喚・使役している最中でございます。ヨイヤミは現地で監視活動を行っており、我々が合流次第行動を共にする予定です。そしてフジワラ・ハギノそしてモリモトもここで待機となります。フジワラに関しては何かあった際の防衛及び逃走口の確保をお願いしております」


「上出来だ。ではあとどれぐらいに実行に移せる?」


「あと一時間半…8時がベストでしょうか、あの研究所では昼も夜も関係なく、そのセキュリティ維持のために窓すらないと聞きますから、向こうに昼夜の感覚はないでしょう。それに地下ですしね、人目にもつきません」


「了解した。お前の作戦を信じよう」


「ええ、お任せください」



今回の作戦の概要。それは地下にあることを利用したトンネルの採掘による侵入口及び逃走路の確保にある。何個もある侵入口から一斉に攻撃を開始し、そしてバラバラにある逃走路から一斉に逃げるという物だ。この際に重要になるのは“証拠をどのように消すか?”であるが、その点については創太の創造したユグドラシル【時間交点<タイム・ピール>】を各部隊ごとに配ってあるため問題はない。


この【時間交点】の能力は「記録していた時間の記録していた空間と同じ造形を嘘偽りなく映し出す」というものである。


その能力は言ってしまえば“セーブ&ロード”の概念の空間版だと思ってくれればいいのだが、まず映し出した異空間に向けてその空間をセーブし、そして起動すると同時にセーブしていた空間をロードして映し出すのだ。

実際には土やコンクリートで埋まった空間をロードして、掘って役目が終わったトンネルに向けてロードをするだけで、何事もなかったかの様にできるという代物である。

ただし弱点は存在する、それは無機物にしか働かないという点だ。つまり人間を“セーブ&ロード”はできないのである。


そして研究所内部では文字通り暴れまわる。研究データは破壊、同時に回収も視野に入れて行動。そのほかの実験器具も即刻破棄を厳命されている為、迅速にことを行なわなければならない。


「もうこんなにも経ったのか…」


時計の針を見ると7時半、マルクス・イシュタルは現在も自らの能力で召喚を続けているが、戦闘に支障が出ない程度のペースに落としている。皆が皆やるべきことをやっており、それを邪魔するのは違うような気がした。


「主殿、遅くなって申し訳ない」


そう言い放ち創太の元に近づくのは10階層にて主の配下になることを誓ったシュラルである、だがその恰好には創太が授けた一級品の『ユグドラシル』がしっかりと並んでいた。


「おお、似合っているじゃないか、その剣を与えてよかった」


「主様に頂けるなど、光栄の極み」


こうして主点はゆっくりと片膝をつきその礼を示そうとするが、創太はあまりの崇拝度に少し呆れている。


「まあいい、どうだ?その刀と鎧は」


「ええ、まるで私の体がこの武具を求めていたかの様にしっくりと来ます。やはり素晴らしい…この【周天:鎧】と【周天:秋刀】は」


ユグドラシル【周天:鎧】及び【周天:秋刀】は、二つで一つとなっているユグドラシルであり、両者がそろって初めて本物以上の力が出せる。秋刀の方では刀に魔力を纏わせて放つ『日天斬』や、魔力を纏わせて純粋な破壊力を増大させる『日光』など、様々な能力が詰まっている、対して鎧の方は、刀で斬った者の魔力を奪い、貯蓄することが出来る魔力タンクであり、同時に鎧を強制解除することで、タンク分の魔力を爆発させることもできる自爆機能まで備えている。


「それは良かった。大事に使ってやってくれ」


「それは勿論のことでございます。主殿、イシュタル殿から私は主と共に敵地に侵入せよとの言伝でございます。よろしいですか?」


「ああ、構わないとも、よろしく頼む」


ちなみに部隊は5部隊。どれもがある程度の戦力を誇っている。

イシュタル率いるゴールン・ゴルゴ―ン部隊。

マルクス率いるゴブリン部隊。

カメロン率いるハイドカメレオン隠密先行部隊。

ヨイヤミ率いるシャドウゴースト先行部隊。

そして創太。シュテン。更にはヨイヤミの暗殺及び戦闘特化の配下を何名か引き連れた主力部隊及び指令部隊。


この5部隊で事に当たる。カメロン・マルクスは先陣を切り広く部隊を布陣する。そしてそこをイシュタル・マルクスで迎撃、何か緊急で事が起こった場合などは創太やその場に居合わせた主力部隊で解決。といったシンプルながらにもそれぞれの役割に対する能力を十分に発揮できる布陣だ。


「おっと、そろそろ時間です。主様、ご準備を」


シュテンのその一言で、創太もまた、持ち場へと着くこととなった。



午後7時50分。『澪』のメンバーと、その配下全てが集まる最大級のホールの一番手前に、創太自身が立っていた。「トップであるあなたが言葉をたてないと示しがつかない」という考えの元、創太が毎回壇上に立ち、一言述べるのが習慣だ。


そして創太は決まってこう言うのだ。今回が最難関の任務であろうとも、創太には決まって伝えるフレーズがある。


「全て、終わらせるぞ。」


――ウオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!――


対『魔眼研究所』攻略開始――

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