第8話
そして創太は、難なく10階層――『フォルバ』第一の壁、ボス階層へと足を運んでいた。創太の目の前には創太の高さ3人分の大きな、それでいて禍々しいデザインの扉と、怪しげな灯りを灯すランタンが対になるように置かれているだけ、その中で創太は、<ELC>から与えられた情報を整理していた。
(情報によれば、10階層ボスは『グレートタウラス』。オーガ種の突然変異、その基本スペックはオーガと同種のものだが、オーガよりもパワー、スピード、そして何よりも耐久力が高いという情報だったな。そして武器は様々な種類が所持しているケースがあるが、太刀、槌、モーニングスター。なんていうのもあったな…。だがどれも鋼鉄製のモノばかりだが、グレートタウラスが使うととてつもない破壊力にもなる。と)
『グレートタウラス』が強い理由。それは基礎スペックもさることながらに、その耐久力と、鋼鉄製とはいえ武器で強化されたその破壊力だ。耐久力は20階層のボスにも引けを取らない。それだけならまだいいのだが、パワーがその武器達によって底上げされており、高い戦闘スキルを持っている者しかここを突破することが出来ない。まさに『壁』なのである。
「情報の整理は出来た。覚悟も出来た。準備もできている。さあ。行くか」
創太は一呼吸置くと、ゆっくりとその大きなドアを開け始める。ギギィ…と音を立てながら、創太を試練の魔へと誘う。
◇
創太が扉を開けて最初に目にした光景、それは暗闇。一寸先も見えない闇の中で、創太は目を凝らして見つめると、そこには微かに一体の生き物の姿が、それも二足歩行の、だが人間には思えない剛体をしている化け物。その一片が微かに見えた瞬間。怪しげに光る灯が徐々にその光を放ち始める。そしていつしかその光はその空間を包み、全てを見渡せる巨大なステージとなっていた。
「おいおい……嘘だろ?」
創太が見たのは他でもない。そう『グレートタウラス』だが、情報にはなかった鋼鉄で出来た鎧を纏い、そして『グレートタウラス』の後ろにはどう見ても鋼鉄より怪しげな光を放つ武器達が無造作にそのステージに刺さっていた。太刀、小刀、ナイフ上の武器から情報にあったモーニングスター、棍棒etc……。
「こんなことあるのか…ボスの変異種」
変異種。これは迷宮では良くある話だ。ゴブリンの皮膚が変色している。コボルトの殻が以上に堅い。などと言ったその種にはない特別な特性を持つ魔物――変異種。
そのケースでは稀であるが、遭遇、戦闘を行ったパーティーからは「通常よりも力が強い」という事を耳には聞いているが、ボスの変異種というのは前例がなかった。
そして何より、目をこちらに向けたまま腕を組み、そこに立っている姿はまさに威風堂々。脇に無造作に刺さっている刀が何よりの相棒なのだと理解できる。
「これは…少し本気を出さないと不味そうだ」
創太はゆっくりと自らの相棒。『虚露』を握り、しっかりと『グレートタウラス』の眼を見張る。そして。緊迫の中で一気に事態は動いた。
「GIGYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
腕を組んでいた『グレートタウラス』が一気に雄叫びを上げると、その手に刀を握り、一歩一歩地響きを立てながら創太の方へと向かってくる。創太も負けじと『グレートタウラス』へと向かって『虚露』を振り上げる。
両者の剣は――キィン!!と大きな音を立てながら、周囲を衝撃で包んだ。
お互いの剣は今、お互いを切り殺さんと触れあっている、一歩でも力を抜くと創太ですら持っていかれそうになるが、それは『グレートタウラス』も同じ。両者一歩も譲らずに刀を合わせる。
すると『グレートタウラス』は刀を逸らし後方へとそれる。負けじと追撃する創太だが、そこには衝撃の姿が映っていた。
『グレートタウラス』は投擲槍を右に持ち、構えの姿勢を整えていた。目線の先には勿論創太の姿が。
(回避できないっ!)
創太は、一瞬の内で回避できないことを悟ると、焦燥のままに叫んだ。もう『グレートタウラス』の投擲槍はその手を離れ、銃の弾丸を超える速度で飛び立とうとしている。そして
―――ドォォォォォォォォン!!!!!!!!
衝撃がステージを襲う。砂煙がお互いの視界を遮る。そしてお互いの視界の先には、大楯を構える創太と、刀を握り直す『グレートタウラス』の姿があった。
創太の持っている大楯――勿論『ユグドラシル』だ。曰く名を『不滅大楯――<イージス・シェルド>』創太の創り上げたユグドラシルで、【顕現】と【収納】の機能は勿論、“地球力を犠牲にして、大楯の目の前に魔力で出来た障壁を展開可能”という能力を持つ。そして創太はその槍を受け止めるために、全ての耐久力を犠牲にして障壁を貼り続けた。
「さあ、第二ラウンドと行こうか!『グレートタウラス』ゥゥゥ!!」
「GYAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
創太と『グレートタウラス』は睨み合いながら、それでも先に行動を起こすのは『グレートタウラス』だ。自らの持っている太刀を放り投げると、両手で持ってやっとという程の大剣をブンブンと振り回し、殺意を以て創太をにらみつける。
「さあ、第二ラウンドと行こうか。『グレートタウラス』」
創太も殺意に対して、殺意で返す。それが礼儀だと言わんばかりに、
そして二者は、お互いにもう一度激突を果たす。
◇
二者の激突。それはステージに大きな衝撃としてその事実を伝えた。だが二者とも違う点がある。『グレートタウラス』は両手で持ってやっとという程の大剣。そして創太はそれに対して、白のコントラストが美しいもう一つの剣と、二対の刀でその大剣を受け止めていた。
そして、勝負を仕掛けたのは創太の方だった。
「『神速』」
創太の一言で、戦況は大きく覆ることとなる。その証拠は、『グレートタウラス』の悲鳴を以て証明された。
「GIGYAAAAAAAAA!!!!」
『グレートタウラス』の悲鳴、それは太ももを切りつけられた事による痛みから。この戦いで初めての傷の代償は大きかった。
「悪いな。俺の勝ちだ」
創太がそう高らかに宣言する。そして創太は唱える。白の剣『白創』の力を引き出す祝詞を。
「<白亜の息吹>」
その祝詞は、魔術の祝詞。その言葉通りに、白の剣はゆっくりと冷気を吐き出し、そしてステージ上に一直線の氷の息吹を吐き出した。
これが『白創』の能力。この“双剣”は、お互いが対となって初めて発揮する能力。『虚露』が敵から魔力を吸い上げる。そして『白創』がその吸い上げた魔力を対価に魔術や術式を発動させる。正しく二対で初めて一つとなる剣。それがこの武器の特徴なのだ。
そして今、初めて『グレートタウラス』を切ったことで魔力が補充できたので、「<白亜の息吹>」と『神速』を行使出来たのだ。
そして「<白亜の息吹>」によって、膝から下が氷と化した今でも『グレートタウラス』は動きを止めず。むしろ雄叫びすら上げている。そして創太はゆっくりと、武器を下げたままに『グレートタウラス』に近づき、その額へと手を当てる。
「GIGAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
依然『グレートタウラス』は暴れている。いつ創太に牙をむいてもおかしくない状態だ。それが生存本能によるものか、また迷宮のプログラムなのかはわからないが、それでも己の感情のままに『グレートタウラス』は暴れる。膝から下が動かないと言ってもそれ以外は動く。上半身を巧みに動かし創太に一撃を決めようとする。が創太には効かない。そして
「その力。俺の為に使ってくれ」
創太はゆっくりと【解放】する。その力は黒の力。全てを喰らい。全てを虚無へと還す力。そして魔物を司る原初的で本能的な力。それを創太は『グレートタウラス』にぶつけた。その瞬間。『グレートタウラス』の動きが一瞬にして止まる。そして『グレートタウラス』の戦意が消えたと思うと、ゆっくりと意識を取り戻していく。
「成功だ。さて、俺の為に働いてくれるか、その力は是非、俺の為に使ってほしい所だが」
そういうと今度は、創太のもう一つの力を【解放】する。それは眩い光の力、何者にも染まらない純白。その白には全てを許す寛容と、そして全てを受け入れる器の大きさが見える。そしてその力の塊が、『グレートタウラス』へと吸収される。
そして、まるでスポンジの様にその力を求めた『グレートタウラス』が、ゆっくりと発光を始める。そしてそれは直視できない程の白金となり、全身を包む。これは創太とのきずなの証であり、進化の証でもある。その証拠に『グレートタウラス』という存在は昇華し『天鬼』と呼ばれる存在へと進化した。そして体はより人型に近づき、その筋肉は相も変わらず自己主張が激しいが、それ以外はほとんど人間と言っても過言ではない。そして
「俺は…俺は、一体……」
『グレートタウラス』、いや、『天鬼』が喋り始めたのだ。もう存在としては『イシュタル』や『カメロン』と同じ存在となった。
「ああ、起きたか、おはよう」
「貴方は、いや、貴方様は…」
「意識はしっかりしているか?お前は俺の力を受け入れた。それが契約の証とするが異論はないか?」
「意識はしっかりしていると思われます。契約…貴方が、私をこの迷宮から抜け出させてくれた主様なのですね!」
「ああ、その通りだ」
「有難うございます!貴方の様な存在に仕えられるなど、光栄の極みでございます!」
「契約してくれる。という事でいいんだな」
「ええ、勿論ですとも。さあ、何なりと名を」
「そうだな、お前の名は今から『シュラル』だ」
「シュラル、シュラルですね…かしこまりました。その名。喜んで拝命させていただきます」
「ああ、これからよろしく頼むぞ。シュラル」
「よろしくお願いします。主様」
こうして、新しい仲間『シュラル』が仲間へと加わった。こうして創太の10階層ボス攻略は幕を閉じた。
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