第7話

『迷宮』と一言に言っても、様々な種類の迷宮があるのだが、今回創太達が行くのは日本の中で最も『扉』がある迷宮。通称『フォルバ』である。


名の意味は特にはないが、4つ目の国を支える規模の迷宮が誕生したという理由から取られている。とも言われているが、だがこの迷宮が日本で今一番知られているのが、迷宮全ての特徴である『扉』にある。


『迷宮』には無数の『扉』を生成することが出来る。

いくつもの扉のどこから入っても全て一つの迷宮に繋がっており、かの『八代迷宮』であっても迷宮である以上このルールに則って扉を生成している。この扉があるからこそ、迷宮内に入ると違う国籍の探索者と出会うという事も少なくない。一方迷宮『フォルバ』の特異な所として、日本にのみ集中して迷宮へと繋がる『扉』が数百にもあるため、日本で一番ポピュラーな迷宮は『フォルバ』なのはそのためである。


そして、迷宮攻略を行うためには<ELC>によって定められた“迷宮攻略認定者“。この条件の認定が行われる必要がある。この条件を満たさないと<ELC>からの庇護が受けられず、もしこの条件を破った場合<ELC>からの駆除。排除。敵対も考慮に入るという厳しい対処が待っている。


・満20歳以上。

・<ELC>の出す試験をクリアーした者に与えられる<UPAS>を所持している者。

・犯罪歴が無い者。


大まかに言えばこの3つ。創太はまず1番すらクリアーしていないのだが、そこは『澪』の力を借りて何とかしている。


創太には“もう一つの身分”。『京極拓斗』としての身分が用意されている。その身分上では、22歳。<UPAS>所持済みなどといった迷宮攻略の為の条件を全てクリアーしている身分だ。


そして創太は黒のコートに黒の防御服と言った最大限の準備を済ませ、創太は『澪』のアジトを出発した。



創太は迷宮『フォルバ』の『扉』にある<ELC>支部に足を運んだ。内装は会社のオフィスの様だが、中には荒くれものの格好をして居たり、普通に剣や銃。中には鉄のハンマーやメリケンサックなど――これらすべては【ユグドラシル】だ。


勿論この支部の中にいるのは全員が探索者のライセンスを持つ者ばかり、その中でも特に若い創太などは舐められる――わけではない。むしろ歓迎されている。創太はそれだけ強い者だという認識はこの者たちは共有しているのだ。最も身分上は『京極拓斗』なのだが。


「はい、京極様。今回は攻略ですか?」


「ああ、頼む」


「了解しました。5分ほどで案内できると思います。しばらくお待ちください」


「分かった」


と、オフィスのカウンターにいる<ELC>係員に迷宮攻略の旨を伝えると、慣れた手つきで手続きを済ませ、番号札を受け取り椅子へと座りこむ。その五分間の間に創太はいつも装備や武器の手入れや確認を済ませておく。これがいつもルーティーンだ。


勿論創太の様にソロで攻略を行う物もいれば、パーティーを組んで攻略へと動く者もいる。むしろパーティーの方が多いくらいだ。


(今日は10階層――ボスへと挑むか)


迷宮『フォルバ』は、10階層ごとにボスがいることが確認できている。そして10階層を過ぎると、1~9階層とは違って格段に難しくなることから、探索者としての壁がその10階層に相当する。逆に言えば10階層を突破した者は一人前。10階層で命を落とす者も1~9階層で死ぬ者に比べても1.5倍ほどの差がある。


「京極様。準備が整いました。こちらへ」


「ああ、分かった」


こうして、創太は迷宮へと挑む。



迷宮への『扉』をくぐると、慣れない感覚と共に目に入るのは薄暗い迷宮と黄緑色に光る石が均等に配置されている。それで最低限の灯りは確保できているが、空気が淀んでいる感じがするのは相も変わらずだ。


そして創太は気取った感じで前へと進む。創太の手にまだ武器は握られていない。



そもそも『迷宮』とは、本質的にどんな意味を持つのか。それは【ユグドラシル】と【ギンヌンガガプ】に選ばれた創太だからこそ真理にたどり着ける。


『迷宮』の役割。それは【ユグドラシル】のエネルギーと【ギンヌンガガプ】のエネルギーを繋ぎ合わせる鏡の様な存在なのだ。様はこの二つのエネルギーがぶつかる場所だと考えてもらえばよい。


【ギンヌンガガプ】の『虚無』のエネルギーが魔物を生み。【ユグドラシル】のエネルギーが魔物に力を与える。そしてギンヌンガガプとユグドラシルのエネルギーが上手く調和した時。初めて武具としての『ユグドラシル』が創造される。それが迷宮の役割であり、永遠に生み出される【破壊】と【創造】のエネルギーを終わりへと導くための装置なのだ。


そして、創太には迷宮と同じ【破壊】と【創造】の力がある。つまり創太は、生きる迷宮として機能する事が出来るのだ。迷宮にできる事は創太にもできる。そういう事なのだ。つまり、


「おっ、ようやく出たか、一体目だ」


創太の目の前に現れたのは、3体ほどの魔物の群れ。コボルトやゴブリンと言ったありふれたモンスターたちだ。勿論敵意むき出しにして、創太を見つめている。


「じゃあ。行くか。…『来い、虚露』」


創太の唱えた祝詞。軽い気持ちで放たれたようなその祝詞は、創太のユグドラシルを顕現させるには十分だった。


創太の手の平に合わせるように青黒い粒子が集まり刀剣を成し、そして粒子が光り輝くとその手には真っ黒な黒刀が握られていた。それはユグドラシル。名を『虚露』


そして刀剣を持った創太は、一瞬で間合いを詰めると2体のコボルトの甲殻を切り刻むと、コボルトの全身から体液を散らして絶命した。


あまりに一瞬の事で唖然としているゴブリンを最後に一刀両断すると、創太は『虚露』を手放した。


そして創太の手から解き放たれた『虚露』は、刀剣の形から一瞬で青黒い粒子へと変わった。


創太の能力――それは『ユグドラシル』を創造する能力。創太は“魔力が無いがユグドラシルを使える人間”ではない。“魔力を使わずとも使えるユグドラシルを作れる人間”なのだ。


『虚露』はその成れの果て、『虚露』の能力は「魔力を使わずとも操れる」「魔力を吸収する事が出来る」という二つの能力を兼ね備えているユグドラシルである。


そして、創太の手に自動で顕現する『顕現』機能と、創太の造ったユグドラシルに限って創太の心象世界にしまうことが出来る『収納』機能の二つ。合計4つの機能を兼ね備えている。


これだけの機能を備えているというのは『ユグドラシル』でも類を見ない程稀であり、これをオークションに出せば最低でも2000~3000万の値はつくだろう。一般的なユグドラシルだと100~500万が通常なのだからその異常さが伝わるだろう。特に「魔力を吸収することが出来る」という能力は破格だ。これを使うことが出来れば一方的に相手を一時的だがユグドラシル使用不能状態へとできるのだから。


そしてこんな刀をポンと創り出せる創太が一番、この刀の価値を知っていた。

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