第1章 第21話 記憶がなくても

前回までのあらすじ

アルトレーネに立ち向かうために自身の修行をする音也

サーシャは自身の弱さを一人で抱え込み、魔界の魔物・ギガンテスと戦うが敵わず、カトレア以外の仲間が合流して連携、新たな技・スパイラルバレッジでギガンテスを倒した

音也とカトレアの前にエレシュマが現れ、封印の権能で音也の記憶を封印されてしまう

カトレアが急いで撤退し拠点に戻るが…

──────────────────────────────

カトレアは咄嗟に逃げを選択したが、エレシュマからは追いかけることはなかった

(あの方を救うために記憶を消して勇者を連れていく

そのためにはこうするしか無かったのです

お許しくださいお嬢様)

エレシュマは一人森の奥に消え、魔法陣の上に立つ

そこで祈りを捧げる

「我が元に集え、鬼人衆!」

雷と共に三人のシルエットが現れる

「鬼人衆・龍鬼人ガルグイユ推参!」

「鬼人衆・獣鬼人ヘルハウンドここに!」

「鬼人衆・海鬼人クラーケン只今参上!」

「「「エレシュマ様ご命令を!」」」

全員が跪き、声を合わせ言う

そして…

「明日、お嬢様と勇者を教団本部に連れていくわ

そのために鬼人衆であるあなたたちを呼んだの」

ガルグイユが口を開く

「勇者とはあの方を救える可能性があるという人物ですね」

「しかし、人間等に頼らなければならないとは我々としては不愉快千万ですな」

ヘルハウンドはガルグイユに続けて不快そうに言う

「しかし関係ありません

あの方を救うためなら例えカトレアお嬢様が敵になろうとも」

クラーケンは腕を組み不遜な態度であるがエレシュマはそれを気にしていない

「全てはあのお方のために」

エレシュマは手を組み祈っている

それはバアルに向けたものなのかは謎である

一方、音也たちは拠点に戻ったは良いものの音也の記憶が封印されている状況に戸惑っていた

「なあ、本当に俺がわからねぇのかよ

音也」

「ごめん、俺は何者でなんなのかすら覚えていないんだ」

「ムラマサを握れよ!

岩砕剣でも水穿斬でも鎧通しでも出してくれよ!」

音也は戸惑っている

目の前の青年が必死に何かを訴えているが何も覚えていない

なにもわからない

「刀なんて握れる訳ないじゃないか

そんな危険なこと」

「お前は!

お前は可能性の勇者・相良音也なんだよ!

だから…!」

「アランさん!

もう…やめましょう…」

サーシャは顔を見せないが泣いている

その時、カトレアがエレシュマが追ってこなかったことを気にしていた

その事を考えながらカトレアは池から水を汲もうとすると水面に文字が出てくる

「お嬢様

明日、鬼人衆を連れ貴女と勇者に教団本部まで着いてきてもらいます」

エレシュマからのメッセージである

カトレアは持っていた水を零し、即座に拠点へと飛んだ

それ程焦っていたのだ

カトレアが拠点に着くと話し始めた

「皆聞いてくれ!

明日、エレシュマが鬼人衆を連れてくる!」

「鬼人衆っていうのは…?」

仲間たちは疑問を返す

「エレシュマの信頼する部下だ

教団の魔将軍一人以上の強さを持つ

それが龍、獣、海の三人いる」

魔将軍といえばフォデラル

それを超える強さの猛者が三人もいる

皆、明日に備えてどのように迎え撃つか考えている

カトレアと音也を連れていくことが目的ならばそこの守りは固めたい

皆が沈黙した時、その静寂を破るようにアランが言った

「やめだやめ

俺は一足先に逃げさせてもらうぜ

命をかけてまでやることじゃねーよ

恐ろしくて嫌だね」

アランがそう言った時、サーシャは立ち上がった

「本気で言ってるんですか?それ」

「あぁ、本気だよ

大体、俺はお前らと違って人間だ

人間が教団の将軍以上に力を持ってるやつらを倒せるかよ」

そこまで言うとサーシャはアランに頬に平手打ちをした

「昨日までは勇者のために戦うと言って怖くなったら逃げるんですか!?

矛盾してるじゃないですか!」

「喧嘩は良くないよ

やめてくれ」

記憶を封印された音也が止めに入った

それを見てサーシャは冷静になる

アランは布に包まれた何かを音也に渡した

「これでも持っとけよ

少しマシになるかもしれねぇからな」

音也に渡したものは小さな石だった

何かが起こる訳では無いが綺麗な宝石で緑色に輝いている

音也を守るため厳戒態勢で皆、休んでいる

早朝、皆がまだ寝静まっている頃、アランの寝床はなくなっていた

(音也を守るためにはこうするしかねぇ

一人でやるしか)

アランは森を歩く、歩いて三十分程だろうか

翼を広げた魔族が降りてくる

その後ろに三人の影がある

エレシュマと鬼人衆だ

「お出ましかい

まぁ、それを期待してここに来たんだけどよ」

エレシュマはアランの姿を見ると鬼人衆に言う

「気をつけなさい

あの青年は強力な技を使うわ

人間だからと油断せずに戦いなさい

私は勇者とお嬢様を迎えに行くわ」

「かしこまりました

エレシュマ様」

エレシュマは飛び立つ、油断するなという言葉にガルグイユは疑問を持っていた

しかし、エレシュマの言う通りならば危険ではある

「人間風情がこの鬼人衆に楯突こうなどとはいい度胸だな」

「まぁ、余興程度にはなるか」

「クラーケン、ヘルハウンド

エレシュマ様のお言葉を忘れるな」

ガルグイユがそう言うとクラーケンとヘルハウンドが笑い始める

「エレシュマ様のお言葉は忘れてはおらんが、たった一人で何が出来る?」

「どれ、この海鬼人・クラーケンが相手をしてやろう

ガルグイユ!ヘルハウンド!手を出すなよ?

こいつはワシがやる!」

「それはいいが油断はするな」

(フン、お高くとまりやがって

エレシュマ様から期待されてるからと言って調子に乗るなよ

お前はいつかこのワシが倒すからな

ガルグイユ)

アランはブーメランを両手に構え、戦いの準備をする

「人間を甘く見るなよ!記憶が無くても…例え、五体満足じゃなかったとしても音也は俺の大切な相棒なんだ!鬼人衆だかなんだか知らねぇが、てめぇらなんかには死んでも負けられねぇ!」

アランはクラーケンに向かっていく

ヘルハウンドとガルグイユは言われた通り待機している

アランはブーメランを投げるがクラーケンはそれを顔の触手で防いだ

「気持ちわりぃやつだな」

「このクラーケンにそんな玩具が通じると思うな!」

アランは後ろに飛び退くがクラーケンの触手に足を掴まれる

バランスを崩し、持ち上げられる

そして何度も地面に叩きつけられ身体中から出血する

「相変わらず趣味の悪いやつだ」

「まぁ、オレは見てて楽しいけどな」

ガルグイユとヘルハウンドは手は出さないが各々の感想を述べている

「…なぁ、クラーケンって言ったっけ?

何度も地面に叩きつけられて頭がぼーっとするから間違えてたら悪ぃな」

「そうだ、ワシの名は海鬼人・クラーケンだ

光栄に思うのだな、人間風情が誇り高き鬼人衆の名を聞けるのだから」

「リクエストがあるんだが聞いてくれるか?

このままあんたが俺のこと喰ってくれよ

血が出てもう今にもきつくてよ」

クラーケンは不敵に微笑み、口を開ける

その口は無数の牙が生えており返しがついてて抜けないようになっているようだ

すかさずアランが手首に仕込んだ暗器でクラーケンの触手を切った

「なに!?ワシの触手が…!」

「悪く思うなよ!こうでもしねぇと戦えねぇ

騙し討ちになるからあんまりやりたかぁなかったがよ!」

「数百の獲物を喰らい、生やしたワシの触手が…

切られた?たかが人間に…?」

クラーケンはショックのあまり蹲っていた

しかし次の瞬間、アランの体に何かが刺さる

「いっ…!?」

「よくもワシの触手を!

この矮小で脆弱な人間如きが!」

「お、おい

お前だって俺の事叩きつけたじゃねぇか!

それでおあいこだろうがよ!」

「数百の獲物を喰らい育てたワシの触手と貴様では釣り合わん!

死で償うが良い!」

クラーケンの口からアランに向かって針が飛んでくる

それに当たった箇所が痺れ動かなくなる

(くそっ…!なんかの毒か?

俺は死ぬのか…?)

アランの横を氷の竜巻が突き抜け、クラーケンに直撃する

「そいつは大切な仲間なのでな

手を出すなら容赦はしない」

現れたのはカトレアだった

音也の近くにいるはずのカトレアがこちらに来たのだ

「カトレアが来るなんてよ

俺、冥府神に嫌われてるみてぇだな」

「何を言っている

クラーケンへのとどめはお前がさせ」

クラーケンは再び針を飛ばそうと口を開くが凍りついて動かない

「バカな!?ワシの口が凍りついて毒針が飛ばない!」

「コキュートススラストを受けてタダで済むと思ったか?

それにお前は私より数段弱いらしいからな

アラン、さっきも言ったがトリは任せる」

アランは魔法力でブーメランを引き寄せ、構える

(一撃でいい、ありったけの力を込めたデュアルサーキュラーを叩き込んでやる!)

「厄災を断つ!デュアルサーキュラー!」

デュアルサーキュラーはクラーケンの皮膚を切り裂き、血を流す

「皆を守るために鬼人衆に一人で挑むとはな

逃げたフリも演技か

さすがだな」

「あぁ…

悪ぃ、ちっと休むわ」

カトレアはアランの体に刺さった針を抜き、岩影に休ませて解毒魔法をかける

「よくも私の仲間を可愛がってくれたな鬼人衆

エレシュマの部下でも貴様らには一切の加減はせん!」


第21話 記憶が無くても End

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る