第1章 第20話 できること
前回までのあらすじ
アルトレーネから勇者を倒せていないと問い詰められ、強化毒を貰い蠱毒を行ったスイレン
スイレンは音也とカトレアの前に現れ、自らの手で改造した肉体で音也たちに挑む
周囲に毒瘴気を撒くも、救済の力により解毒されてしまう
音也は自身の魔力に目覚め、スイレンは敗北した
スイレンはアルトレーネに始末され、音也たちは資格を得たと言われた
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スイレンを倒した明け方、音也は森で不意打ちなどを想定した訓練をしていた
アルトレーネがどこから襲ってきてもおかしくはない以上、感覚を鍛えておくことは重要である
霞がかった森は最適で気配を敏感に感じるため、修行としてはこの上ない
また、自分の魔力・サンダーボルトを理解するため木々が多い方が正確に命中させやすいだろう
(俺のサンダーボルトは命中精度としてまだ低い
直接殴るサンダーボルトクラッシャーは俺の目で狙える分、命中精度は高いが…)
音也の両腕は火傷していた、ビーストクロスを使わないでサンダーボルトクラッシャーを2発撃ったからだ
左腕より右腕の方が火傷は酷くない
理由はわからないが音也は八重桜の上半身部分を脱ぎ、川で汲んだ水を腕にかける
(俺のヒールは弱い
ビーストクロスのヒールじゃないと即時再生できないな
サンダーボルトクラッシャーでの自傷は俺がまだ扱いに慣れてないからだ
出力を絞れば上手く使えるか?)
音也は考える
この調子でアルトレーネに勝てるのかと
-side サーシャ-
サーシャは一人森の中で戦っていた
その相手はサーシャの大きさを優に三倍は超えるほど巨大な魔物ギガンテスだった
ギガンテスは咆哮を上げ、サーシャを踏みつぶそうとしてくる
「この前の私は半日戦っても解決策を見いだせなかった
弱いのなんてわかってるし、嫌って程実感してる
だけど
一人で魔物を倒せるくらい!」
ギガンテスはサーシャに向かって拳を振り上げる
「ぐぉおおおおお!」
サーシャは華麗に避けるが地響きで上手く立てなくなる
転んでしまいそうな程の腕力、ギガンテスは魔界から地上に出てきた存在、その力を侮ることはできない
「風よ、私に力を貸して!
ウインドバレッジ!」
ウインドバレッジはギガンテスに直撃したが硬質化した皮膚にしか当たらない
弱点には当たらず弾き返される
(ああ…私って本当に役に立てないんだ
魔物も一人で倒せないで…
この旅に憧れだけで着いてきて私には何も無い…)
サーシャは諦め、絶望しきって手が止まる
今まさにギガンテスに踏み潰されようとした時、何かに引っ張られる
それは…
「サーシャ、諦めないで
私たちもいる」
サーシャが引っ張られたのはシャルロットの糸だった
「やられんなよ?勝手にやられたら音也になんて言われるかわかんねーからよ
自信が無いのは勝手だが、音也がお前のこと弱いなんて言ったこと一回もねぇだろ」
アランとシャルロット、ナオだ
アランはサーシャの頬をぐいぐいと引っ張りながら注意する
「ご、ごめんなひゃい…」
「サーシャ、ボクは君のことすごいと思ってるんだ
オトヤクンへの憧れでこの旅についてきたとしてもどれだけ仲間や敵の強さに打ちのめされようと先へ進もうとする君に敬意を表するよ」
「ナオちゃん…!」
ナオはサーシャにそう伝える
サーシャはその言葉を受け入れ冷静になる
ギガンテスは獲物がいなくなったのを必死に探している
「やつは今俺らを探してんな
でも寄生虫みてぇに不死身のやつならいざ知らずだが、魔界の魔物なんて俺ら四人が力を合わせれば楽勝だぜ」
アランはギガンテスの前にわざと飛び出し注意を引き付ける
「よぉ、デカブツ!
こっちだぜ!
かかってこいよ!」
「ぐぉおおおおお!」
ギガンテスは怒り狂い、アランを踏みつぶそうとするがアランは全て回避する
「俺だって遊んでたわけじゃねぇんだ!
あの時俺は弱いと実感した
音也の横に立てないかもしれねぇと
でも、ベルーガに教えられたんだ
誰かの隣に立ちたいなら追いつくんじゃなくて仲間全員の力で挑むんだってな!」
アランの後にシャルロットが続く、そしてギガンテスの足を縛り上げる
「私たちは絶対に誰も見捨てない…
この世界は確かに悪い人がいる…
だけど、いい人だっている…
それを皆が教えてくれた…」
「ボクも守られるだけじゃない!
暴走して皆に迷惑をかけた
オトヤクンと約束したんだ!
皆を守るって!」
ナオはギガンテスの足をつかみ上っていく
そして、露出している腹部に蹴りを入れる
ギガンテスを縛り上げていたシャルロットの糸は切れるがギガンテスの足も出血している
「サーシャ!やつが倒れた!
目を狙え!」
サーシャは弓を構え、魔力を込める
(たしかに私一人ではどうにもならなかった
でもみんながいてくれたから
今ならあの技ができるかもしれない)
「風よ…螺旋を纏い、貫け!スパイラルバレッジ!」
発射した矢が風を螺旋状に纏い、空中で分裂する
そして、ギガンテスの目に直撃する
ギガンテスの弱点である目に当たったことでギガンテスは消滅していく
「やった…!出来た…!」
サーシャの全身から力が抜け、倒れかけるところをアランが支える
サーシャは満足そうな顔で意識を手放す
「俺たちだって音也の役に立つために頑張るしかねぇんだ
全ての戦いを勇者のためにしなければいけねぇんだ
お前は確かに音也への憧れで着いてきたかもしれねぇ
弱いなら力を合わせりゃいいじゃねぇか」
アランは優しく微笑みながらサーシャに言った
そして、拠点へと帰っていく
その間、サーシャは夢を見る
音也に助けられたあの日の夢だ
自分だけではどうにもならなかった
音也という存在が居たからこそ何とかなった
身なりものこの世界のものではなかったが、その異邦人に助けられた
手を差し伸べられた
あの時の夢、憧れで着いていくと決めたがそれでも…
ここでサーシャは目覚めた
(私、ギガンテスを倒して
それで…)
「よぉ、目が覚めたみたいだな」
テントの外からアランが声をかける
少し苦味を感じる香りがする
アランが器を持ち、サーシャへと手渡す
「魔法力回復の薬だ、飲みな
ちょっと不味いがよく効く」
「え?不味いんですか?」
「良薬は口に苦しって言うだろ?飲めって」
サーシャはアランから距離をとる
「森の姫様よぉ、まさか飲めねぇって言うんじゃねぇよなぁ?」
アランはジリジリと近づいてくる
「不味いって言われたら飲みませんよね!?普通!」
「言わなきゃ言わないで吹き出すだろうが!」
テントの中でひとしきり暴れたあと、隙をついてアランがサーシャに薬を飲ませた
「まっず!なにこれ苦いし不味いし最悪じゃないですか!」
「ああ、不味い!
俺も飲んだことあるから知ってる!
それと数分前シャルロットに飲ませたが、不味い…って言いながら口から垂れ流してた
ナオは小さい傷だから薬草で済んだけどな
お前らは魔法力を使ってっからこんな不味いのでも飲んでもらうしかない」
サーシャは文句を垂れていたが体は楽になっている
「…確かに体は楽になりましたね
不味いけど」
「だから言ったじゃねぇか
不味いけど効くって
並の魔法使いなら魔法力満タンだぜ!
原材料食うだけでも良いんだが、それだと効果が薄くなるから魔力草を煮なくちゃ最大限に効果を発揮できないんだよな
で、この煮る過程で苦味が出るわけだ」
アランは魔法力を回復する魔力草について解説している
まだ音也とカトレアが戻ってきていない
サーシャたちが戦っていた森の反対側にいるのだが、帰りが遅い
それは…
「なぜお前が今来るんだ
エレシュマ!」
「お嬢様、この勇者が■■として覚醒する前に記憶を封印します
邪魔しないでください」
「そんなことさせるものか!
それに勇者■■だと!?音也は人間だ!」
音也は二人が戦うところを見つめている目で追いかけるので精一杯だ
エレシュマはため息をつく
「螺旋の権能に救済の権能
お嬢様はもう気づいているのでしょう
その勇者は人間では無いと」
「違う!勇者は人間だ」
「俺は■■なんかじゃない!エレシュマ、お前には何の関係もないはずだ!」
「認めなくても結構ですわ
関係ないですって?
あるのよ
だから記憶を封印させて貰うわ」
エレシュマの腕には刻印があった
封印の魔神が持つ刻印だ
本来、エレシュマは魔神ではない
この魔神の腕を切り落とし移植したのだ
「我が腕に宿りし、封印の権能!
勇者の記憶を封印せよ!」
エレシュマがそう叫ぶと音也の記憶は徐々に封印されていく
まるで機械の電源が落ちたかのように少しずつ…
その記憶ダメージに音也は倒れてしまう
カトレアは急ぎ音也を運び、拠点へと飛ぶ
(覚悟なさい、次はお嬢様の為に勇者を亡き者に)
第20話 できること End
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