第1章 第19話 無敗の女王

前回までのあらすじ

音也はムラマサを研いでもらうためカトレアについて行った

カトレアが紹介したフォルテと呼ばれた男はムラマサを見ると人間が作ったにしては大した妖刀だが磨ぐことはしないと一度は断るが、ベルーガの皮膚を切り裂いたと聞いて打ち直すことを決意する

ムラマサに魂を込めるために音也が完成を見なければいけないとフォルテは言う

ムラマサ・改へと生まれ変わりその威力も今までのムラマサと比較にならないほど強かった

音也はこのムラマサ・改でアルトレーネを倒すと決意するのだった

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-アルトレーネ・コロニー-

その場所には大量の卵と女王の姿があった

ローブを着た、教団の裏切り者もいる

「はぁ…勇者の始末もできないの?

教団を裏切ってまで私に仕えたいと言うから拾ってあげたのに勇者抹殺では成果をあげられない

卵を貸してやってもその程度、お前の死霊魔術には失望したわ

これだったら配下の虫の方がマシね」

「アルトレーネ様申し訳ございません!

どうか、もう一度…もう一度チャンスを!」

アルトレーネはローブを着た女性を見下すように見ている

ローブを着た女性は頭を下げ土下座の姿勢を取っている

「もう一度ね、具体的にどれほど猶予がほしいのかしら?

返答によってはこの場で消えてもらうわ」

「三日…三日いただければ最強の虫を作り勇者を亡き者に…!」

ローブを着た女性の首にアルトレーネの針が刺される

「三日ね、いいわ」

ローブを着た女性の腕に大きな針が刺される

アルトレーネの手にある針だ

「がっ…!?」

「私の強化毒を与えてあげる

それで成果を上げたらもっと強力な毒をあげるわ

感謝しなさい、スイレン」

スイレンと呼ばれた女性は毒の苦しみで激しく暴れる

アルトレーネの強力な毒による強化毒苦しみを乗り越えなければ息絶えるだけ

(どうせもう使えないんだから事実上の死刑宣告のようなもの

生きて帰ってきたら程度で考えておくか

それにこの前挑んできた星獣の蠍も大したことはなかったし、退屈しのぎに世界でも滅ぼそうかしら)

アルトレーネは玉座に腰かけるそれは腐食溶解毒で溶かした魔族、人間様々な動物で出来た椅子、アルトレーネが無敗の女王たる証だ

スイレンは強化毒の苦しみから解放されたあと自室に戻り、体内から虫を出す

その数は数万に至るだろう

これはただの虫ではなく毒虫だ

人を食う虫もいる

オーレンの高位呪術・蠱毒を行うために放ったのだ

「お前たちを解き放ってやる!

同族の血で渇きを癒せ!

最後に残った虫は私と融合を果たして勇者を討つ!

そしてアルトレーネ様への忠誠を示す!」

これまでの虫系魔物の死骸を使った操り人形ではなく、スイレン本人の肉体をも犠牲にした死霊魔術なのだ

数万匹いた虫は今や数百となり、弱き同族は食われ、捨てられてその怨念を食った側が増していく

憎悪と絶望は留まることを知らず打ち捨てられる

-Side 音也-

音也とカトレアは焚き火の傍で話していた

「本当に色々あった

ここまでの数日、敵に襲われムラマサは傷ついた

長い夜みたいだな」

「なんだ?勇者

センチにでもなったのか?」

「そうじゃないさ

でも、本当にここまでで色々あったなって」

音也はセンチになったのではないと言うがたしかに色々あった

「いつか夜が終わりますように…」

カトレアはつぶやくように言った

それは音也の想いに応えたかのように自然に口に出ていた

「夜は終わらない、絶望しながら死ぬのさ!」

その声は空から聞こえた直後、空を見ると虫と融合を果たしたスイレンだった

下半身は蜂のようになり、上半身はスイレンの姿ではあるが、顔の右半分が溶けている

「何だこの虫は!」

「直に正体を見るまで推測の域を出なかったがやはりスイレンか、ネクロマンサーが蠱毒に頼るとはな」

「そうさ、ボクだよカトレア

それにこれは今までの死骸遊びとは違う

ボクは自分の体を捨ててこの新しい力で勇者、お前を食らってやる!」

カトレアの予想は的中した

音也は驚きはしたが冷静であった

まるで凪のような心だった

自分より遥かに大きい虫、それなのに心を乱されることなく…

「それはアルトレーネから貰った力だな」

「そうさ、アルトレーネ様からいただいた力

究極にして至高の」

「哀れだな」

音也は鼻で笑う

螺旋の瞳は右目だけ常に覚醒している

そして左目には剣の模様が浮かぶ

「哀…れ…?このボクが!

究極にして至高の力を得た僕が哀れ?」

「ああ、そうだな

そんな姿になってまで俺を倒したいなら倒せばいい

だがお前には無理だ

覚悟できてないやつが命のやり取りなんかするべきじゃない!」

音也はムラマサ・改を抜刀する

カトレアは槍を構え、スイレンの攻撃に対して構える

スイレンの体から紫色の霧が発生する

カトレアには無害であるが、音也は人間口から血を吹き出した

「キュア」

カトレアは音也にキュアをかけるがなかなか治らない

(厄介な毒を生成したようだな

治りが遅い)

「カトレア

もう大丈夫だ、俺は動ける」

音也はふらつきながらも立ち上がる

魔装クロスすら使えないその体で

「無理をするな勇者

その体では…」

(毒が消えている?

何故だ?

キュアでの解毒は完了していないはず…)

体から毒の斑点は消えている

(音也、貴方に救済の力を…)

直接音也の頭に流れてくる声、それは女性の声だった

(お前は誰だ?なぜ俺に力を貸す?)

(それは今は言えません…

解毒は済ませました

後は救済とあなた本来の魔力でこの戦いを切り抜けなさい

私はいつでも見守っています)

女性がそう言うと頭の中に聞こえる声は消えた

「力を貸してくれ、ナオ!我が宿すは心優しき魔狼!魔装クロス!ビーストクロス!」

毒に侵されても進行が遅くなるようにビーストクロスとなり、音也は再びムラマサを構える

前回の毒とは違い、今回はより強力な毒でムラマサの解毒効果ではない、キュアを上回る強力な解毒効果

真実は不明だが今は戦うしかない

「今わかった

俺本来の魔力は魔装クロスじゃない

魔装クロスはあくまで勇者としての魔力」

「何を言っている!?

クロスしたところでボクの発生させるこの毒には敵わない!」

スイレンは音也を睨み、

「ああ、そうかもな

そして俺の魔力は、ドロルたちと戦った時に発動したあの雷…

轟け雷鳴!サンダーボルト!」

天から雷が降り注ぎ、音也の掌に集まる

それを指先から放ち、スイレンの下半身に命中させる

「ほんの少しだけ驚いたけどそれだけか勇者!

ボクを倒すには足りないな!

せめて飛べるなら話は別だけどね」

「飛ぶ必要は無い

行くぞ!カトレア!」

「ああ、いつでもいい!

蹴り上げてくれ!」

音也はスイレンに目掛けてカトレアを蹴り上げる

速度で圧倒するためだ

カトレアは音也の蹴り上げた勢いのまま飛翔し、コキュートスを薄く纏い回転しながら突撃する

「これで貫く!終わりだ!スイレン!」

「甘い!ボクが行った呪術は蠱毒!

超硬度の毒虫だって食った!

そんなもので貫けるかよ!」

カトレアの槍が軋む音がする

その直後弾き飛ばされ、音也に受け止められた

「これでも貫けんとは…

どうする?

打つ手はないのか…?」

「いや、打つ手はある

俺が隙を作る

俺が合図をしたら次は炎魔法で突撃してくれ」

音也が天から降り注ぐ雷を右掌に集める

それを宙に留める

「貫け!サンダーボルトクラッシャー!」

宙に留めた雷を殴りスイレンに飛ばす

圧縮された雷はレーザーのようになり、スイレンの翼に目掛けて放たれる

音也の腕は焼け焦げるがナオの魔力で修復再生する

スイレンは硬質な虫の外骨格で防ごうとする

「ボクは無敵だ!外骨格で防げばこんなもの…」

しかし、硬質な外骨格は熱で溶けてしまう

音也の圧縮されたサンダーボルトクラッシャーは外骨格を貫き、スイレンの翼を片方溶かす

スイレンは片翼のみとなり飛行が出来なくなる

それを見た音也はカトレアに合図し、再び蹴り上げる

「これで終わりにする!

スイレン!」

カトレアは炎を纏い槍に付与し、落ちゆくスイレンに突撃する

「ヘルフレイムチャージ!」

「氷結虫の外骨格で守れば炎なんて…!」

「魔界の炎はそんなもので防げるほどヤワなものではない!」

炎纏った槍は徐々に氷結虫の外骨格を破り、貫く

その熱はスイレンの上半身のみを残し、下半身を焼き消した

「アルトレーネ様…このままでは貴女のために得た至高の力が消え失せてしまう」

スイレンがそう言うとどこからともなく声が聞こえる

その声は主人のアルトレーネのものだった

「ええ、そうね

もう要らないわ

どうせ勝てないと思っていたし」

アルトレーネの毒針がスイレンを突き刺す

「アルトレーネ様、どうして…」

そして内部から腐り堕ちるようにして朽ちていった

「厄介者を倒してくれてありがとう

捨てるのももったいないし生きてたら使ってあげようかと思ってたけど手間が省けたわ

お前たちはこの私と戦う資格がある」

アルトレーネがそう言うと音也は鼻で笑う

「歓迎ムードの中、申し訳ないが俺はお前が嫌いだ

そもそもその資格はなんの役に立つんだ?

将来役に立つなら貰ってもいいがな」

「そんなものがなくても私はお前を倒すつもりでここまで来ている」

「この私が資格をあげているのに喜ばないなんてね

それにこの皮肉、噂通りね」

アルトレーネは瞬時に思考を巡らせる

(しかも皮肉の上に冷静さ、ハッタリじゃない

挑発に乗って踏み込んだりしたら無事じゃ済まないわね)

アルトレーネは冷静に音也を分析した

その上で…

「今日は戦う気は無いから帰るわ

それじゃあ、また」

逃げを選んだ

いや、退いてくれたと言うべきか

(確実に皆の力を合わせなければ勝てない相手だな

だが、俺はお前を倒し先に進む)


第19話 無敗の女王 end


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