第1章 第18話 新生する妖刀

前回までのあらすじ

アランと共に戦った罪をバアルに問われるベルーガ、処刑間際のところを自身を合成超獣・魔人へと改造してほしいと頼む

バアルはフォデラルを呼び、魔人の適合率は一割にも満たないことを告げるがベルーガはそれを聞いてなお、魔人へと改造しろという

それほどの覚悟があるならとフォデラルはベルーガの改造を受け入れる

ベルーガの処刑を名乗り出たエレシュマは役割を果たすことは出来なかった

そして、バアルは自らの即金二人に命令を下した

それは音也とアルトレーネが共倒れする作戦だった

音也はこの作戦に敢えて乗ることにした

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音也は自らの武器、妖刀・ムラマサを見ていた

幾重にも巻かれている鎖、それだけではない

度重なる戦いで刃毀れもしている

このままではいくら妖刀と言えど、壊れてしまうだろう

(俺の腕が未熟なところもあるが…魔虫や教団員との戦い、魔虫の体液を浴びたことのダメージがでかいのか刃毀れが酷いな…

研いでもらうしかないな)

音也は一人立ち上がるとアランが背中から声をかけてきた

「一人で何をしている勇者

ムラマサの刃毀れか

研師ならオーレンに戻る必要はない」

「カトレア

それにオーレンに戻る必要はないって…」

そこまで言いかけた時、ムラマサに螺旋の瞳と同じ模様が現れて鎖が断たれた

断ち切れた鎖は一つだけではあるが音也の意思とは無関係だったように感じた

「鎖が断ち切れるとはこんなことは初めてだな勇者」

「ああ、だが今は原因を探るときでは無い

研師の所へ行こう」

仲間たちを下手に移動させるのは危険だが、戦力分散を抑えるの仲間としてアラン、サーシャ、シャルロットを置いてきた

研師の所に向かうのは音也、カトレア、ナオとなった

極力戦闘を避けるため見つかりにくい森を通る

「その研師さんって何者なの?

ムラマサを研ぐ人なんて相当な腕前の人だと思うんだけど」

ナオはカトレアに問いかける

「正確には鍛冶師だがな

彼は魔族だ

半端な刀や実力じゃ研いでくれない」

「えぇ!?それじゃあ行っても研いでくれるか

わからないってこと?」

「いや、研いでくれる」

ナオはカトレアが言っていることがわからない

研いでくれないと言ったり絶対研いでくれると言ったり…

「結局どっちなの?

研いでくれるの?」

ナオが聞くとカトレアは微笑み、答える

「ムラマサ程の業物を見たら研ぐと言うだろう

だが、確実とは言えないのが彼の難しいところだな」

音也たちは接敵を避けるため、目立たないけもの道を一時間程歩いた

幸い、ほぼ接敵はなく一度二度野生のモンスターに襲われた程度にとどまった

しばらく歩くと古びた山小屋が見えてきた、オーレンから歩けば三時間程度はかかるだろう

それほど人里離れた場所にある古びた小屋だった

「開けてくれ、フォルテ」

カトレアがフォルテと呼んだ人物は音也と同じくらいの身長をしており、髪は無造作に伸びていた

「懐かしい声がするから誰かと思ったら魔王んとこの嬢ちゃんか

後ろの連れは初めてだな

話くらいは聞いてやる

入んな」

音也は軽く頭を下げ、ナオは元気よく挨拶した

「フォルテ

すまない

武器を研いでほしい

勇者の持つムラマサという刀なんだが」

「そんで俺を訪ねてきたってわけかい

用があるのは嬢ちゃんじゃなくてそっちの勇者様って訳か

結論から言う、俺は研がない」

皆が一様に驚いた顔をする中、フォルテは続けて言った

「なぜ研いでくれないんだフォルテ!」

「人間が作ったにしてはかなりの業物だがそれでも俺の目標に大きく劣る

もっとすごいもんでも出してくれると思ったんだがな」

仲間たちは沈黙する

音也は口を開いた

「…このムラマサでベルーガの皮膚を切り裂いた」

フォルテは驚いた

「ははは!あの魔界の最高硬度レベルの皮膚を斬ったのか!

おい、勇者様よ

気が変わった!

研いでやる

それに今より、もっと強くしてやる!

それと悪ぃが勇者様以外はどっかで暇を潰しててくれ、新生ムラマサには勇者様が必要なんでな」

カトレアとナオは小屋の外で待っている

小屋の中では一度ムラマサを溶かしていたそして…

「勇者様よ、こいつを見てみな

魔界の金属だ、ムラマサは人間界の希少金属であるオリハルコンで作られている

そこに硬度の近いハードメタルを組み合わせる

この組み合わせで合金にしてやればムラマサはより強くなる

それに魂を吹き込むのは勇者様って訳だ

準備はいいか?

よく見ておけよ」

フォルテは二つの金属を炉にくべた

溶かして打ち直し

研ぐだけではムラマサも限界だったというのもあるだろう

そして音也は瞬きを忘れ、ムラマサを見ていた

打つ度に形が整えられていく

そして打ち始めてから数時間が経ち、日が沈みかけた頃、ムラマサは新生した

「完成だ!

名付けるならムラマサ・改と言ったところか

ハードメタルとオリハルコンの合金は硬くて軽い、これからの戦いにも使っていけるだろう」

音也がムラマサを手に持つと鎖が二つ断ち切れた

一つは剣の模様、もうひとつはヘビのような模様を出し鎖が切れた

「強化したから鎖が取れたのか?」

「そうだろうな」

音也が聞くとフォルテはそう答える

「嬢ちゃんたちを待たせてるだろ?

早く帰ってやんな」

「ありがとうございます

それと代金ですけど」

「いらねぇよ」

フォルテは音也に代金すら請求しなかった

(ムラマサじゃ近いうちに耐えられなくなるだろうな

それにあの剣とヘビの模様

あれはどう見たって魔神の権能だ

あの勇者はどうなってやがる

それよりあの勇者の次の武器を作っといてやるか

ムラマサを超える魔剣を)

カトレアと合流する音也

音也はムラマサの打ち直しが終わったことを伝え、カトレアの転移魔法で仲間たちと合流すると戦闘をしていた

教団員に寄生虫のようなものがくっついている

アルトレーネの軍勢だろう

しかし、寄生虫からも教団員からも腐った匂いはしない

「寄生虫の再生力が異常だ!

音也たちが来るまで耐えるぞ!」

アランが仲間たちに呼びかけるとサーシャとシャルロットが頷く

「アラン!どいてくれ!」

「音也!?戻ってきたのか!

それよりこいつら再生力が異常だ!

何をやっても倒せねぇ!」

「いいから右に避けてくれ」

アランは音也に言われた通り右に避けると

音也がムラマサ・改を抜くと色は銀と赤紫の輝きを放つ刃になっていた

そして、ムラマサから斬撃が放たれ、寄生虫が塵となっていった

「…は?なんだこの威力!?」

「あれは恐らく水穿斬だが、あの威力…

ムラマサ・改の威力か」

寄生されていた教団員は突然苦しみだし、のたうち回る

「た、頼む…!我々を…殺し…」

そういった時教団員の肉体は異形の怪物と化し、複数の肉体が合体していく

寄生虫は恐らく卵を産み付けていたのだろう

それが孵化し成虫へ内部から肉体を改造し、教団員同士を組み替えたのだろう

まさに怪物となった彼らへ送れるのは永遠の眠りしかないだろう

「ウインドバレッジ!」

「コキュートス!」

ウインドバレッジで穴を開けコキュートスで内部まで凍らせる作戦だ

そして…

「羅刹斬!」

音也は羅刹斬を放つが未完成である為、寄生虫の核に当たるも砕けない

(やはり、俺の羅刹斬では…)

少し間を置いて教団員の肉体と寄生虫が砕け散る

氷が解け、塵となる

羅刹斬自体は未完成だが威力は十分だったようだ

「だー!疲れた!

あいつらしぶとすぎだっての!」

アランが不満を言う

音也たちが移動してムラマサの打ち直しをしている数時間は戦っていた

この疲労も納得だろう

「悪かったアラン」

「まぁ、音也のムラマサが直ったなら俺はいいけどよ」

寄生虫、今後はアルトレーネの軍勢がどんな魔物を送り込んでくるかわからない

音也は移動を提案し、落涙の浜辺から離れて山岳地帯に拠点を移そうとする

今いる落涙の浜辺より、アルトレーネの拠点から少し遠い

襲われる心配事態は少なくなるはずだ

(このムラマサ・改で絶対にお前を倒してやるぞ

アルトレーネ)


第18話 新生する妖刀 End

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