第1章 第17話 覚悟

前回までのあらすじ

アランは一人カブトムシとクワガタが合成された魔虫と戦っていた

仲間たちのために一人で戦っていたが、魔虫の硬さに歯が立たず、ナイフは刃毀れし苦戦していた

そこにアルゼス教団教祖・ベルーガが現れ、アランに手を貸し魔虫を倒した

ベルーガはミミズ型魔虫が掘り進めてきた道にディアボロス・ストームを放ち、魔虫を作るための卵とストックを潰した

そしてベルーガはカトレアたちの前に姿を現し、アランは自らの生き方を変えてしまうほどに素晴らしい男だと言った

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-オーレン・アルゼス教団魔教会-

協会の中央にベルーガは磔にされていた

バアルがベール越しに姿を現し、ベルーガに問いかける

「ベルーガよ、何故勇者の仲間を助けた

あのまま捨て置けば戦力が減っただろう」

「我が神・バアルよ

確かに、あのまま捨て置けば勇者は仲間を失った悲しみで無気力となるでしょう

しかし、それは武を尊ぶ者として許されざる行為だったのです」

ベルーガがそう言った時、バアルは右手を軽く上げる

これが下がったときが処刑の合図だ

「…言いたいことはそれだけか?

それであれば我はこの手を…」

そこまで言いかけた時、ベルーガが口を開く

「私を合成超獣・魔人に改造していただきたい!

今のままでは勇者を倒すという目標も果たせない!

それが果たせるならばこの身を捨て去っても構いません!

我が神・バアルよ、私を魔人へと改造して下さい!」

ベルーガは自らの体を捨て去り、自身を合成超獣へと改造しろと言った

「……その覚悟気に入った

ベルーガ、貴様を合成超獣・魔人へと改造しよう

フォデラルよ、こちらへ」

バアルが指を鳴らすとフォデラルが現れた

「ふぉふぉっ!お呼びでしょうか我が神・バアル様」

「ベルーガを合成超獣・魔人に改造しろ」

バアルがそう言うとフォデラルは驚いている

「合成超獣への改造はできますが、魔人は今調整中で適合率も低く、本来の目的である魔神へと近づけるには一割にも満たない

そんな改造をベルーガ様に施せなど…」

フォデラルは躊躇うがそんな中、ベルーガはフォデラルに言う

「フォデラル、構わん

適合しないならそれまで、私を魔人に改造しろ!」

「………よろしい!そこまで言うのであれば魔人へと改造して差し上げましょう!」

フォデラルはバアルに頭を下げベルーガを連れていく

バアルは暗がりにいる人物に声をかける

「エレシュマよ

ベルーガの処刑は必要なくなってしまったな

あれを見てどう思う」

「美しい覚悟だと思いましたわ」

「そうか、ベルーガの処刑を買って出たお前には感謝している

もう下がっても良いぞ」

「わかりましたわ」

エレシュマは翼を広げ、転移する

バアルの横から声が聞こえる

「良かったのですか?殺さなくても」

「殺すのはいつでも出来る

あの覚悟、どこまで行くか見たくなった

それにお前は暗殺が仕事だろう

ゼポレよ」

ゼポレと呼ばれた道化師の仮面をつけた悪魔は笑いながらバアルの側に居る

「我らはベルーガが魔人になるまで時間を稼ぐとするか

アルトレーネと勇者一行をぶつけ、共倒れというのも面白い

お前もそう思わないか?

ベリアル」

ゼポレと対になる位置にいるローブにより全身を隠したベリアルと呼ばれた悪魔はバアルを称える

「バアル様

貴方の叡智があればこそですね

聞くところによるとアルトレーネは自身の部下や分裂体のコロニーを形成しているようです」

「ふむ…

我が右腕ベリアルよ

アルトレーネが形成するコロニーに勇者一行を誘導しろ

ゼポレ、お前には別の仕事がある」

「はっ!全てはバアル様の為に」

「死神としての仕事ということですね

標的は……これはまた」

ベリアルは頭を下げ、即座に消える

そして、ゼポレは笑いながら大鎌を持って消える

「我が側近よ

その使命果たすが良い」

そう言いながらバアルは消えて行く

-Side 音也-

音也は早朝一人で目覚めた

海面に顔を写すと右目だけ螺旋の瞳が消えていなかった

両目の時はリミッターを解除するような役割があるが、意識が朦朧とした時に発動すると螺旋の魔神・リンドウに体を乗っ取られるという危険なものだった

(しかし、カトレアに聞いていた話と違う

リンドウは螺旋の権能を使い、人の命を奪って魔界を我がものにしようとしたと聞く

何故カトレアを助けたんだ?)

音也が考え事をしていると黒い気配を感じる

音也はムラマサを構える

カトレアもその瞬間に目覚め、槍を構える

「流石だな、その警戒心

だがどうであれ私についてきてもらうぞ勇者一行よ」

「バアルの手下か

面倒だ、貴様で氷像を作ってやる

コキュートス!」

カトレアが足を砂浜に叩きつけ、ベリアルに当たる

しかしコキュートスはベリアルに吸収され、跳ね返ってカトレアの脚を氷漬けにした

「くっ、膝まで凍るとは…」

「覚えておくがいい…

私が纏っているローブ…これこそが暗黒の衣だ

受けた魔法を吸収し、倍にして返す

勇者よ、カトレアの脚を砕かれたく無ければ私に従え」

「勇者!構わん!奴を斬れ!」

カトレアは音也に対し、ベリアルを斬るように言うが、音也はムラマサを納める

カトレアを救うためには予断を許さない状況だからだ

「…従えばカトレアの無事を保証するならな」

「私は戦いに来たわけではない

今回の魔虫や砂虫が出てきたところを教えてやろうと思ってな」

それに対して音也は疑問を投げかける

「それをしてお前ら教団に得があるのか?

死体であるという点以外、教団の合成魔獣と同じものに感じたが?」

「得があるから言っているのだ

魔虫は教団のものではない

技術自体は近いが合成魔獣は生きた生物と魔物を掛け合わせている

だが、魔虫は既に死した虫系の魔物を無理矢理合成しているだけだ

そして、今回の魔虫を指揮している影に潜む黒幕の名はアルトレーネ」

ベリアルは答える

今回の魔虫たちが教団と無関係であると、そしてその支配者がアルトレーネだと言うのだ

「最も、魔虫の作成者自体は教団の裏切り者だがな」

「お前の言い分はわかったし、これが恐らく共倒れを狙うこともわかった

それをわかった上で、あえて言う

このアルトレーネは俺が…俺たちが倒す!」

音也の決意は硬かった

罠とわかっていても踏み込む気だったのだろう

「ほう…その覚悟、素晴らしい…

アルトレーネはコロニーを形成して森の大部分を支配している

精々気をつけることだな」

ベリアルはまるでそこに居なかったように霧散する

一枚の紙切れが落ち、音也はそれを拾い上げた

「これは…地図か?」

この付近の地図でアルトレーネがコロニーを形成してる場所であろう森が書かれていた

「勇者!あそこで斬っておけば少しでもダメージを与えることが出来たのに何故やらなかった!?」

カトレアの怒りは最もだが音也は優しく微笑み言う

「お前を守るためだよ

カトレア」

カトレアはその微笑みに懐かしさを感じる

何回も見たかのような光景

その瞬間にコキュートスは解け、カトレアの脚は自由になる

(俺は罠だとわかっても飛び込んでやる

教団…いや、バアルお前の思惑にわざと乗ってやる)

-Side ????-

部屋から何かを書く音が聞こえる

その一室は静かでペンを走らせる音以外は聞こえない

一人女性がおり、日記を書いているところだったようだ

「…今日の分は書き終わりましたね

さて、そろそろ姿を現したらどうですか?」

本棚の影から人影が現れる

その手には大鎌を持っていた

「さすが魔界のメイド長…いや、四天王カレン

鋭いね

君が生きてると何かと不都合なんだ

教団が持つ軍団の一つを滅ぼす程強い君が生きているとね」

「要件を率直に言ってくれませんか?

休憩がそろそろ終わるので長話している暇はありませんし」

ゼポレは笑い、カレンに話す

「君を消しに来たってことさ!」

ゼポレは大鎌をカレンの首にかけ引こうとする

しかし次の瞬間…

金属音とともに鎌が弾かれる

「なっ!?」

「ヘルフレイムブレイク!」

カレンは肩に関節剣を置き、ヘルフレイムを纏った魔剣技・ヘルフレイムブレイクを放った

ぜポレの死体はあるが死んでいない

その瞬間どこかからぜポレの声がする

(人形とはいえ僕を倒すとはかなり強いな

これは簡単には消せないな)

カレンは振り向き

そして…

「そこ!」

壁に向かってナイフを投げた

「ふふふ、一度ならず二度までも

僕の身体に傷をつけたのは君が初めてだよ

この傷は覚えておくぞ四天王カレン!」

カレンは一つ溜息をつき、ボロボロになった関節剣とメイド服を見る

(部屋の修繕費含めていくらかかるかしら…

やはりお姉様がくれた斧でなければ私のヘルフレイムブレイクには耐えられないのね)


17話 覚悟 End

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