第1章 第16話 勇者(とも)のため

前回までのあらすじ

フジツボと吸血虫が足に絡んでいた音也だったが、ドラゴニッククロス・ゲオルギウスで燃やし尽くし、意識は朦朧としながらもムカデと線虫に向かっていった

音也の心臓はムカデに貫かれるが音也はそれを引き抜き、笑いながらムカデに斬りかかる

硬い殻に弾かれ、意味が無いと思ったのもつかの間、螺旋の権能を発動して一瞬で倒してしまった

音也にとりついていたのは螺旋の魔神・リンドウでカトレアがかつて始末した魔神だった

リンドウはカトレアとだけ会話をし、去った

その後、意識を取り戻さない音也をテントまで運び食料や水を集めているとアランは居なかった

アランは一人で敵の数を減らそうと殿になったのだった

────────────────────

アランはカブトムシとクワガタムシが合成された敵と戦っていた

ナイフの刃は通らず刃毀れしてボロボロになっていた

「虫共に言ったって通じねぇかもしれねぇけどよ…

音也のために刺し違えてでもお前を倒さなきゃならねぇんだ!」

アランが果敢にも虫に挑むが弾き飛ばされる

(俺一人じゃ無理なのか…

何の役にも立てねぇで飛び出して、それで死ぬのか…?

カトレアについてきてもらえば良かったか?

でも、それじゃあ意味が無い

俺一人でも戦うって…決めたの…に)

アランが意識を失いかけた時、声が聞こえる

「勇者の相棒はその程度なのですか?

私が知るアランという男はその程度でやられる人間では無いはずです!」

その声と共に現れたのは…

アルゼス教団教祖・ベルーガだった

「なっ!?ベルーガ!?

俺を殺しに…」

「違う!

貴方の助太刀に来たのです

アラン、貴方が死ねば勇者は悲しむ

それで私に負けたと言われても寝覚めが悪い

我が命をかけて本気で戦いたいと思った相手の友を守ること、使命を超え、武を求めるものとして当然のこと

勇者たちに塩を送るのはこれが最初で最後ですが、共に戦いましょう」

「お前は残酷なやつかもしれねぇ

でも正々堂々としたその態度は評価できるぜ

ベルーガ」

ベルーガは拳を構え、アランはボロボロのナイフを構え戦闘の態勢をとる

ベルーガはカブトムシとクワガタの混ざりあった部分

ハサミの部分を掴み、折る

「死骸に痛みを感じることなど出来ないでしょう

死して尚主人に仕えるその意気や良し、しかし操られ死を望んでいるのならば私たちが冥府へと案内して差し上げましょう!

アラン、これを使いなさい!」

ベルーガは折ったハサミをアランへと投げる

アランはそれを掴み、カブトムシの硬い殻に突き刺す

「同じ硬さならよぉ…同じ硬さなら刺さるよなぁ!」

殻を突き破り、頭部に刺さる

体液が出てカブトムシの体が腐り始める

このカブトムシに人骨が詰まっていたのと硬い殻がおおわれていたのは体液による腐食を防ぐためのようだ

アランがふらつきその場に座り込む

「まだだ、とどめを刺さなければ蘇るでしょう

我が秘術にて消えるが良い!

ディアボロス…ストーム!」

闇の竜巻が穴を広げながらカブトムシを消し去る

余波で穴の奥まで削れるレベルの破壊力だ

「俺らと戦った時は本気じゃなかったってことかよ…」

「いえ、貴方たちと戦った時はいつでも本気だった

我が全力をかけて勝負し勝てなかった

それだけです」

「…そうかい」

そう言うとアランは気絶してしまった

ベルーガはその身体を支え思う

(アラン、貴方は本当に素晴らしい男だ

勇者のためにその命すら捧げ殿になろうとは

私が人間であったら友になれていたかもしれませんね)

-オーレン魔物の巣窟-

ローブを着た人物はアランとベルーガの様子を水晶で見ている

「ベルーガ!?

バアルに仕えてる教祖がなぜ人間の味方を!

ボクの虫を始末したということはアルトレーネ様を敵に回すことになるんだぞ!

狂信者め!」

ローブを被った人物はベルーガに罵詈雑言を飛ばす

そして、水晶の中のベルーガはローブの人物を睨むと鼻で笑い言う

「裏切り者が何を言うか

神を裏切った愚行に対する罰は必ず受けてもらう

それに死骸で作ったおもちゃで教団が怯むとでも思っているのですか?」

「ボクはアルトレーネ様の完璧な強さこそ正義だと思ったんだ!

教団がなんだ!アルトレーネ様こそ至高なんだ!」

ベルーガは一つため息をつき言う

「では帰って主人のアルトレーネに伝えておけ、教団は貴様らが束になっても怯まん!我ら以外にも別勢力の勇者たちがいることも忘れるな!」

それだけを言い残し、ベルーガは去る

ローブを着た人物は悔しそうに呟く

「ベルーガめ…!

ボクたちをなめるなよ

まだストックは…」

虫のストックを探そうと歩き始めたが卵を含め死骸も粉々にされていた

ベルーガのディアボロス・ストームの余波で砕かれたのだろう

「おのれ!ベルーガ!」

ローブを着た人物は悔しそうに言う

-落涙の浜辺-

あれから一時間程経過した

それでもアランは戻ってこない

カトレアたちにアランの死のイメージが現れる

しかし、それだけは信じたくなかった

サーシャが小さな声でつぶやくように言う

「アランさん戻ってきませんね

敵と戦ってるんですかね?」

サーシャが心配そうな顔をするとカトレアは目を腫らしながら言う

「アランは運がいい、死ぬことは無いだろう

だから戻ってこいアラン!」

カトレアがそう言うと人影が現れた

アランを抱え歩いてくる

それは…ベルーガだった

カトレアたち全員が構える

しかし、ベルーガは…

「敵意はありません

私はアランを…この素晴らしい男をここまで運んできただけです」

確かにベルーガには殺気がない

皆もそれを理解したのか武器を収める

「私はこれで去ります

最後に言わせてほしい」

「…なんだ?手短に頼む

いつお前が仕掛けてくるかわからんからな」

カトレアは警戒を解かないがベルーガは続ける

「これは手厳しい

本来、教団はこの件に関わるつもりはありませんでした

私は関わったのはアランが素晴らしかったからです

勇者に伝えておいてください

貴方の相棒は素晴らしい

この私の生き方すら変えてしまうほどに…と」

ベルーガは多くは語らず消えていく

アランが帰ってきたことにより全員が安堵し、緊張が解け、その疲れが一気に来る

よく見るとアランは気絶しているがその表情は微笑んでいる

カトレアたちは音也とアランが目覚めるまで少し休み次の目的地へと向かう支度をしている

「ん…ここは…?」

アランが先に目覚め、カトレアたちが何か言いたげに見てくる

体の傷はヒールで治療されていたのだろう

「何か言いたそうだな…

悪いことしたとは思ってるけどよぉ、

あれが最善だったんだって…」

アランがそこまで言いかけた時、サーシャがアランの頬を叩いた

「そんなことをして私たちの誰もが心配しないとでも思ったんですか!?

一言くらいかけてくれたって良かったじゃないですか!」

サーシャが怒ったことに全員目を丸くしていた

カトレアは言おうとしたことを全て言われてしまったという顔をしている

「…わりぃ」

アランが謝ると音也が目覚める

「…俺は…」

音也が呟くと音也の片目が螺旋の瞳へと変わる

元の音也の瞳には戻らず、片目のみ常時発動しているようになった

「おい、音也それ大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だ

それよりお前たちに何も無くてよかった」

音也はそう言うと再び意識を手放した

仲間たちは心配するがおそらく貧血だろう

静かに寝かせるためカトレアが見張りをしている

するとそこにアランが来る

「よぉ、カトレア」

「なんだ?私はまだ許してないぞ」

「悪かったって…」

アランはカトレアに深々と頭を下げる

そしてアランは頭を下げたまま続ける

「ベルーガが味方してくれた」

「どういう心境の変化だろうな」

「俺が死んでそれを理由に音也が死ぬのは寝覚めが悪いとは言ってたな」

アランとカトレアは考える

(どうやら本当にアランはベルーガの生き方を変えてしまったようだな)


16話 勇者(とも)のため End

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