第1章 第15話 螺旋の目覚め
-前回までのあらすじ-
落涙の浜辺で夜を過ごす音也たち
音也が寝付けずに焚き火の前で座っているとサーシャが起きてきた
サーシャに過去の話をする音也
その中で関係がさらに良好になったように感じた
夜が明けるとアリジゴクの頭部とミミズの体を持つ継ぎ接ぎの虫が現れた
全身から腐った臭いを放つ砂虫をサーシャ、カトレア、シャルロットの3人で対処した
しかしそれはより強い虫を寄せつける餌でしか無かった
────────────────────。
音也は未だにフジツボと吸血虫の継ぎ接ぎの虫に組み付かれていた
巨大継ぎ接ぎムカデ二匹これを突破するには…
「我に悪しきを焼き尽くす火竜の力を!
音也はフジツボを焼き尽くした
腐った足は元通りに回復したが失った血は戻っていない
体がふらつく、まさに貧血状態だ
「音也、お前下がってろ!
俺たちが戦うから!」
「勇者様、無理ですって!
そんなに吸血された状態で…
死んじゃいます!」
仲間たちが必死に止めるが音也には聞こえていない
(この状態であの巨大ムカデ二匹…)
音也は力なく巨大ムカデに近づく
巨大ムカデは音也を餌と認識し襲いかかってくる
その爪は容赦なく音也の心臓に刺さった
仲間たちは絶望した
勇者である音也の心臓が貫かれた
回復魔法が間に合わなければ死ぬだろう
しかし…
「こんなので殺せるものかよ!」
音也の口調が変わりムカデの爪を素手で千切る
「勇者!すぐ治療を…」
「……」
音也は無言でカトレアの手を振り払う
そして…
「ハハハ!」
音也は笑いながらムカデに斬りかかる
しかし、硬い殻に弾かれてしまう
(何だこの気配は…まさか…)
カトレアは考え込む
サーシャたちは困惑している
「いつもの勇者様じゃない…
なんだろうあの戦いを…いや、相手を倒すことを楽しんでるみたいな」
「ああ、俺だってあんな音也見たことねぇぞ」
仲間たちは困惑する
螺旋の瞳が発動し、ドラゴニッククロスの変身は解けている
音也の黒髪は変色し、金髪になっている
「螺旋の権能」
音也がそう唱えると世界の全てが灰色になり停止する
音也だけは色があり、停止した世界で動いている
「螺旋撃」
音也がそう言い、線虫とムカデ二匹にムラマサを振ると螺旋を描き、停止する
「合成された生命などくだらないが
生命が終わる時、一瞬だが美しい
螺旋は動き出す」
音也が指を鳴らすと灰色の世界が動きだし、ムカデ二匹と線虫が崩れ落ちる
その傷口はまるでドリルで穴を開けたかのようになっている
カトレアは一人疑問に思う
(螺旋の権能、やつは私が始末したはず
何故だ?)
「螺旋の権能」
音也は再び時を止めるとカトレアに近づき言った
「音也がやられそうだから僕が助けたのさ
君にとっても悪い話じゃないだろう?」
カトレアは止まった時の中で意識があるのか色がつき始め、少し動いた
「やはり、お前は螺旋の魔神・リンドウだな
お前はあの時私が始末したはずだ!
それに勇者を…音也を乗っ取ってどうするつもりだ!」
「君もいずれわかる
その時が来れば、僕の行動の理由も
魔神こそが正義だ
そして、今はこれで去ろう
僕は"いつでも音也の傍にいる"」
音也が指を鳴らすと再び時が動き始める
音也はその場に倒れる
先程の殺気も螺旋の瞳も消えている
「勇者!」
止まった時を認識していたカトレアは倒れた音也にいち早く駆け寄る
アランたちも遅れるが駆け寄る
「音也!しっかりしろ!」
「勇者様、しっかりしてください!」
呼びかけるが音也は意識を取り戻さない
「それよりムカデと線虫はどうした?」
アランが聞くとカトレアは答える
「そこに転がっているだろう
勇者が倒した」
アランは不思議そうな顔をして首を傾げる
「音也は斬撃系の技しか覚えてないはずだぜ?
まるで貫通させるような技を使ったかのように荒い切断面
それに俺たちに認識できない速度で倒すなんてことは不可能なはず」
「確かにオトヤクンの技は斬撃系だけ
貫通するような技なんておかしいよね」
アランは音也から少し離れると砂虫が出てきた穴を確認している
どこかに繋がっているようだ
アランは仲間にはこの穴がどこかに繋がっているとは伝えない
カトレアたちは音也をテントまで運び、休ませる
音也の手の甲には静かに螺旋の刻印が現れた
落涙の浜辺での戦闘から少し経過し、音也のために水を運んできたり、シャルロットは見張りのために自分の操り人形を置いている
「どうだ?シャルロット敵は来ていないか?」
カトレアが問いかけるとシャルロットは頷く
「ええ、来ていないわ
サーシャとナオが食料を取りに行っているの
カトレアも少し休んだらどうかしら?」
カトレアは小さく返事をするとその場に座る
(流石に螺旋の権能の中で動いた疲れも来たか…
古傷もリンドウを感じた時に開いてしまったしな)
カトレアの脇腹、腿の辺りから血が滲み出る
「カトレア血が出ているわ
大丈夫なの?」
「ああ、古傷が開いただけだ
ヒールでは治らん
包帯はあるか?」
シャルロットは操り人形のロビンに命じ、ロビンに包帯を持ってこさせる
「すまんな」
カトレアは慣れた手つきで包帯を巻く
しばらくするとナオとサーシャは帰ってきた
「食料とってきましたー」
「いっぱいとれたよー」
カトレアとシャルロットがそれに気づき声をかけようとする
しかし、アランが居ない
「おい!アランはどうした!?」
「そういえば声がしないとは思ったけれど
どこに行ったのかはわからないわ」
シャルロットは素直にカトレアに伝えた
テントの中や近くを探すが居ない
カトレアが音也の近くを見ると手紙があった
その手紙にはこう書かれていた
「皆へ
この手紙読んでる頃には俺が居ねぇのはバレてると思う
俺は砂虫の野郎が通ってきた穴の先を調べるから追ってこないでくれ
音也の体には多分俺の想像のつかないことが起こったんだろうな
だから音也と皆の負担や敵を減らすために戦おうと思う
音也に伝えといてくれ、もし俺がくたばってもこのまま目覚めなかったら恨むぜってな」
カトレアがその手紙を読み、怒りを露わにする
それは怨恨などでは無い仲間を想っての怒りだ
「たわけが!そんなことをして私たちや音也が喜ぶと思っているのか!」
サーシャが急いで砂虫の通ってきた穴を調べると穴が塞がっている
アランが塞いだものだろう
「穴が…塞がってる」
「これじゃあアランを追えない」
既にほぼ魔力が切れているカトレアが槍を持ち出し砂虫が掘ってきた穴を見つけるため地面に突き刺す
「アラン、お前は本当にこんなことで良かったと思っているのか!?
私や音也が本当にそれで喜ぶと思うのか!?」
カトレアの瞳から涙が溢れる
普段は気丈なカトレアが泣いている
砂虫は恐らく敵の本拠地から来ている
一人がやられればこちらの戦力も士気も下がる
アランは大切な仲間だからだ
-砂虫の通り道-
アランは砂虫の通ってきた道を歩いている
四十分程度歩いたがまだ道は続いている
時折虫の羽音なども聞こえ、不気味な雰囲気である
(俺の力がどこまで通用するかわからねぇ
でも相棒の為だ
少しでも虫共の数を減らせりゃあ良い)
アランは少し休憩し、再び歩き始める
すると穴の奥から巨大なカブトムシとクワガタを合成した虫が現れる
「やっぱりこっちに来て正解だったぜ
硬そうな虫だが倒されてくれよ!」
アランは普段使っているブーメランではなく、ナイフを二本取りだし装備する
(ブーメランはまともに使えねぇ
だったらナイフで勝負するしかねぇ
それにいくらこいつらでも接合部を狙えば倒せるはずだ!)
アランは巨大な合成虫の突進を避け、接合部にナイフを誘うとする
しかし、ナイフの刃は折れてしまった
「なんだと!?
このナイフはそこらのやつより強いナイフだぞ!?」
接合部にはよく見ると硬質化された人骨が詰まっている
アランのナイフは折れ、1本でこの虫と戦わなければならない
(あぁ、覚悟してたが
これはほんとに死ぬかもな)
第15話 螺旋の目覚め End
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