第1章 第14話 死霊魔法

-前回までのあらすじ-

音也は羅刹斬習得のため修行をするが闘気を纏わせることは出来るがすぐに消失してしまい、一向に望ましい結果が出ない

そこに新たな敵、甲殻虫が現れた

音也は水穿斬を放つも、甲殻虫が出した体液は周囲の草木、土すらも腐食させた

カトレアの加勢により、甲殻虫とそのボスを退けた音也たち

甲殻虫のボスは合成魔獣のようでいて継ぎ接ぎだらけのまるで死骸のようなものだった

旅人の宿屋にいては危ないと音也は旅立ちを決意して柳月に別れを告げたのだった

-オーレン郊外・落涙の浜辺-

音也たちはオーレン郊外の落涙の浜辺にて夜を越えようとしていた

焚き火をし、海風を防ぐための簡易テントを組み、簡易寝具を用意した

野営の用意が終わったあと音也は謝った

「急に無理を言ってすまない

柳月さんやオーレンの他の人たちを危険に巻き込むわけにはいかない

だから…」

音也がそこまで言った時、アランは微笑みながら言った

「音也、お前は勇者である以前に仲間で俺たちのリーダーだ

だから提案に乗っただけだぜ相棒」

それに続きサーシャが発言する

「初めは驚きましたけど、理由が理由ですしね」

「オトヤくんがそう思うならそれに従うのも仲間の勤めだし

ボクは一回やらかしちゃってるしね…」

サーシャに関しては驚いてはいたが否定はしなかった

ナオに関しては1度暴走している

それを反省しているようだった

続いてシャルロットも問題ないと言うように言葉を続けた

「問題ないわ

私は皆について行くだけ」

「それはともかくとして次の目的を決めないとな

甲殻虫が出てきた場所さえ特定出来れば」

カトレアは次の目的を決めようとしていた

甲殻虫が出てきた場所さえわかれば、この虫の軍団にも先手を取ることも出来る

魔虫軍団ではない何か…

それに対して先手を取れるのは大きいだろう

「落涙の浜辺まで歩いてきた

ここで休もう」

音也はそう提案し、音也以外の仲間は皆眠りについた

音也は焚き火付近に腰かけ夜空を見上げる

今日の甲殻虫は生物的には完全に死んでいた

鳴き声もあげず、攻撃を受けても動きを止めず進行し、体液で全てを腐らせる脅威の生物

継ぎ接ぎとはいえ、合成魔獣の技術を使ったとしか考えられないそれは音也を悩ませるに至った

その時、テントの方から何かが動く音がした

音也は咄嗟にムラマサを構えて臨戦態勢に入る

それは…

「勇者様、どうしたんですか?」

「サーシャか、甲殻虫のことをな」

「今日出てきたっていうあの…」

サーシャがそこまで言うと音也も考えてることを語り出した

「あの甲殻虫は生物的にはとっくに死んでいたんだ

あれは合成魔獣なんかよりタチが悪い代物かもしれん」

「体液で全てを腐食させ、攻撃を食らっても怯まない

まるでゾンビみたいですね…」

その言葉を聞いた時、音也は気付いた

この甲殻虫は元々死んでおり、その身体を継ぎ接ぎにされて作られたものでは無いかと

そしてそれを使える魔法は死霊魔法ネクロマンスだけだと

「ありがとうサーシャ

おかげで気付けた」

「え?お役に立てたのなら嬉しいですけど…」

サーシャは照れたように俯き、音也とサーシャの間にしばらくの沈黙が流れる

音也が口を開き

「…少し俺の昔話でもするか?」

「え?勇者様の昔話ですか?

聞きたいです!」

(そういえば私、この人の過去を何にも知らないな

憧れだけで旅に着いてきちゃったし…)

サーシャがそう考えていると音也は話し始める

「俺がまだ四歳の頃の話なんだが、俺はよく爺さんの家に遊びに行ってた。

俺の爺さんは不思議な人だったんだよな

昔っから変わった人でさ、剣の指導をしてくれたのも爺さんだった

涙を見せるとそれまで厳しかった爺さんはよくこう言ったんだ

"泣いてもいい、お前の信じた道を進め!"と

その時にくれたペンダントがこれだ」

音也はサーシャにペンダントを見せる

いつも身につけている音也の大切なアクセサリー

それをくれたのはなんと四歳の時だと言うのだ

サーシャにこの話をしたのは単なる気まぐれではなく自分のことを知らないだろうサーシャに自分を知ってほしいと思い話したのだ

そろそろ夜が明ける

本当はもっと話したいことはあるが、今はここまでだろう

「また話す

サーシャ、付き合わせて悪かった

ちゃんと休んどいてくれ」

サーシャは今の話を胸に留め返事をした

「…はい、わかりました」

この話を聞いたサーシャの中には確かに音也の憧れ以上のものが芽生えた

そして、それは絆へと繋がるのだろう

音也とサーシャが寝静まった後、落涙の浜辺も静寂に包まれた

波の音もしない、そして空は曇り夜が明ける

静かな浜辺だ

しかし、轟音と共にその静寂は破られた

地面の揺れ、まるで何かが地中を掘り進んでこちらへ向かうように…

その轟音に気付き全員が目を覚ます

「全員警戒しろ!」

音也が全員に声をかけるとそれは姿を現した

巨大なミミズの体にアリジゴクの頭が付いている継ぎ接ぎの死骸

昨日の甲殻虫と同じものだろう

しかし、常に腐った匂いを放っている

「くっせぇ!何だこの臭い!」

「獣人のボクには無理だぁ!

臭いー」

アランとナオはその臭いに悶絶している

音也が攻撃を仕掛けようと動こうとすると落涙の浜辺の岩場にいたフジツボと吸血虫が合体したような死骸に両脚が絡め取られて動けない

「くそっ!

俺の方は動けない!

この継ぎ接ぎのフジツボを何とかしなくては!

サーシャ、カトレア、シャルロット

そいつの相手をしてくれ」

音也は三人に指示をする

三人は頷き、死霊魔術で作られた虫へと向かっていく

「音也、大丈夫か?」

「ああ、だがこいつらに好き勝手させる訳には行かない

死骸を操るなんて許せない!」

アランは音也の足についたフジツボを剥がそうとするが剥がそうとするとより協力に食い込む

それよりも体液で音也の足が腐り始めている

それにも関わらず、音也は闘志を失っていない

「奴はこれから砂虫と仮称する

シャルロットはやつの体液を出させない程度に縛り付けろ

そして、お前は弓矢ではなくウインドを使え」

「ええ、わかったわ」

「ちょっと!お前って言うな!」

カトレアの指示にシャルロットは頷き、サーシャはお前呼びにキレていた

シャルロットが砂虫を縛りつけると、砂虫は口から体液を吐いてきた

それはサーシャ狙いである

「え!?私狙い!?」

「馬鹿め、集中しろ!ストーンウォール!」

カトレアは咄嗟に石の壁を作る

コキュートスより早く出せるのはこれしか無かったのだ

「おい、それもすぐ腐る!

早く逃げろ!」

サーシャはカトレアに言われ、すぐに逃げて体制を立て直した

(砂虫が口から体液を吐き出すならば…

いや待て、それであれば砂虫の口は腐っているはずだ

死骸ならばあれが効くか!)

カトレアはサーシャに言う

「おい、お前

夜明け前に勇者と話したんだろう

それで何かを掴んだんじゃないのか?」

「ていうか起きてるなら言いなさいよ…」

「邪魔するのも野暮だ

早くうて」

サーシャは砂虫の頭部にある接合部と口を目掛けてウインドを放つ

それは…

「スパイラルウインド!」

螺旋状に回転する風を起こし、接合部の体液を出さないため、口を潰し体液排出を促進させない為の詰め物のようなものだ

砂虫は力なく倒れる

サーシャたちの勝利だった

サーシャたちは倒れている音也に駆け寄る

「勇者様、砂虫倒しましたよー」

サーシャは元気に音也に手を振りながら話す

「甲殻虫の方が数が多くて大変だったな」

「百匹単位なら大変ね」

カトレアは甲殻虫の話をする

あちらは数でせめてきたのに対し、今回は砂虫1匹だった

だが、呆気なさすぎるこれで本当に終わったのだろうか

音也はあの腐ったような臭いがより強くなっていることに気付いた

「違う!

こいつは餌だ!

より強い虫を呼ぶための!」

音也がそう言うと仲間たちは驚きを隠せなかった

「お、おい

今倒した砂虫だってかなりの強敵だったじゃねぇか

何を根拠に」

「この臭いは初めから出ていた

そして、死骸なのに活動停止というのも妙だが、活動停止後臭いが強くなったまるで狼煙のように

そして、ミミズの天敵で虫なら

それは…」

音也がそう言うと巨大なムカデが二匹いた

ムカデの頭にはクワガタのようなハサミと尻尾には蜂のような毒針がついていた

「…やはりムカデだ!

こいつも継ぎ接ぎの合成虫か」

ムカデだけではなく砂虫の体をも突き破り、何かが出てきた

それは線のように細長い虫

(まずい…このままでは負ける…)


第14話 死霊魔法 End

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