第1章 第13話 秘剣の代償
前回までのあらすじ
柳月は自身の娘・時雨を拘束から解放したものの音也との打ち合い鬼神楽を放ったことで既に動けなくなっていた
柳月は時雨を庇ったことでエルダーゴーストのレヴィからの攻撃を受けてしまい、瀕死の重症を負ってしまう
剣の道に進んだこと、不器用な父を許してくれと伝えて意識を失う
音也は自身の大切な人をやられ怒りから螺旋の瞳を覚醒させる
本来、魔神しか持ちえぬ瞳を音也が持っているのかという疑問を仲間たちは持つが
怒りによってレヴィを切り伏せ、柳月を回復させる
ヒールですら回復困難と思われた体が治り、柳月を宿に運ぶ
柳月から最後の剣技・羅刹斬を教えられなかったことを謝罪される
部屋の外で盗み聞きしていたサーシャ達に対し、アランは呆れ
カトレアはサーシャにこの旅について来なければよかったと言われる
それはカトレアなりの優しさであり、危険になる前に離れろという意味であったがサーシャは真意を理解出来ず1人で涙する
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オーレン・神秘の泉
アランとカトレアは二人で話していた
その内容は…
「音也の鬼神楽
あれ未完成だろ?
あれは力と速度、心をエネルギーとして放つ技のはずだ
でも最後の技を覚えてねぇ
それはつまり…」
カトレアが頷き口を開く
「…ああ、自分の命を削ってる
魔力で代用も出来そうだが、勇者は自分の命であの技を放っている」
「これ以上音也に戦闘させるのは避けるべきじゃないのか?
言って聞くやつじゃねぇけどよ」
「わかってる
だから私たちがなるべく戦って音也を戦闘から遠ざけよう
それと、このことは私たちでとどめておこう
サーシャにバレたらやつはまた苦しむ」
カトレアは俯き、体には自然と力が入る
「カトレア…お前優しいんだな
やっぱりお前は前の時と同じだ」
カトレアはアランの発言に違和感を覚え、質問する
「そうか、アランやはりお前は…」
「おっと、俺の事も2人の秘密にしといてくれよ
言ったって誰も信じてくれねぇしな
まぁ、音也はもう気づいてるだろうがよ」
アランとカトレアが帰る時は無言だった
それは無言の信頼だった
仲間だからではない
1人の魔族、人間としての誓いであった
‐オーレン・旅人の宿屋‐
音也はベッドで考え事をしていた
(鬼神楽は羅刹斬が完成して放つ技
完成してない俺の鬼神楽は確実に俺の命を蝕む
だがこれを使わければ倒せないなら使うしかない
みんなには黙っておこう)
音也が部屋を出ると羅刹斬習得のため修行をする
ムラマサを抜き、ムラマサ全体に闘気を込める
「柳月流剣術・羅刹斬!」
音也はムラマサから闘気を放つ
しかし、全力で込めたはずの闘気は霧散してしまう
(闘気を込めて放つまでは出来る…
何故だ、なんでできない?
霧散してしまうのはなぜだ?)
そして音也は柳月との修行を思い出す
それは2日前のことだ
「音也殿、岩砕剣の習得見事!」
「いえいえ、柳月さんの指導のおかげです」
「謙遜なさるな
して、音也殿
最後の剣、羅刹斬だが…
音也殿でも覚えるのはかなり先になるかと」
柳月は表情は明らかに曇る
「羅刹斬は敵の闘志や闘気と相殺し傷を与える柳月流剣術でも高難度の技、その難易度から悪鬼羅刹を斬る第三の奥義なのです
そして、鬼神楽は全ての剣を使い、心技一体・三位一体の究極の剣となる」
「……」
音也は黙るがその表情は考え事をしているようだった
柳月は真剣な表情から笑顔になり、音也を励ました
「敵を正しく捉えれば羅刹斬は使えるようになるでしょう
心眼というやつですな」
-現在-
(敵を正しく捉える…か)
音也はムラマサを鞘に収めた後、ギチギチと音を立てて無視の集団が現れ始める
全身を硬い殻で防ぎ腐った匂いのする虫…
まるで死体だ
数だけでも数百匹はいる
(近々旅人の宿屋を離れなければな
柳月さんを巻き込んでしまう)
どの方向からも気配と視線を感じ、音也を敵として見ている
そしてその硬い殻をつけた虫は音也を取り囲んでいる
「なるほど、おれをえものとして見ているのか
サイズは小さいが危険だな
それに腐ったよう激臭、まるで死体だ」
虫は顎をカチカチと鳴らし、動く度に体液を撒き散らしながら音也に飛びかかる
しかし、音也の体は液体のように消えてしまう
「流水の構え…
水穿斬!」
虫たち数匹に当たるが、固い殻に防がれ数匹に留まる
その数匹は爆散し体液を撒き散らす、その体液が触れた部分は腐り、植物も枯れる
「斬撃は逆効果か…!
しかし俺には斬撃しかないこのままでは辺り一帯が腐ってしまう」
ならばと音也は構え、体液を出す前に力の剣で制圧しようとする
「岩砕…」
「コキュートス!」
岩砕剣を放つ瞬間、見覚えのある氷魔法が発動する
それはカトレアのコキュートスだった
甲殻虫の半数は凍りつき、残り半数は戸惑っている
音也はカトレアに疑問を投げかけた
「カトレアなんでここに?」
「勇者、すまんがお前の修行を見ていた」
音也たちが話していると甲殻虫は逃げ出し、甲殻虫は去っていった
そして…甲殻虫は自身の数倍はある大きさの甲殻虫を連れてきた
口からは触手のような器官が伸び、腕には鎌と無理矢理合成させられた様な見た目をしていた
「合成魔獣!」
「勇者、似ているが違う
むしろ虫系の魔物を継ぎ接ぎにした様な魔物だ
それも全部死骸を使って」
甲殻虫のボスは先程の小さい甲殻虫を食べている
殻の砕かれる音が聞こえ精神的にもダメージを負いそうだ
「無理矢理合成されて可哀想だがここで討たなければより被害が広まる
岩砕剣!」
「コキュートススラスト!」
音也の渾身の力による剣は弾かれ金属音が空をきる
今まで受けきった相手がいないコキュートススラストも殻に弾かれる
そして体のいたるところから腐食性の体液を出す
音也も左腕に体液を浴びてしまい、腐食していく
「腕が腐るな、切り落とすか」
音也はムラマサで自身の手を切り落とす
カトレアはすかさずヒールレインで止血する
「こいつを燃やして倒すくらいしかないのか?
どうすれば…」
「勇者、ドールズクロスだ!」
「ドールズクロス?あれはブレードダンスくらいしか…」
カトレアの目は本気だ
音也はそれに応え、ドールズクロスへと変身する
「
音也はシャルロットと同じような姿になり、欠損していた左腕も回復する
「やつを糸に閉じ込めろ!」
カトレアがそう音也に叫ぶと甲殻虫に糸を巻き付ける
そして…
「コキュートス!」
カトレアは甲殻虫を捕縛した糸ごと凍らせ、音也もそれに続いて技を放つ
「シャルロット力を貸してくれ…
奴に裁きを
ブレードメイデン!」
無数の剣を召喚し、まるでアイアンメイデンのように甲殻虫を突き刺す
甲殻部分をも突き刺し、体液が溢れ出すもコキュートスにより直ぐに凍りつく
自身の体液と腐食に耐えられず甲殻虫は崩れ落ち凍りついた
ギリギリではあったがひとつの戦いに勝利した
(今回、音也に鬼神楽を使わせなかったな
これで少しは命に関わる技を使わないでいてくれると有難いが)
「カトレア、旅人の宿屋を出よう
このままだと柳月さんや周りの人を傷つけてしまう」
音也はカトレアの手を握り、目を見て真剣に話す
カトレアは少し黙ったあと、微笑み
「自分のことより他人のことか
まさに勇者だな
私も同じことを考えていた
しばらく野営だな」
音也たちは旅人の宿屋に戻り、皆に伝えた
ここにいれば教団員や魔物がやってくる
人々が傷つく前にここを去ろうと
「ま、それならしょうがねぇよな」
アランはこうなることを予期していたかのように荷物をまとめている
「流石だなアラン
深夜にはここを発つ
皆準備をして集まってくれ」
「ちょ、ちょっと、そんないきなり…」
サーシャはそう言うが、音也は真剣な顔をして仲間たちに伝えた
その顔を見た仲間たちは急いで準備に取り掛かった
宿の主人には世話になったと挨拶をし、柳月の部屋へと向かった
「柳月さん
お世話になりました
貴方の剣技、必ず完成させます
だから必ずまた会いましょう」
意識の無い柳月に話しかける音也
静かに部屋を去ると
柳月は意識がないにも関わらず、涙を流していた
-オーレン魔物の巣窟-
ローブを被った謎の人物が音也たちの行動を見ていた
それは…
「ちっ、あの継ぎ接ぎ甲殻虫は教団の合成魔獣の技術を盗んで作ったのに…
簡単にやられやがって」
その人物は羽織っていたローブを脱ぐと小柄な少女が現れた
「これじゃあボクが教団を裏切った意味が無いじゃないか
ベルーガなんかどうでもいい、全てはアルトレーネ様の為に」
少女は再び数匹の虫系魔物の死体を合成しようとしている
「勇者を殺してアルトレーネ様の役に立たなきゃ」
第13話 秘剣の代償 End
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