第1章 第12話 未完成の剣

前回までのあらすじ

音也は柳月流剣術を覚えるため滝の洞窟で柳月と修行をしていた

その才能を認めた柳月は自身の友であるサイクロプスと海竜と実戦をすることで水穿斬と鎧通しを覚えた

音也はすぐさま習得し、最後の剣技・羅刹斬を覚えようとしたところ柳月の娘・時雨が攫われたことを聞かされる

オーレン郊外の深淵の森へ向かうと魔界の罪人・エルダーゴーストのレヴィがおり、柳月を利用して音也を倒そうとした

しかし、柳月から音也へ頼み事をし音也の機転により時雨を救い出すことに成功した

───────────────────。

時雨を救い出した柳月

そこへレヴィが襲いかかる

柳月の体は脱力したように動かない

(衰えたこの肉体では音也殿との打ち合いから鬼神楽を放ち動くほどの余力はなかったようだ…

避ける余裕もない、時雨お前だけでも)

柳月は力なく時雨を押し出す

「父上!?何をなさるのですか!?

時雨も戦います!」

「…」

柳月は時雨を見つめ、笑顔を見せる

その刹那、音也達も柳月へと駆け寄るがレヴィの腕は柳月の脇腹を貫く

「狙いが逸れたがお前は死んだなぁ柳月

駒としての利用価値もないクズには相応しい最期だな」

「父上!時雨が捕まらなければこんなことには…申し訳ありません…!

お願いです…私を…時雨を1人にしないでください…!」

時雨が柳月の元へと駆け寄る

時雨の瞳に溜まっている涙を柳月は血の付いた手で拭う

「…お前を…いつも大切に思っていた…

先立たれた妻のため…お前のために…強く…なろうと剣の道を歩んだ…こと

無駄では…無かった…な…」

柳月の手が力なく地へと落ちる

時雨は柳月の手を掴み

泣き続ける

それを見たレヴィは退屈そうに聞く

「あー、もう茶番は終わったか?

1人死んだくらいで大袈裟なんだよ」

「…黙れ」

「あ?今なんて言った?」

レヴィが聞き返すと音也が答えた

音也は怒りを顕にした表情をしている

「黙れと言ったんだこのクズが!

お前は1秒たりとも生きていちゃいけない魔物だ!

俺が必ず地獄へ送ってやる!」

「1人死んだくらいで大袈裟なんだよ!

これは戦争だ!

強えやつが勝ち弱いやつは負けるんだよ!」

レヴィがそういった時仕掛けるのを躊躇う

その理由は音也の両の瞳の色が黒色から金色へと変色したからだ

それは魔装の能力では無い

純粋な魔力

レヴィはその瞳に見覚えがあった

「なんで人間てめぇ如きが螺旋の瞳を持ってやがる!?

その瞳は…その瞳は…!」

レヴィは音也の瞳を見て恐れている

本能的な恐怖

本来人間が持てる瞳では無い、この瞳は

「リンドウの瞳…」

カトレアが呟く

それに対しアランが返事をする

「リンドウって確か…」

「ああ、魔神だ」

カトレアとアランはいつでも音也を止められるように構える

「何故人間如きが螺旋の瞳を持ってるかは知らねぇが…関係ないね!

死ね!

ソウルドレイン!」

魂を吸い付く闇魔法・ソウルドレインを発動するが音也に弾かれる

そしてまるで時が飛ばされたかのように音也はそこにはいなかった

「柳月流剣術・水穿斬!」

炎や氷、水のブレスすら切り裂く高速の剣技すらエルダーゴーストであるレヴィには通用しなかった

「剣でゴーストが斬れるものかよ!

螺旋の瞳を見せられた時にはビビったがこの程度なら負けるわけがねぇ!」

レヴィはそう言って笑うが体が徐々に崩壊し始める

「体が…!この最強の体が崩壊していく…!?」

「これがお前が不意打ちで倒した柳月さんの剣術だ!」

「ま、待て!

話せばわかる!

俺が消滅すれば教団が次にやろうとしてる事がわからないだろ?

だから命だけは…」

レヴィは命乞いをする

その姿は先程、1人死んだくらいで大袈裟と言っている魔物と同じものとは思えなかった

「救いを乞うのならお前が不意打ちした柳月さんに乞え

そして、お前はもう喋るな」

音也は剣をゆっくりとした動きで下げ、下げた剣を勢いをつけて振り上げる

「柳月流剣術奥義・鬼神楽!」

「お、お許しください!

バアル様!

く、ぐげぁーー!」

断末魔と共にレヴィは崩壊していく

「柳月さん!」

音也が胸に手を当てると微かだがまだ心臓が動いている

カトレアとアランも近づき、生存を確認すると

カトレアはフレイムとヒールを手に纏う

「このキズは回復魔法だけではどうにもならん、ヒールとフレイムで組織を回復させながら火傷させ塞ぐ」

「そんなことをしたら父上は死んでしまいます!」

「嬢ちゃん、アンタが信じてやらなきゃ柳月さんは悲しむぜ

だからよ、信じてやろうぜ

親父さんには勇者と魔界の将軍様が着いてるんだ

だから絶対治る!」

アランがそう言うと時雨は頷き、柳月の手を握る

カトレアがヒールをかけ、その瞬間にフレイムで火傷させ塞ぐ

「ぐ、ぬうぅぅぅ!」

柳月が痛みにより目覚めては気絶することを繰り返す

(柳月さん少し痛いだろうが我慢してくれ…

まだ貴方から教わりたいことが沢山あるんだ)

音也が柳月に触れるとまるで加速するように傷が塞がる

火傷こそしているがその表情は険しくない安らかなものへと変わった

「父上の傷が塞がってます!」

「音也、何したんだ?今のは」

「いや、触っただけで…」

音也の金色の瞳は黒色に戻っていた

(リンドウの瞳…

一体なぜ?)

カトレアは考えをめぐらせるが思いつかない

音也達は柳月を抱え旅人の宿へと戻った

宿の店主は慌てて部屋を用意し、柳月をそこへ運んだ

「音也殿、かたじけない

この火傷も名誉の負傷という所だろう

この体では羅刹斬を教えることは出来なくなってしまったが、どうか許していただきたい

時雨よ、心配をかけたな

私はお前を1人にしない」

「いえ、貴方が無事でよかった柳月さん」

「父上!」

カトレアとアランはそっと部屋を出ると轟音が響く

それは聞き耳を立ててた仲間3人だった

「お前ら…何してんだよ…」

アランは呆れながら言う

するとシャルロットは答える

「人間の感情で動く私にとって感情の補給は必要

だからドアの前にいたの」

「私は気になって聞き耳を…」

「ボクはノリでついてきた!」

「シャルロットは仕方ねぇとしてお前ら二人は何やってんだ本当に…」

アランは理由を聞いた上で呆れている

そしてカトレアはサーシャを一瞥すると

「フン」

鼻で笑った

「あ、あんたねぇ!

この前ちょっと良い奴かもって思った私の気持ちを返しなさいよ!」

「おやおや、妖精のお姫様はチョロいんだな

そんな性格だから人に騙されるんじゃないか?

もう少し人を疑うことを覚えたらどうだ?」

「「この…!」」

2人が互いに武器を構えた瞬間、ナオが止めに入る

「2人ともダメだよ!

落ち着いて、ね?」

「お前がそう言うなら仕方ないな…」

ナオに言われたカトレアは槍を投げ魔空間へと仕舞う

「な、何よその態度!

勇者様とナオちゃんには優しいのはなんでよ!」

「お前がお転婆だからじゃないか?

妖精の姫様」

「この…!ちょっと強いからって調子に乗らないで!」

サーシャは駆け出し宿の外に出た

「喧嘩するほどなんとやらって言うけどよぉ

カトレアお前ちょっと言い過ぎじゃねぇか?」

アランがそう言うとカトレアは真剣な表情になり

「あいつはまだわかってない

この旅は危険なんだ

あいつのように生半可な覚悟で仲間になるべきじゃなかったんだ

誰もやりたくないなら私が言う

だから…」

カトレアはそれだけ言い部屋へと戻った

‐Side サーシャ‐

サーシャは1人で弓を構え、矢を放つ

「知ってるわよ

私には何も無いことくらい

勇者様には勇者の使命とクロスが

アランさんには勇者様の相棒としての使命

ナオちゃんにだってきっと教団と戦う理由がある

シャルロットちゃんも教団と戦う理由がリックさんのためだし

カトレアは魔界の平和のため

私は勇者様への憧れだけでこの旅についてきた」

サーシャは雑念を払うように矢を放つが狙いが逸れて上手く命中しない

「勇者様はどんどん強くなって

アランさんも新技を

ナオちゃんには力があって

シャルロットちゃんは霊体すら切り裂く糸がある

カトレアには莫大な魔力と魔法知識

私は弱くて何も無い

私はこの旅で成長出来てるのかな?」

また矢を放つが狙いが逸れて上手く命中しない

「命懸けだってわかってる

ヨルムンガンドの時だって勇者様に庇ってもらわなきゃ毒で死んでた

でも庇ってもらったから勇者様が毒で苦しんだ

私は仲間として役に立ててるのかな…」

注意が散漫になり矢先で手を切ってしまう

「痛っ!

こんな事考えてたら怪我しちゃった…

でも私は本当の意味で仲間なのかな…」

サーシャはその場で泣き崩れる

痛みだけではなく自分が音也達の仲間でいいのだろうかという悩みだろう

「わかってる

いつまでも森の姫のままじゃいられないことくらい

そんなこと、この旅について行くって決めた時にわかってた」

サーシャは涙で目を腫らしながら部屋へと戻る


第12話 未完成の剣技 End

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