第10話 天海百合の野望(百合視点)
兄様が…………兄様が、女の子になってしまいました。
どういうことですか、兄様。そんなの聞いてません! この国では兄妹婚も認められていなければ、同性婚も認められていませんよっ!?
それに兄様は男性であるからこそ兄様なのです。女性になったらそれは兄様ではなく姉様です! 兄様が兄様でないなんて、それはもうこの世には既に人間は存在しておらず、全ては星が見ている夢の一部だと言われても信じられそうな話で……ん?
「はぁ…………」
自分が女の子になった事実が受け入れらず、ぐったりしている兄様をじいっと観察します。
この兄様……かなり美人です。
肌がすべすべなのはもちろんのこと、元々男性としては若干長めだった髪は肩甲骨付近まで伸びたミディアムヘアになりました。柔らかい私の髪と比べて、兄様の髪はちょっと固めの、ところどころ跳ねた神――いえ、髪質だったのですが、その感じも少し残って、どこかワイルドな魅力が漂ってきていました。私も食べられちゃうかもしれません。きゃーっ!
おめめもぱっちりしています。二重もカンペキです。まつげもすごく長くて素敵です。鼻筋はすっと通っていて、文句のつけようがありません。
唇もぷるっぷるでキスしたくなります。いえ、兄様相手ならたとえ砂漠のようにカサカサしていてもキスしたいのですが。当然でしょう?
さあ、顔がパーフェクトオブパーフェクトだと確認したところでお次は体の方を見てみましょう。
兄様は元々バスケットボールを嗜まれていました。ポジションはシューティングガード。ドリブルが非常にお上手で、コートを駆けるその姿は神々しく、私はそんな兄様の姿を写真に収めるのが義務なもので、買ってもらったばかりのスマホの容量を兄様の写真だけで埋め切ったという武勇伝を持っています。もちろん、それらの写真はPC経由で外付けSSDに丁重に保存し、今も隙があれば拝み眺めさせていただいていますが。
……さて、少々話が脱線しましたが、そんなスポーツマンであった兄様。たとえ女の子になられてもその素晴らしさは健在です。
体は引き締まり、無駄なものは一切ありません。何のケアもしていない筈なのに、やっぱり肌はすべすべでもちもち。鼻を近づけると、最高に兄様な香りが溢れ出ています。すき。
それにしても、うらやまけしからんなのは、そのおっぱいです。
兄様のおっぱい、目測での推定ですがおそらくD……いや、E以上あります。めちゃんこデカです。対する私のおっぱいはB……いえ、限りなくCに近いB、つまり四捨五入すればもう完全にCですが、それよりはっきり存在感があります。
これまた服の上からの判断ではありますが、ものすごく張りがあって、形もよろしい。触ればさぞ素晴らしい弾力で私を出迎えてくれることでしょう……え? 兄様のおっぱいに触っていいのは妹である私だけですが?
こほん。さらに視線を下げましょう。腰はきゅっと引き締まり、お尻もぷりっとされています。足もすらっとしていてまるでモデルのようです。身長は若干低め……男性だった頃も、兄様は身長に伸び悩まれていましたが、今では私よりも少し低いくらいになってしまいました。
まぁ、小さい兄様も実に可愛らしく、私としては愛以外の感情がないのですが……男性は特に身長が高い人ほど有利とされるようなので、兄様が悩まれるのも仕方ないと思っていました。
しかし、女性にとって身長はそれほど重要視される要素ではありません。身長が低くてもそれが可愛らしい魅力に繋がっている方は沢山いらっしゃいます。
そういう意味では兄様は女性になることでついに低身長というコンプレックスさえも武器になされたということ……え、これ、もしや生物界最強なのでは? 私の兄様が最強すぎる件。
これは逆に、少しくらいマイナスな要素がないと、私が兄様を可愛がれなくなってしまうのですが……まぁ、それは追々探していきましょう。
というわけで、まだ全然語り足りないくらいですが、兄様(女性のすがた)をレビューしてきた結論を出しましょう。
――兄様、好き。
はい出ましたね。もうこれです。これ以外ない。宇宙が誕生して最初に生まれた感情が兄様への愛というのは有名な話ですが、今ここに新たなビッグバンが発生したと明言しておきましょう。
兄様は女性になられてもやっぱり兄様でした。私、天海百合が愛する天海碧でした。
冷静に考えれば、そうですよ。そもそも私は総理大臣になる女です。総理大臣になり、法を変え、兄様と結婚する女です!
であれば、兄様が女性でも関係ない! 兄妹が結婚していいよう法を変えるなら、それが姉妹であっても、女性同士であっても、結婚して問題ないよう全部まるっと変えてしまえばいいのです!!
(むしろお互い女の子同士の方が色々有利なのでは……?)
例えばお風呂。兄様が中学に上がった際に一緒にお風呂に入るのは禁止されてしまいましたが、女の子同士であれば一緒にお風呂に入っても問題ありません。温泉、大衆浴場はそういう仕切りになっていますから。
それに更衣室などでも兄様のお着替えを合法的に観察できます。
さらには……そう、現在私が通っている白姫女学院高等学校にも通えます!
総理大臣になるため、そこに近づくための最高のキャリアを積むため、わたしは断腸の思いで兄様とは違うこの高校に進学しました。
なぜなら白女こそが、女性にとって、この世で最も天下に近づける高校だったから! 兄様がいないという最大の欠点はありつつ、高校から直帰すれば部活動をしている兄様より早く帰り、兄様のベッドで兄様の残り香を存分に摂取しつつ兄様を出迎えられますし……何より二人の夢のためですから。これはそのための準備の時間だと割り切って頑張っていました。
しかし、兄様も女性になったなら、兄様も白女に入れてしまえばいいじゃないですか!
白女の学生寮は二人部屋ですし、兄様と二人一部屋なんかになったら……きゃーっ! それって世間一般に『愛の巣』なんて呼ばれるものじゃないですか!? 兄様と同じ部屋、同じベッドで眠り、朝は兄様の囀りで目を覚ます。そして二人は目覚めの口づけを……なんて! なぁんて!!
(そうと決まれば、うかうかはしていられませんね……!)
私は早速、IQ213と言われるこの頭脳をフル回転させ始めました。
どうすれば兄様を白女に入れられるか……なぁに、将来総理大臣になろうという私ですよ。この程度の壁、乗り越えられずしてどうしますか!
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