高山 遥 05

「三番目の曲は、どういう意味のことを歌ってたの?」

「三番目……あ、『陸の動物』か。あの曲は、私も前に歌ってたことがあるんだけど……人も動物も、結局は変わらないってこと……なのかなあ」

 自信がなかったので、私は曖昧に首をかしげながら答えた。


「バンドの人たちが入って来た時の曲には、どういう意味があるの?」

「あれはSEっていって、メンバーが好きな曲を流してるの。今回流れてたのは『気が狂う』って曲で、義人のバンドはずっとあのSEを流してる」

「SEって、何の略?」

「ええと、Sound Effectだったかな」


 気付けば私は、ゼロニーから質問攻めにあっていた。ゼロニーは気になることがあると、それを躊躇ちゅうちょなく口に出して私に尋ねてくる。他人が関わるととたんに空気を読もうとするので、そこは私に似ているような気もするが――色んなことに関心がある様子はどちらかというと子供の頃の私に似ていて、そんなゼロニーが私は少し羨ましかった。


「それで、ゼロニーは結局どうだったの。ライブ、楽しかった?」

 ようやく質問が止まったのでもう一度尋ねると、ゼロニーは珍しく複雑な表情をしてうつむいた。少し間が空いてから、ゼロニーはまた首を横に振った。


「……やっぱり、よくわからない。遥からいろいろ聞いてわかったことはあったけど、あの人たちが何のために歌ってて、誰にどう聴いてほしいのかが、俺にはよくわからなかった」


 人に対しての理解が足りないのかな、とつぶやくゼロニーを見ながら、ゼロニーの言う通りなのかもしれない、と私は思っていた。

 たぶん義人は、仲間内で盛り上がるのが楽しいという理由だけでライブを続けている。かつて音楽番組に出演したいと言っていたのは本気だったのか、勢いだったのかはわからないが――そこにはその時、私が感じていたほどの覚悟はなかったのだろう。


 今の義人は、きっと惰性だせいで音楽をやっている。音楽でお金を稼ぐ気がないのなら、それでも問題ないが――さっきのライブのようにステージ上でおどけているばかりでは、観客の心を掴むことは到底とうていできないだろう。


 とはいえこんなことを義人に言っても、遥はよくわかってないでしょ、と一緒にバンドを組んでいた時のように一笑いっしょうされるだけだ。


 少し離れた場所で武志や他のバンドメンバーと談笑している綾子に声をかけようとすると、


「遥」


 背後から、聞き覚えのある声に呼び止められた。

 今なら聞こえなかったふりをして、綾子に話しかけられるかもしれない。そのまま振り向かないで、綾子のほうに近付けば――


 そう思っていたのに、私はゆっくりと振り返った。


 私が想像していた通り、そこには義人が立っていた。

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