お坊ちゃんとおっさんたち

「よっしゃ、俺が手本を見せてやるぜ」


 まずは本人の望むお肉を焼くというミッションを手始めに。

 ドットたちがお手本を見せてやると言い出した・・・まぁ、焼くだけならなんとかやれるようになってるからな。このおっさんたち。

 肉の切り方、焦がさない焼き方なんかを嬉しそうに手取り足取り説明している。

 その後ろで護衛と侍女が必死に覗き込んでいるのは、シルスファンに怪我をさせないか、などと心配もしつつ、自分達も覚えたいっぽい。

 しみじみこの世界では肉を焼くことが特殊技能なのかと少し考えちゃう。


 簡単なスープを作るために野菜をぶつ切りにするのもドットがシルスファンに手を添えて丁寧に教えている。

 絵面が、なんていうか可愛い少年に覆い被さるクマっぽいのは俺の腹筋がヤバかった。


「ほれ!ちゃんと焦がさず焼けてるぞ」

「いーや、俺の肉のが美味そうだね?」

 ドヤ顔のドットに対抗したクレイバーが自慢げに肉を見せている。


 ただの鉄板焼き肉をそんな自慢げにされても・・・と思うが、すぐさま消し炭にしていたおっさんたちがちゃんと肉を焼いたんだ。成長したよな。うん。


「すごい!美味しそうです」

 素直に二人を褒めてるシルスファンの可愛いこと。

 シャートとドレイクは護衛と侍女のそばで一緒に作業している。


「よし!こうして塩振って味見だ!!」

 ドットがいきなり焼きたての肉をシルスファンの口に差し込んだ。

 一瞬護衛たちが殺気を放ち、侍女たちの視線も鋭くなった。

「・・・!あっ・・・ちゅ!!・・・美味しい」

 突然のことにびっくりしたシルスファンは焼きたての肉の熱さに普段なら出さない可愛い声を出し、破顔した。


「おい!口ん中やけどしたらどうするんだ!!」

 俺は思わずドットの頭を叩いた。同時にドレイクもドットにデコピンしていた。


「あ、わりぃ!!」

「いえ・・・」

 謝るドットをすぐシルスファンが首を振って許したので護衛たちも見なかったことにしてくれるようだ。


 口の中に火傷してないか気になったので、木製コップにぶどうジュースを入れてコソッと冷やしてからシルスファンに渡した。

 受け取ったコップがひんやりしていたのを感じたからかハッと俺を見てきたシルスファンにシーッと口に指をやって見せると彼は小さく頷いた。賢い子供だよな。

 まぁ、シャートにはバレてるし、他にも魔力が強い人間にはバレちゃうんだろうけどな。


 ピザ生地を焼いて肉や野菜を巻いてパニーニ状にしたものを差し出せば、シルスファンはにっこり笑って受け取った。

 子供が素直に食べるんだからおっさんたちも野菜に文句言うなよな。

 最初の頃に比べたら文句は言わないものの、野菜を混ぜると一瞬、嫌な顔をするんだよ。

 

 護衛と侍女にも「任務中ですから」と一回断りつつ、ドットに「交代制だ」と言われてすぐに齧り付いた。

 彼らはシルスファンとミシェルの側付きなので普段は俺がついでに作る賄い飯を食べてるのでそんな珍しい物でもないんだけど、こうした調理した場で食べるのが嬉しいみたいだ。焼きたて。

 ケインがいるから冷めたものは出してないはずなんだけど、何か違うのかな。


「護衛任務中に温かいものが食べれるなんて」

「くじで勝った甲斐がありました」


 話を聞くと、こうした移動の最中は下っ端従者はまとめて鍋で出されるスープとパンに肉といった感じで、問題なさそうだが、やはり冷めちゃうのと、早い者勝ちでスープの具材の量でちょっとだけ揉めるようだ。


 冒険者と違うのは現地調達が出来ないこと。休憩中でも護衛対象である主人から遠く離れることは出来ないらしい。

 冒険者も護衛依頼中は似たようなものだが休憩中はちょっとそこまでって狩りに行くことは出来ちゃうんだな。


 もちろん何かあったら大問題だから、置いていく仲間の腕に自信のあるのが前提だ。

 

「ケインの飯も美味いですがジェイルさんの料理は匂いから違うんです」

「おいし・・・」


 感動してくれるのは嬉しいんだが、簡単なものしか作ってないからなぁ。

 匂いはハーブのことだろう。最低限の調味料・・・。


 大人が食べてる間に、シルスファンは何故かドレイクに肩車されている。

 疲労が激しい子供に肩車は大丈夫なんか?


 肉を手に持ったままの護衛がワタワタ付いて歩く。まず飯をおいて動けよ。


「あはは」


 いつも貴公子然とした態度を崩さないシルスファンが大きな口を開けて笑い出した。

 

「お、楽しいか!!」


 今度はドットがシルスファンの腰を掴んでブンッと持ち上げる。


 俺の中では飛行機かって思ったんだが、他のみんなが「ワイバーンだー」「可愛いからひよこだろう」だのと言う。

 この世界では飛行機が無いから鳥類になるんだ。



 おっさんたちは侍女にキレられるまで、シルスファンに構い倒した。


 

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