第12話 戸惑い

 考えたいからと言って二人を置いてきたけど......

 というか急に何だったの?!ずっとだったって言ってたから急ではなかったのかもしれないけれど、俺にとっては急なことだからね。

 雨のあんな表情を初めて見た。真剣な目も。

 その表情を向けられているのが俺だという事実に戸惑いを隠せなかった。


「なんで俺なんだよ......」


 思わず声に出てしまった。

 だって俺が好かれる要素とか何があるというんだ。

 親友ではあったし、それになる経緯が特殊だったかもしれない。

 経緯、か。たしか部活であまり結果を出せなくなって落ち込んでいた雨居にアドバイスを求められて......結局そのアドバイスは力になれなくて塞ぎ込んじゃった雨井を助けたんだっけ。

 屋上で苦しそうに笑った雨井を見たらいてもたってもいられなくなったんだよなあ。あの時から雨井に親友だといわれるようになった。

 あの時に心まで救えたかは分らないけれど


「笑ってくれてたらそれが一番なんだよな」


 俺は空を見上げる。

 あの時繋いだはずの未来がどこかにいってしまうとは思っていなかった。

 こういうふうに別の世界で、姿の変わらない彼と出会うなんて想像もしていなかった。いっそのことすべてが違ったら、雨井に気が付くこともなく俺が声をかけることもなかったのだろうか。

 そうすれば告白されることも、俺が悩むこともなかったのだろうか。


「否定したってなにも変わらないのは分かっている。それに、それは雨の想いを否定しているようなものだ。わかっているけど、俺の答えが出ないのにどうしたらいいんだよ......」


 さっきからずっと考えているのに答えが出ない。

 嬉しいけど困る。そんなことを言って飛び出してきたのにいざとなったら答えが出ないとはね......


「親友として好き、じゃだめだよなあ。あーもう、どうすりゃいいんだよ」

「自分の思うとおりにしてみたら?」


 そんな声が後ろから聞こえてきた。

 誰もいないからと思って来たというのに


「なんで見つけるんですか......」


 俺に声をかけてきた人を見て苦情を言う。


「こういう時にうちの学校でどこに行きそうかぐらい容易に想像つく」

「じゃあ質問変えますけど、なんで来たんですか弥生さん」


 俺に声をかけてきた人というのは弥生さんのことだった。

 弥生さんまできたら雨は今一人になってしまっているということ。


「......雨が気にしててうるさかったから。急なこと言ったからだとか、ほんとは言ううつもりなかったのにとか、もう親友って言ってもらえないかもしれないだとか、色々うるさかったから。だから様子見に来たわけ」


 ―ああなんだ、雨が心配だったのか。

 だから俺のこと探しに来て答えを聞きに来た、か。

 前だったらそんなことしなかっただろうにな。


「やっぱり変わりましたね弥生さん。雨も前の気持ちとか忘れてたらよかったのにな」

「ねえ、本心じゃないこと言ってて楽しい?僕には君のその笑顔こそが噓くさいって思うけど。大体君が人の気持ち否定して平気じゃないことぐらい分かってるから。どうせ、幸せになってほしいからとか、他にも余計なことまで考えてるんだろうけど......自分の好きなようにすれば?別に雨はどんな言葉でも受け止めるよ」

「そうかもしれないですけど、悩むんですよ。今の自分には答えが出せる気がしないので。俺は今の自分の感情に自信が持てないです。俺の脳裏にこびりついているのはいつまで経っても、彼の......俺が最後に会った友人の泣き顔なんですよ。俺は彼に謝りたい。泣かせてしまってごめんって。それまではきっと何があっても自信は持てない」


 それはただの自己満足。俺が勝手に庇ったから泣かせてしまった。

 謝りたいというのも自己満足。

 けれど、やっぱりそう思う限り応えてはいけないと思う。


「だってさ、雨」

「は......」


 弥生さんの向いた方を見るとそおこには雨が立っていた。

 いつからいたのだろうか。

 すでに会話は聞かれていたということかもしれない。

 

「ナルが何言ったってオレの前からの気持ちは消えねえよ。でも、そっか。そうだよなあ......うん、オレも困らせたいわけじゃない。ただ聞いてほしかったんだ。お前のこと好いてる奴はこの世界にもいるって。知っててほしかったんだ。なあ、ナル。返事は今いらない。ナルの気持ちに整理ついてからでいい。だからさ、忘れてたら良かったのにとか、もう言わないでくれな?」


 笑っているけれど、少し困ったような表情。

 何かを飲み込んでいるような表情。でも、それについて詳しく聞くことはできない。俺がしてはいけないような気がするから。

 

「雨は優しいね。それと、ごめんね。ちゃんとした返事が返せなくて。いつか、いつか気持ちに整理ついたら必ず......それまで俺のこと好きかは分からないけどさ」

「オレの想いは簡単には消えねえから!そんでさ、ナル......図々しいのは分かってけど、これからも親友でいてくれるか?」

「当たり前でしょ!俺の方こそこれからもよろしくね」


 これからも親友で、俺の大切。

 いつになるだろう。長いかもしれないし短いかもしれない。

 分らないけれど、いつかちゃんと返事できたらいいなと思いながら俺は雨と握手をするのだった。

 


 

 

 

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