第9話 親友の上って?

「というか井口、勇先輩は?」


 俺のペアが雲茂さんだから俺たちは二人でいた。けれど、井口のペアの相手は違うはずだ。それなのにこちらに来てもいいのかと思い聞いてみる。

 

「先輩ならナルと話したいって言ったら行ってこいって言ってくれたぜ!」

「そっかあ。って、その先輩はどこに?!」

「多分晴間なら空手部の部員でも勧誘しに行ったんじゃない?」


 そうか、あの人のモデルになったであろう人は空手が好きな人。新入生が入ったとあればすぐにでも勧誘して回るだろう。

 俺も前はすごい勧誘されたからな。


「まあ、暇になっていないならいいんですけどね」

「君は部活とか決めてるの?」

「俺は特に何かをするつもりはありませんよ。これといって得意なこともアリア線から」


 俺は勉強も運動も苦手なのだ。だから、なにかするとなれば迷惑をかけてしまいそうなので部活に入る気にはなれない。

 

「井口は剣道だよね」

「おう!見に来てくれな!」

「うん。井口が試合してるのかっこいいからまた見に行くよ」


 井口が剣道しているのを見に行くことは前でもあった。

 それがまた見られるのなら俺は何度だって行こうと思う。あの時と違うのは一緒に見に行っていた彼が隣にいないことかな。

 彼はいったいどこにいるのだろう......また会いたいと願う中には彼もいるというのに。


「また別のこと考えてんだろ?」


 井口が顔を覗き込んで聞いてくる。


「えっ、あ、ごめん」

「いいぜ。いつものことだしな!」

「そうだよ君が考え事をして周りの音に気がつかないのはいつものことだ」


 井口も雲茂さんもいつものことだと受け入れてくれるのはいいのだが、さすがに気をつけたほうがいい気がしてきた。

 考え事するときでも人の話は聞くようにしておかないと、いつなにがあるか分からない。


「ちゃんと話聞くようにするから嫌わないでね」

「嫌いになるわけないだろ!オレとナルは親友だからな!」


 こうして別の世界で出会ったというのに再び親友と言ってくれる。俺にはもったいないほどの好青年だというのにな......けれど、親友と言ってくれるのは素直に嬉しいし俺だって親友だと思っている。


「親友で収まる気なら僕がもらうからね」

「んなわけないだろ?じっくり時間かけてくんだから最初は親友でいいんだよ」


 井口と雲茂さんがまたよく分からない話をしている。

 というか......


「親友の上ってなんだろ?」

「ナルはまだ知らなくていいぜ!」

「え、声に出てた?」

「バッチリな!」

 

 声に出ていたことはまあ気にしないとして、まだ知らなくていいというのがなあ。けれど、これ以上聞いていいものなのか分からないしやめておくか。


「そうやって時間をかけている間にとられないといいね」

「とりそうなの弥生だけどな?」


 二人がまた内緒話をしている。

 聞いてもよく分からないから別にそれはいい。けれど、少し疎外感はある。

 もう一度出会えたからと少し欲張りになってしまったみたいだ。

 俺は俺で考えごとでもしてさみしい気持ちをましにさせておこうかな。

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