第6話 真相

 勇さんと井口が去ってから雲茂さんが俺にもたれかかってきた。

 

「あの......雲茂さん?」

「疲れたんだから肩ぐらい貸しな」


 そう言って俺に座れと言ってくる。

 立ったままだともたれかかるのも難しいのだろう。

 この人に命令されたら俺は逆らうことができない。

 弱みを見せてくれることがあまりない人だからお願いにはつい応えたくなってしまう。


「雲茂さん大丈夫ですか?」

「別に平気。今君しかいないし」

「そうですね、みんなどこかいったみたいです」


 周りには他に生徒が見えない。

 見えないというか、近くにいないだけなのだが。

 それだけでも、人ごみがつらい雲茂さんにとってはいいことだ。


「君って好かれやすい人だよね」

「急になんですか?!」

 

 普段言わないようなことを急に言われると驚いてしまう。それに、俺が好かれやすいとか何を思って言ったのか分からない。


「だって、告白されたんでしょ?それに懐いてる幼なじみもいる」

「うーん、それって好かれやすいってことなんですかね?俺は周りに恵まれたんだと思いますよ。ソラは......懐いてるっていうんですかね?」

「君のことで張り合うぐらいなんだから懐いてるんじゃない?」

「俺に似てるソラに懐かれるというのもなんか不思議ですけどね」

 

 ソラの容姿は本当に俺にそっくりなのだ。俺のことをキャラとして作ったのが妹だからなのだが。

 性格がなんだか違うような気もするけれど、他の人だって多少変わっているからきっと完全に同じにしようとは思わなかったのだろう。


「そんなこと気にしてたらこれからもたないんじゃない?どうせ君の知ってる人に似たのなんかこれからたくさん会うでしょ」

「そういえばそうでしたね......」


 この世界は妹が俺の周りの人をもとに作っているのだから、これから先も知っている人に似ていると思うことは多々あるはずだ。

 だからソラで不思議がっていてはこれからもたない。いや、自分に似ているから少々思うところがあるだけなのだが。


「あ、雲茂さんに聞きたいことがあるんでした」

「なに?」

「そろそろなぜあなたがこちらの世界にいるのか教えてほしいんです」

 

 ずっと聞きたかった。なぜ雲茂さんと雨井までこちらに意識があるのか。

 俺は自分がいなくなったあとを知らない。

 なにがあったのか知らないのだ。俺だけではなくて安心もしたけれど、それと同時になぜ二人に前の記憶があるのかと疑問だった。


「僕の場合だけど気がついたら前の世界での記憶をぼんやり思い出していったんだ。元々からあったわけじゃない。ただ、ああ僕は新しく生まれたんだなって思ったよ。雨がどうかは知らない。まあ、あっちは会った時から記憶あったみたいだけど」


 雲茂さんは淡々と答える。

 気がついたらあった。ぼんやりと、うっすらと......それは元々のものではなかった。彼にとって前の記憶は別の誰かの記憶みたいなものだっただろう。

 俺自身は幼い頃から記憶があったから、転生というような形で俺がまた生きることができるのだと理解していた。

 実際は漫画の世界だと理解するのにそう時間はかからなかったので、俺は単なる登場人物として生きることになるのだと思ったのだが。


「つまり、なぜかは分からないということですね?井口にも聞いてみますね」

「まあ、一つ心当たりがあるとしたら君との勝負ができなかったことだね。僕は自分が自由にするのはいいけど人に約束破られるのは我慢できないからね」

「は......」


 自由気まま、感情が読みづらい、常に強い人を求めてる。それが俺の思う雲茂さんへの印象。

 その人が俺との約束を忘れていなかったから記憶があるのかもしれないと素直に言った。

 その事実に驚いてか細い声しか出なかった。


「なに、そんな驚いて。今度こそ約束守ってもらうからね」

「わかりましたよ。新しい約束でもなんでも言ってくださいね」


 なぜ俺と同じように記憶があるのか明確な理由は分からなかった。

 けれど、十分な答えを聞くことができた。

 

 約束は破られるかもしれない。しかし、もう破りたくない。

 雲茂さんが約束を破られたくないと思うのなら俺はそうしたい。

 もう彼の前から急になくなったりはしない。


 俺は心にそう誓った。

 

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