第5話 お話会
振り向くとそこにいたのは、長身の男とその横に並ぶソラの姿だった。
「なにナスビ。早くどっか行きな」
「困りましたねえ。僕のペアの子がそちらの子と話したいというから連れてきただけですよ」
長身の男が俺を見てくる。
本当に頭がナスビのヘタのようになっている。
「ナル〜この人怖いよ……」
「は?あんたソラに何しやがりましたかこの野郎」
抱きつきながらそんなことを言ってくるから、思わず口が悪くなってしまった。
「いやいや、僕何もしていませんよ⁈その子がただ怖がっているだけです!」
「身長高くて見下ろしてっから怖がられるんですよ。俺に三センチぐらい分けてくださいよ」
「なんでそんなニッコニコしてるんです?むしろ貴方の方が怖いです」
「あ?ソラを怖がらせてんじゃねえですよ」
敬語が取れそうではあるがギリギリのところで取れないように頑張っている。
繊細な子だから、些細なことでも怖がってしまうということを察してほしいものだ。
「理不尽じゃないですか⁈ちょっと、ひよこがこの子の教育係でしょう?何とか言ってくださいよ」
「僕には関係ない。チワワ、もっと言っていいよ」
「ありがとうございます!」
雲茂さんからの援護も得たしと思ったのだが、そこまでの非はなさそうだしもうやめておくか。ソラの震えも治ったことだしな。
「まあもういいですよ。名前も聞いてない相手怒るのは気が引けるんで」
「そう思うならもう少し早くやめてもらえませんかね?僕は
「嘘くさい笑顔……」
「は?」
意表をつかれたような顔をしている。
もしかして言葉に出てしまっていただろうか。嘘くさいと思ったからつい出てしまったのか?気をつけないとな。
名前を聞いていないというのは本人からは聞いていないということである。そんなことを気にする者はいないと思うが一応。
「すみません声に出てました?あっ、俺の名前は久保成海です。決してチワワではございません」
「なん、で僕の笑顔が嘘くさい、と?」
途切れ途切れに聞いてきた。
もしや怒らせてしまったか?それなら申し訳ない。だが、思ったものは仕方がない。
それより、雲茂さんが少し肩を震わせていることの方に目がいってしまう。多分狼狽えているのが面白いとかだろうな。まあそれは置いておくとして質問に答えておこう。
「だって嘘くさいんですもん。なんていうか、よろしくしたくないのに無理に言ってるみたいな?人と関わるの苦手なら無理しなくていいですよ」
織は目を丸くする。
図星だったからなのか、初対面で気づかれたことに驚いたからなのか実際のところは分からない。正直どっちだっていい。
「くっ、ふはっ、言いますねぇ。久保成海でしたか。成海くんと呼ばせてもらいましょう」
「別に呼び方はなんでもいいですよ。あ、チワワは却下で」
「そこのには呼ばせてるじゃないですか」
「ああ、雲茂さんは言っても聞かないんでいいんです」
本当、言ったところで聞かないだろうな。あの人が人に指図されることを嫌っているのを前から知っている。それに、時々でも名前を呼んでくれるので問題はない。
「僕は許されているんだってさ。それより笑い声相変わらずだね」
「許されているんじゃなくて呆れられているのでは?笑い声に関しては言うなと何度も伝えているのですが?」
この二人漫画の世界でも喧嘩をするようになっていたのか。ケンカップルとやらもあるらしいからそういうのを見たかったのかもしれないな。
ただ、片方が記憶を持った状態だからそんなに喧嘩ばかりというわけではないはずだ。完全に漫画通りではないというのもややこしいものだ。詳しくは知らないのだけれど。
「ナル、こっちで一緒に話そうぜ!」
「うん」
俺は井口に呼ばれた方へ行く。
「おぉ!久保だったな!一緒に話そうではないか!」
眩しい。一瞬でそう思った。
太陽みたいな笑顔。
彼の名字に晴れと入れた理由がよく分かる。
「はい、よろしくお願いします」
「俺のことは勇と呼んでくれ!俺には可愛い妹がいるからな!」
裕貴さんには妹がいたけれどこの世界でもちゃんといるようだ。
まあ、俺の初恋の相手だったんだけどな。
今では恋愛とかなんか興味がなくなってきたというか,,,,,,ソラの恋愛の相手が誰なのか考えてサポートしたいと思っている。
「ナル?またボーッとしてる......」
「いつもボーッとしているのか?」
「ナルは考えごとある時とかはいつもああなんすよ。声かけりゃ聞いてくれんすけどね」
三人で何か話しているようだがひそひそと話しているためか聞こえてこない。
楽しそうにしているみたいだからもう少し放っておこうかな。
「いつもって......最近知り合ったばかりでしょ?俺のがナルのことたくさん知ってるし!」
「オレも知ってるぜ!毎日何回でも連絡する仲だし!」
「二人がそんなに入れ込むということは久保はいい奴なのだろうな!!」
ちょくちょく俺の名前が聞こえてくるような気がするのだが、そろそろ会話に入ったほうがいいかもしないな。
「みんな何話して......」
「ナルはね男の子に付き合ってって言われて素でどこに?って答えて裏で泣かれたことがあるんだからね!!」
俺が会話に入ろうとした瞬間聞こえたのはそんなことでした。
なぜ俺が覚えていないようなことをソラが覚えているのか......というかそんなこと知らなかったのだが。
いや、確かに中学生時代にそんなこともあったけれど裏で泣かれてたとは思わなかった。
「君そんなことしたわけ?」
後ろから雲茂さんに声をかけられた。
しかも引いているような顔をしている。
「友達としてどこかに一緒についてきてほしいってことかと思ったんですよ」
「鈍感なの変わらないんだね」
「そうだよなあ!今も前もナルは鈍感だ!」
俺が雲茂さんに言い返していると井口が来て雲茂さんに賛同した。
その声がソラにも聞こえていたようで
「今も前もって、ナルは井口くんと会ったことがあるの?だからナルのこと井口くんが知ってるの?だから最初会った時少し待っててって言ったの?」
と、ずいずいと顔を寄せて聞いてくる。
この世界で会ったのは入学式が初めて。しかし、その前に親友だったので俺のことを井口が沢山知っているのは当たり前のこと。
それを言うわけにはいかない。
「んーそうだね、見たことがあるような気がしたんだ。まあ、運命ってやつだよ」
俺はぼかしてソラに伝えた。
「運命って......」
ソラがため息をついた。
俺自身もごまかし方がひどいとは思った。
いいごまかし方ってなんなのだろうか。
「確かにこうしてまた会えたから運命だな!」
井口はそう言って笑って俺の肩を掴む。
フォローしてもらえて助かった。けれど、ソラがなんかいつもと違うような表情をしているのが気になる。
「お、俺のが運命だし!隣の家に住み始めたときからずっと一緒だし!!」
なぜ井口に張り合っているのか......俺そんなに取り合いされるような男ではないのだが。そもそもソラには相手がいるのでは?
「雨を運命って言うなら僕も運命なんじゃないの」
どうしてか雲茂さんまで張り合ってきた。
まあ、前からの付き合いだという意味なら
「そうですね、雲茂さんもですよ」
この答えで合っているだろう。
俺の答えに満足したようで彼は珍しく微笑んだ。
「みんな仲いいようで何よりだな!!」
「いや、これお世話係との交流時間ですよね?僕三峰くんと話してないんですけど?」
置いてけぼりにされている二人が言った。
そういえば交流という時間だったな。好き勝手にしているから忘れていた。
「ねえソラ、先輩と話したら?案外いい人かもしれないよ」
「んー......ナルが言うなら......」
ソラを説得すると渋々了承してくれた。
というか前の俺の顔に似ているから複雑な気持ちになる。別に俺は里樹を怖がっていたことはない。
「じゃ、こっちもちゃんと交流しとくか!」
「まあ俺の場合雲茂さんだから交流もなにもないんだけどね......」
俺は隣にいる人を見て言った。
「なにか文句あるわけ?」
「ないです!!」
睨まれたのでこれ以上余計なことは言わないようにしよう。
世界が変わっても俺はこの人には逆らえないようだ。
だが、このやりとりが懐かしくていいと思っている自分がいる。
「うむ!俺は井口と話をするとしよう!!雲茂は疲れているのなら休むといい!」
またニカッと眩しい笑顔を浮かべて井口の手を引いて離れて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます