第48話:え?・・・誘拐?
健斗にパン、吉岡君にロゼ。
みんなそれぞれが大きなトラブルやアクシデントもなく、つつがなく暮らしていた。
ベンジャミンは自分の世界には帰らず、まだ健斗のアパートに残っていた。
ベンジャミンが開けたゴミ箱の出入り口から未だに怪しいやつらが出入りしていた
ので見かねたベンジャミンは結界を張ったが、あまり効き目がなかったのか、相変
わらずゴミ箱から怪しげなやつらが出たり入ったりしていた。
健斗はそのことだけ気にかかっていた。
ある日、健斗が大学から帰って来るとパンの姿もベンジャミンの姿も見えな
かった。
「パン、ただいま」
・・・・・・なんの返事もない。
「おかしいな、いつもならパンが飛び出してきて抱きついてくるんだけどな・・・」
狭い部屋だ・・・一目見て誰もいないことが分かる。
「パン、ウンコしてんのか?」
トイレかと思って声をかけたが返事がなかった。
しばらく待ってみたが、帰って来たのはベンジャミンだけだった。
「ベンジャミン、パンといっしょじゃなかったのか?」
「ワテは知りましぇんよ」
「じゃ〜パンはどこへ行ったんだ?」
「もう一人で外出できまふからねパンさんは・・・」
「でも、俺に黙って外出するなんてことないと思うんだけど・・・」
大家さんちかと思って覗いてみたがパンはいなかった。
夜まで待ってもパンは帰ってこずその晩一晩・・・健斗はパンが心配で一睡も
しなかった。
だが朝まで待ってもパンは帰ってこなかった。
多少は寝不足だったが、次の日がちょうど土曜日で大学も休みだったから多少寝不足でも気にはならなかった。
健斗は、にわかに心配になった。
「行方不明で捜索願を出すのもちょっと早い気がするよな」
パンはいったいどこへ行こうって言うんだろう。
「まさか俺との暮らしに飽きて自分の世界へ帰ったんじゃないだろうな」
そしたらベンジャミンが言った。
「捜索願を出す前に、ワテのワタリガラスに探させまひょうか?」
「なにか分かるかもれふ」
「あ〜悪い・・・このままじゃ何も手につかないよ」
今まで勝手に外出したのは一回だけ・・・しかも今度は朝まで帰ってこないって?
で結局、ワタリガラスが聞き込んできた話によると、どうもパンは自分の世界に
いるらしいことが分かった。
正確に言うと自分から帰ったんじゃなく異世界の誰かに誘拐されたんじゃないかと
言うことらしい。
「ゆうかい・・・?」
「誘拐って?・・・誰が?・・・なんのために?」
「おそらくエマ様でひょうな」
「そんなことする人って他に考えられましぇんし・・・」
「これまでもレブレスを来させたりロゼさんを来させたりしてまふからね」
「エマ様って嫉妬深い方れふからして・・・」
「あの方は、つねに夫ゼヌス様の愛人を迫害する嫉妬深い妻で有名でしてね」
「ゼヌス様の愛人が出産するって聞いたエマ様は全土の地域や島にお産の場を
提供することを禁じたり、助産婦さんにも助産に行かせないようにしたそう
れふよ」
「他にもゼウス様が別の女神様を愛したときには百眼の怪物アルゴスを監視につけ、
アブを放って悩乱させたこともあったし、ゼヌスと女神アルクメネ様の子ヘラクレスを一生迫害し続けたりとそういう嫉妬に狂った話は枚挙にいとまがありましぇん
からね」
「エマって歳がいくつか知らないけど恐ろしいおばさんだな」
「でもさ、一番悪いのはゼヌスじゃん・・・浮気ばっかしてるからだろ?」
「まあパンさんに関してはまだいいほうれふ・・・今のところただの嫌がらせでひょうからね」
「そんな話聞かされたら余計パンのことが心配になって来た」
「と同時にたった今、そんな怖いおばさんに会いたくないって思ってるかも・・・」
「どっちにしてもパンさんが誘拐されてるなら彼氏の責任として助けに行かないと
いけましぇんれふね」
「簡単に行ってくれるよ」
「パンやベンジャミンの世界になんか一度だって行ったことないんだぞ」
「俺が百戦錬磨の勇者とか魔法使いとかなら喜んで危険に立ち向かって行くけどな」
「未知の世界へ行かなきゃいけない俺の気持ち分かるよな」
「ビビってんだけど・・・」
「まあそれが本音でひょうが・・・パンさんを見捨てることできまふ?」
「それが難しいところなんだよな」
「もともとは俺ひとりで悠々自適な生活を送ってたんだからな・・・」
「そこへパンが現れて俺の生活空間の中に入ってきて一人の時間を台無しにしてくれたんだもんな」
「それ以来セックスに明け暮れる日々で好きなゲームもできてないんだ・・・」
「台無しって・・・そんなこと聞いたらパンさん、泣きまふよ」
「薄情な人ですね、健斗さんは・・・」
つづく。
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