第36話「暗転」
*
先日、使用していたパソコンが、急に暗転して動かなくなった。
サポートセンターに電話しようにも、買い替えが必要ですねと言われた。
そもそも購入してからほとんど毎日と言って良いほど使用しているし、
加えて最近は、
そろそろ寿命だろうな、とは、心のどこかで思っていた。だからこその週1のバックアップを取っていた。
作家志望にとって、原稿のデータというものは、時には命より大切なものである。
過去に一度、似たような出来事で全ての原稿データを失ったことがある経験から、定期的にバックアップを取るようにしていた――のだが。
遂に昨日、その日がやってきてしまった。
恐らく、機械関係は門外漢の私でも、これは買い替えが必要だなと分かるような壊れ方であった。
いくつもの試行錯誤の末、電源ボタンを押しても起動しなくなってしまった。
驚くほどに、驚かなかった。
この私小説も、ポメラDM250を使って執筆している。
執筆できるということは、それだけの余裕があるということでもある。
この物語を書き始める時に最初に述べたが、物はいつか終わるものである。
それが丁度先日のその瞬間だった、というだけで。
それは、仕方のないことである。
私は、そう思っている。
むしろここ数年間の毎日の打鍵連打に耐えてきてくれたことを、賞賛するべきだろう。
共に歩んできた機械――仲間と表現するのは少し歯痒いところがあるけれど、タイピングのしやすさはかなりのものであったし、ほとんど小説執筆以外に使わなかったために、長持ちしてくれたのだろう。
無論、機械に心は宿っていないことは分かっている。
大切に扱ってきたものに魂は宿らないことも、承知の上である。
人間とは構造が違うのだから、当たり前である。
いつだって何かを思うのは、生きている人間の側なのだ。
人間が、そこに魂が宿っている、と勝手に思い込むことによって、まるでそうであるかのように錯覚させる。
分かっている、分かっているつもりだ。
それでも、今日くらいは。
そんな錯覚に心を
(続)
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